ルフトハンザ航空スト、ケンジャー元外相の調停で収束

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年9月

ルフトハンザ航空で、 2001年2月初めから会社側とパイロット組合の賃上げ交渉を巡る話し合いが難行し、 度重なる協議にもかかわらず、 ついに2000年5月10日、 創業以来初めてパイロット組合が丸1日のストを決行し、 500便以上の欠航と遅滞が生じることになった。

その後の交渉もまとまらず、 5月後半に調停に付されることになり、 調停者としては大物政治家のハンス・ディートリヒ・ゲンシャー元外相が選ばれ、 2週間の調停の後に会社側とパイロット組合の妥結を見ることになった。 しかしこの間、 IGメタルやVerdi等の有力産別労組からのパイロット組合に対する批判が相次ぎ、 2002年の労使の賃金協約交渉にも影響を及ぼす情勢となってきた。 以下この紛争の経緯、 結果、 影響・問題点の概略を記することにする。

(1) 経緯

約4200人のルフトハンザのパイロットで構成するパイロット組合(VC)は、 ドイツで主流の産業別労働組合でなく、 例外的な職業別労働組合であるが、 会社側に対して過去10年ほどの賃金凍結の埋め合わせとして、 平均35%の賃上げ要求を行った。 組合側は、 1992年の会社の経営危機とリストラに際して、 賃上げに関してパイロットも譲歩を行い、 それ以後賃金が凍結されていたのだから、 他の産別労組の過去10年ほどの賃上げ率と比較してもこの要求は法外な要求ではないとし、また航空業界の国際的な比較からもこの賃上げ要求は正当であるとした。 さらに組合側は、 仮に30%の賃上げでも、 全生産コストの1.5%に過ぎないから、 会社の利益を害することにはならないとした。

これに対して会社側は、 組合の賃上げ要求は法外で、 5月の初めの交渉段階では、 10~16.7%の範囲でしか賃上げに応じられないとした。 会社としては、 約5万5000人の客室乗務員と地上勤務職員のために、 Verdiとの協約交渉で2001年度は3.5%の賃上げで妥結したこともあり、 この数字とパイロット組合の要求額の格差を考慮せねばならない事情も存在した。

このような経緯で歩み寄りはなく、 5月10日にルフトハンザの歴史上始めてのストが決行され、 さらに交渉が進展しなければ、 毎週木曜日に丸1日のストが継続されることがパイロット組合によって決議された。

会社側は、 組合に所属しないパイロットを動員するなどして、 旅客のための便宜を図ることに努め、 それと同時にさらに交渉は継続されて、 会社側も新たに条件の改善を申し出たが、 組合側の要求との折り合いがつかず、 5月17日にも再度のストに突入した。しかし、 5月22日に交渉決裂が宣言されるとともに、 調停に付されることで合意に達し、毎週木曜のストはひとまず停止されることになり、 調停者にはゲンシャー元外相が選任された。 同氏は、 ルフトハンザ紛争のもつ意味の大きさとドイツ企業の立地条件に与える紛争の影響を考慮して、 調停を引き受けたとされる。

(2) 結果

ゲンシャー氏は、 1969年から1974年に連邦内相として公共部門労組と折衝した経験もあり、 2週間にわたる調停活動の結果、 以下のような調停案で会社側と組合側は合意に達した。 もっとも、同氏もこのような高額の妥結は一回限りのものだと述べている。

  • 約4200人のパイロットの給与は、 2001年2月1日に遡及して3%、 5月1日に遡及して5%引き上げられる。 2002年5月1日からはさらに2.8%引き上げられる。 これによって2001年と2002年の最初の2年は、 固定給が14.8%引き上げられることになる。
  • さらに2002年と2003年はそれぞれ2月1日から、 前年度の西独地域の平均的な協約賃金の上昇率に応じて、 給与が引き上げられる。
  • この固定給の引き上げのほかに、 会社の業績に応じて、 新たに最大月収2カ月分の年間特別手当が支給され、 2001年 度については2カ月分の支給が確定される。 これによって2001年の賃上げは全体で28%に達する。
  • 調停案にしたがった協約の有効期間は39カ月とする。

(3) 影響・問題点

今回の賃上げ闘争は、 産別労組と会社の紛争ではなく、 ドイツでは少数派の職業別組合と会社の紛争ではあったが、 ルフトハンザのドイツ国内での高い評価と国際的に多発するパイロットの賃上げ紛争の環境の中で、 28%という高額な妥結額は各方面に対する影響も大きいとされている。

既に5月の紛争段階で、 ツビッケルIGメタル委員長は、 個々の職業別組合の他を顧みない職業上の利害に依拠した賃上げ要求は、 ドイツの安定的な産業別労働協約体制との関係で危険であると批判し、 来年度のIGメタルの賃金協約交渉で労組員が高額な賃上げを要求するにいたる可能性を示唆した。 また、 メーニヒ・ラーネVerdi副委員長も、 パイロット組合の35%の賃上げ要求は、 社会共同の安定的な賃金政策と相反するとし、 公正の見地からも問題だとしていた。 さらに金属連盟等の使用者団体も、 職業別組合が産業別労働協約のもつ社会調整的機能を損なうことに懸念を表明していた。

そして、 この調停による高額の妥結結果を受けて、 ルフトハンザの他の部署や他の産業部門に及ぼす影響に対して、 さらに産別労組幹部から懸念が表明されている。 特にルフトハンザの客室乗務員と地上勤務職員は、 先のVerdiによる協約交渉の妥結で3.5%の賃上げを獲得したが、 パイロット組合の高額妥結との格差に対し、 見直しを求める動きに出ており、 また、 9000人を擁する客室乗務員のVerdiからの独立の動きも出ている。

産別労組幹部によると、 職業別組合の利益代表は、 産別労組と比べて小人数ゆえに、 交渉で機敏に対応して組合員の利益を効果的に代表しうるから、 今回のパイロット組合に呼応する動きが出て、 一定の力をもつようになる可能性がある。 そしてこの可能性と産別労組の土台が揺らぐ危険は、 300万人の組合員で構成される大産別労組Verdiにおいて、約1000の異種職業集団を抱えるだけに、 特に大きいとされている。

他方、 パイロットの賃上げ闘争はルフトハンザだけでなく、 国際的な広がりを見せており、 先に米国のデルタ航空での紛争を始め、 エア・フランス、 イベリア航空、 スカンジナビア航空等でも問題を抱えており、 会社との交渉に長けた米国の航空会社のパイロットが各国のパイロット組合にネットで支援する動きも出ている。

今回のルフトハンザの賃上げ紛争は、 このような環境下で生じたものであり、 今後、 ドイツ国内に対する影響と共に、 他国のパイロット組合がルフトハンザで取られた手法と高額妥結に呼応する可能性もあり、 この面からも注目される。

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