ドイツ経済、景気後退の瀬戸際
―6大経済研究所、秋季景気・労働市場予測を発表
6大経済研究所は2001年10月22日発表の秋季景気・労働市場予測で、世界的な景気の減速傾向の中で、米同時多発テロの衝撃による不透明性も加わり、ドイツ経済は景気後退の瀬戸際にあるとの診断を示した。
6大研究所は、世界の景気後退要因は既に存在しており、テロが直接もたらした影響ではないとしながら、テロの直接・間接の影響で景気回復に対する負担と不安が増大していると述べ、テロの米国並びに世界経済の成長にたいする消極的影響として、(1)9月11日以後に産業部門全体で生産が直接妨げられたこと、(2)企業と消費者双方の不安心理が増大したこと、(3)このような心理も原因となって解雇の増大のような結果が生じたこと、(4)安全保障と防衛強化のための継続的なコストが増大すること、の四つを挙げている。このような状況の中で、同研究所は、米国の景気後退は避けられないとしており、また、先進産業国全体の成長率についても、2000年の3.4%に対して、2001年は0.9%、2002年は1.4%と予測している。
6大研究所は、このような世界経済の減速とテロの影響を受けて、ドイツの国内総生産(GDP)の成長率について、2001年度は前年比で僅か0.7%の上昇に止まるとの予測を示し(これは4月の春季予測2.1%からの下方修正である)、景気後退の瀬戸際にあるとの判断を示した。
しかし、2002年度については、同研究所は、これ以上米国その他の諸国でテロが起こらないこと、米国と同盟国の軍事行動が時間的にも地域的にも限定されたものに止まること、原油の供給が妨げられないこと(価格が高騰して1バレル25ドルを超えない)等の条件を付したうえで(この条件が前提であることを強調している)、同年前半に世界経済が漸進的に回復基調に転じるとの予測を示し、この関係でドイツにとっても外需は拡大し、内需も活発になり始め、GDP成長率は緩やかに上昇して1.3%になると予測している。
労働市場については、6大研究所は、このような景気予測との関連で楽観視を戒めており、2001年度の失業者数は384万5000人(年平均)と予測し、2002年度については、景気回復の効果が労働市場に及ぶのは年度後半になってからで、失業者数は若干上昇して386万人になるとの予測を示している。そして、雇用の拡大を企図して派遣労働等の改正を盛り込んだ雇用積極法(Job-Aktiv-Gesetz)も、雇用の増大には大きくつながらないとしている。失業率については、ドイツ全体で2001年は9.0%,2002年は9.1%になるとしているが、地域別では、2001年と2002年は、西独地域で各7.4%,東独地域で各17.1%, 17.2%としており、依然東独地域で西独地域の2倍を超える高い失業率が予測されている。
このような労働市場についての見通しから、同研究所は、労働組合が2002年度の賃金協約交渉を純然たる賃上げ闘争にするとしていることを批判し、過去数年間ドイツで雇用が増大したことは、基本的には控え目な賃上げの成果であったと強調している。
他方、財政政策との関連で、6大研究所の多数意見(世界経済研究所を除く)は、税制改改革法(本誌2000年10月号Ⅰ参照)による減税措置の2004年から2003年への前倒しを提言している。多数意見は、政府は財政政策で中期的には財政均衡に配慮すべきだが、厳しい景気状況のもとでの財政政策としては、内需の拡大を図り、景気を刺激するために、2003年に実施する135億マルクの減税を2002年に前倒しすべきであるとする。もし政府が財政赤字の削減にこだわって前倒しに反対し、あくまで財政赤字の国内総生産に対する割合を、2001年度は1.5%、2002年度は1%にするという従来の目標を厳格に貫くと(EUに通知した目標値)、内需を弱める過度な緊縮財政をしくことになる。ここから多数意見は、政府は財政均衡を図るためにはむしろ歳出の構造に着目し、比較的支出の多い疾病保険給付の削減を図るなどして、減税の前倒しと財政赤字の削減の両立を図るべきだとする。そして多数意見は、減税の前倒しをしても、歳出の増額を中期的に名目GDPの上昇率以下に押えるならば、2004年には構造的な財政赤字はほぼ解消できるとしている。財政赤字のGDPに対する割合自体については、6大研究所は、2001年度が2%、2002年度が2.5%との予測を示している。
6大研究所のこのような提言に対して、野党と経済界の多数は、特に減税の前倒しに賛成している。ミヒャエル・ロゴフスキー産業連盟(BDI)会長は、これによって財政赤字のGDPにたいする割合を定めるEUのの基準に反することにもならないと述べている。これに対して、連邦政府は改めて前倒しに反対し、ハンス・アイヘル蔵相は、2001年度だけでも税制改革によって450億マルク相当のの景気刺激が与えられるから、減税の前倒しの必要はないとしている。一方、労働組合側は、減税の前倒しの代わりに公共投資の増額を要求し、東独地域のインフラ整備や自治体の諸設備の現代化等に、さらに追加的な投資が必要だと述べている。
ちなみに、シュレーダー首相は10月23日、6大研究所が景気後退の瀬戸際にあるとの見方を示したことに応答し、経済状況は一時的な低迷にはあるが、経済は成長しており、景気後退の恐れはないとの見方を示している。
2002年1月 ドイツの記事一覧
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