アルコール・麻薬中毒社員の増加と企業の対応 ―年間コスト、GDPの8%に
―年間コスト、GDPの8%に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年9月

ブラジルは安価な酒類が容易に入手できることと麻薬が身辺に広がっているために、学校や職場でこれらの中毒が大きな問題になっており、サンパウロ州工業連盟では職場に於けるアルコール・麻薬中毒対策の国際シンポジュームを開いて、企業への情報提供や情報交換を図ることとした。

サンパウロ州衛生局の推定では、ブラジルは毎年、アルコール・麻薬中毒による生産低下や治療のために、GDPの7.9%に当たる480億ドルを支出している。サンパウロ大学の中毒治療情報センターの資料によると、99年に中毒で入院した件数の90%はアルコール中毒で、コカイン中毒が4.6%で第2位となっている。国内にはアルコール中毒者だけで1.200万人がいるものとみられている。

ブラジルにはこの種の中毒が経済と生産に与える損害に関する公式調査はないが、企業内での障害が増加し、社内だけでは解決できないほどの問題に発展していることが、今回のような企業団体によるシンポジュームを開かせる背景となっている。

大手企業では、人員採用に当たって検尿による麻薬使用検査を義務つける企業が増加しており、サンパウロ大学中毒分析研究所に持ち込まれた分析依頼契約は、97年の81社が2001年6月は315社に増加した。

大手企業では中毒者に対し働きながらリハビリを行うところが増加し、治療手段のノウハウ交換や、回復率の発表など、企業内での取り組みは常態化している。アルコール・麻薬中毒者であっても解雇すれば正当な理由なき解雇とみなされ、企業は非常に高い罰則を課される。正当な理由による解雇の立証は大変困難であり、このために可能な限り社内で働かせながら回復させる方法が一般に採用されている。

平均的な例としてサンパウロ首都圏のパウリスタ繊維工業のケースが経済誌に引用されている。それによると、現在6300人の従業員のうち212人が中毒者である。95年以来176人が回復した。回復率は男性44%、女性は49%となった。この回復者が治療を希望した103人を指導している。同社では、もし中毒者を全部解雇して新規採用に変えていたなら経費は4倍かかったと試算している。

他社の例を見ても、中毒者の回復率は大体50%程度となっている。多国籍企業のキャタピラー社では2200人中255人がアルコール、コカイン、マリファナ、アンフェタミン中毒と判定されており、このうち54人が自主的に社内リハビリに参加している。同社の発表によると中毒者の年間労災事故件数と回復した労働者のそれを比べると3分の1に下がり、年間欠勤日数は12.72日から8.65日に下がった。ブラジルでは麻薬中毒者が珍しくないために、有名な多国籍企業でも社員にコカイン中毒者がいることを隠しはしない。

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