失業率5.4%
―サービス産業で記録的な雇用減少

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2002年1月

経済減速に追い打ちをかけた同時多発テロの影響で、2001年10月の失業率は9月の4.9%から1996年12月以来最も高い水準である5.4%に上昇した。非農業部門の雇用者減少数は1カ月に41万5000人で、1980年5月以来、最も大きな減少幅となった。雇用者数の減少は大部分の産業で起きている。

製造業で多くの企業が人員削減を実施している状況は変わっていない。工場労働者の雇用者数は15カ月連続で減少し、2000年7月以来、130万職が失われた。10月には、電子機器産業(2万2000人)、工業機械(2万1000人)で大幅に雇用者数が減少した。これら2産業が、2000年7月以来の工場労働者の雇用減の約3分の1を占めている。また、自動車製造業でも10月の1カ月間で2万1000人の雇用者数が減少した。

サービス産業では、10月に雇用者が11万1000人減少した。これは、1939年に同統計を記録し始めて以来1カ月としては最大の減少数である。派遣先での求人意欲の低下から、人材派遣業では10万7000人雇用が減少した。9月11日の同時多発テロ以降、雇用が顕著に減少したのは旅行関連業界で、ホテル業で4万6000人減、レンタカー、駐車場といった自動車関連サービス業で1万3000人減であった。2001年にこれまで約25万人の雇用増を記録している医療サービスの雇用増も小幅に止まった。教育、社会奉仕では雇用が増加した。

小売業では、1カ月に8万1000人雇用が減少した。その約半分は飲食店で起きており、7月以来、計11万5000人の雇用が減少している。

同時多発テロの影響を直接受けた航空業界では10月の雇用減は4万2000人、旅行代理店を始めとする運輸サービス業では雇用減が1万1000人となった。

多くの新規失業者は、就労期間が短かすぎたり、あるいは所得が少ないため失業保険受給資格を持っていない。以前に比べ、失業保険受給要件が次第に厳しくなったこともあり、労働省によれば、新規失業者の半分に失業保険受給資格があった1950年代とは対照的に、1990年代には3分の1の労働者しか受給資格を持っていなかった。

主要企業の人員削減策発表

報道や企業の発表にもとづき、ワシントンポスト紙は、同時多発テロ(9月11日)以来、10月31日までの主要企業の人員削減予定数を集計した。

それによると、航空業界(11万8240人*:以下、*印は、他にも発表された削減があるものの調査時点で確認がとれたものに限った数字であることを示す。)、防衛および航空宇宙産業(4万650人)、金融業(1万900人)、ホテル業(1万2100人)、製造業(6万2683人)、メディア(758人)、小売業(7583人*)、科学技術産業(7万6987人*)、旅行業(2844人)、運輸産業(400人)。ただし、この中で航空業界の人員削減数には、カナダ航空5000人、ブリティッシュ・エアウェイズ社7000人など外国籍の航空会社がいくつか含まれている。

この中で注目されるのは、科学技術産業の中で、アルカテル社(7月の2000人削減に続き、10月3日に米・仏・英で光ファイバー部門など3038人の追加削減を発表)、コーニング社(10月4日に4000人削減を発表)、モトローラ社(10月10日、2001年に既に発表された3万2000人に加え7000人)、スプリント社(10月17日、6000人の社員と1500人の契約社員)、ベル・サウス社(10月18日、3000人)など、電気通信関連産業の多くの会社が、引き続き人員削減を行っていることである。自動車産業では、ダイムラー・クライスラー社が10月12日に2700人(1600人の生産労働者、1100人のホワイトカラー)の人員削減を発表している。

ニューヨークの調査会社ISIグループは、10月に主要企業が発表した人員削減数を集計し、24万1229人を数えた。これは9月よりも多く、その大部分は今後何カ月にもわたって実行されるため、今後の失業率を押し上げる要因になる。

労働者の所得減少を懸念

多くのエコノミストは、2002年初めに失業率が6%を越えると予想している。今後、失業しない場合でも、多くの労働者の所得が減少する恐れもある。10月には、これまで増加を続けていた民間非農業部門の非管理的職業の労働者の平均週給(季節調整済み)が492.75ドルから491.98ドルへと少し低下した。また、フォード社は、6000人の取締役や管理職に2001年にはボーナスを支払わないと発表した。アーサー・アンダーセン社の調べでは、総じて米国企業は今年のボーナスを昨年のボーナスの2分の1ないし3分の2程度に減額させる見込みである。

時間外労働時間が短縮される可能性もある。2001年の景気減速期にも時間外労働時間は比較的長かったが、10月の雇用統計では総労働時間が1.6%減少と、1982年以来最大の落ち込みを示している。

アーサー・アンダーセン社とコンファランス・ボードによると、今後、医療手当削減や人員削減が見込まれるが、多くの会社で年3~4%の賃上げに相当する業績給については、従業員の志気を維持するため、2002年に削減しない方針の会社が多い。

景気刺激策はなお調整中

下院は10月24日、共和党主導で1000億ドルの景気刺激法案を成立させた。この法案は、基本的にはブッシュ大統領案(本誌2001年12月号参照)に近いが、資本集約的な大企業や個人への減税などが中心である。

これに対し、民主党が多数派を形成する上院では、民主党議員が労組の意向を反映して総額900億ドルの法案の中に、(1)160億ドルをかけて、失業手当受給期間を13週間延長する一方でパートタイム労働者にも失業手当受給資格を拡大、(2)在職中に企業が提供していた医療保険を退職後にも一時的に継続する権利を与えているCOBRA(1985年制定:Consolidated Omnibus Budget Reonciliation Act, 囲み記事参照)によって失業者が医療保険の継続を選択した場合に医療保険料の50%を補助金として支給し、また州政府所管のメディケイド(困窮者対象の医療保険)受給資格を失業者にも拡大する、あわせて170億ドル規模の施策などが検討されている。さらに上院の民主党議員は公共事業の歳出増などを求めている。

民主党の上院案とすでに成立した下院案とはまだ隔たりがあるため、上院の両党穏健派は減税額を抑制しながら失業者支援にも配慮した妥協案を検討している。政府は議会と協力し、12月上旬までに法案を成立させようとしている。多くのエコノミストは景気刺激策の実施が遅れることを懸念し始めている。

COBRA:大部分(65%)の米国人は企業が提供している医療保険に加入しているため、失業あるいは転職は、企業を通して加入していた医療保険を継続できないことを意味する。COBRAは、離職した企業で加入していた医療保険を通常の場合18カ月間継続する権利を与える。その場合、離職者が全ての医療保険料負担をしなければならないが、COBRAによる医療保険継続のためには、失業し続けなければならないわけではなく、再就職後も以前の医療保険を継続することができる。COBRAが適用されるのは、医療保険を企業が提供している、従業員が20人以上の企業のフルタイム従業員および一定の条件を満たしたパートタイム従業員である。医療保険が従業員の家族をもカバーしている場合には、COBRAのもとで家族の医療保障も継続されることになる。

しかし、医療保険を企業が提供しているのは、経営に余裕のある企業であり、従業員数による制約もあって多くの中小企業の労働者はCOBRAの対象外になっている。またCOBRAのもとでの保険料は、比較的安価な家族医療保障付きの保険で2000年に月400ドルといったところで、多くの失業者にはやや負担が重い。全失業者のうち7%だけがCOBRAによる医療保険継続を選択しており、これを低所得者(全失業者の56%)に限ってみると、5%が選択しているに過ぎない。55歳から66歳の人に限ると、現在、86%の人が何らかの医療保険に加入しており、66%は企業が提供する医療保険に(従業員、退職者およびその家族として)、13%が公的医療プログラム(メディケイド・メディケアなど)に、7%が民間の個人医療保険に加入している。そのため、COBRAがある現在でも、雇用と医療保障とは密接な関係があり、離職後の医療保障が労働者の重大な関心事になっている。

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