労働者に向かい風
 ―経済不況で募る雇用不安

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年1月

経済状況が深刻さを増すにつれ、雇用不安も増大しつつある。NESDB(国家経済社会開発委員会)の2001年10月の予測によると、2002年には失業者が170万人に達し、失業率も5%に達するのではないかと見られている。

2001年前期の各産業の解雇者数は約4万7000人(下記表を参照)、最も解雇者が多い産業は、輸出不振が最も深刻な電気・家電産業で、約9000人のリストラが行われた。建設業でもほぼ同数の労働者が解雇されている。

政府の対応

失業問題が深刻化する中で政府は、雇用創出、職業訓練、中小企業促進のために58億バーツのプログラムを実施すると発表した。具体的には、首都バンコク周辺に4つの職業訓練施設と労働に関する相談所を設け、既存の9つの施設を補完することや、自営業や在宅での事業開始を支援するための基金の設立を構想している模様。

また、新政権下で進められている「一村一品」運動も農村部での雇用創出に期待が集まっている。

民間企業の動き

18分野1200人の民間企業代表者および政府関係者らが集まって行われた2001年10月11日の経済セミナーにおいて、収益が前年比10%ダウン程度になることを予測しながらも、各民間産業の60%以上は「雇用確保は可能」であると考えていることが明らかになった。

輸出減退が最も著しい電気・家電産業では、ウドン家電・電気産業クラブ会長が「2002年の業績は2001年よりも好転し、日系企業においては現在抱える80万人の雇用は約10%程度増加するのではないか」と楽観的な予測をしている。また同氏は、アセアン自由貿易協定(AFTA)開始後は、関税障壁が低くなり家電製品の輸出が増加すると見込んでいる。

自動車産業では、タイ産業連盟(FIT)自動車産業クラブのニンナート会長が、「2001年の同産業の業績は安定しており、当初の販売目標数値を達成できそうである」と述べ、雇用の削減はいまのところ予定していないとコメントしている。

雇用創出の期待が持てる分野

労働・福祉省スリン技能開発局長は、このような経済不況の中でも、タイの農工業が成長しつづけている点を指摘。この分野での先行きは明るいと見ている。

また産業省のスタポーン・アドバイザーは、靴、皮革、機械、農業、セラミック、自動車部品、宝石、宝飾品などでは2002年にも成長が見込まれる分野であると発表している。

しかし一方で宝石産業関係者によると、同産業に従事する150万人の労働者のうち、80万人から100万人、特に未熟練労働者と契約社員が雇用喪失の危機にあるのではないかと危機感がもたれており、政府と民間との雇用に関する予測の温度差が感じられる。

新卒者の就職氷河期

前述のNESDBの予測によると、170万人に上る失業者のうち、50万人は新卒者の未就業者であると見られている。2002年の新卒者は全国で70万人と見込まれており、そのうち就職内定者は20万人程度なのではないかと推測されている。

しかし、本誌2001年12月号でもお伝えしたように、スキルと経験をもたない新卒者の就職は大変厳しく、宮沢基金をもとに行われた98~99年に実施された新卒者臨時公務員採用を再実施する必要性を訴える声もある。

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