節電による影響広がる

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

ブラジルの記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年9月

国内産業の中心地帯である南東部を中心に過去70年間で最大とも目される干ばつに襲われた結果、アマゾン地帯と南端を除く全域に、2001年6月1日から前年同期の使用量より平均20%減の節電義務が課され、社会経済活動に重大な影響が出始めた。6月の節電結果と降雨次第では7月からさらに毎日一定時間の停電を実施すると予告されたり、毎週月曜か金曜日を休日にして経済活動を停止する可能性を政府は研究していると発表されているため、国民の間に不安感が高まり、企業は生産の低下を、また労働者は解雇の心配を強めている(時報2001年8月号参照)。

製品販売が電力消費と密接に繋がっている家電産業では、すでに販売低下をにらんで集団休暇を採用するところが増加している。さらに、節電がもたらす経済の冷え込みを予想して一般消費も落ち込み始めた結果、自動車のような節電と関係のない耐久財まで売れ行きが低下し、自動車部門でも集団休暇に踏み切るところが出始めている。

サンパウロ市の商業協会が商工サービス業573社を対象に行ったアンケート調査によると、義務となっている20%の節電について商業は57%が出来る、43%は出来ないと回答したが、工業は26%だけが出来る、74%は出来ないと答えた。工業にとって電力は重要な生産原材料となっており、電力節約は即減産を意味すると節電義務に抗議している。

企業に「節電が生産や販売に影響を与えると思うか」との質問を出したところ、商業は36%が「影響を与える」、64%は「影響なし」と回答したが、工業は68%が「影響あり」、32%は「影響なし」と答えた。

節電のために従業員を解雇する意向があるかとの設問には、全ての企業が解雇がありうると見ており、労働者の不安を裏付ける結果になっている。このうち商業は、「従業員全体の5%まで」の解雇を想定するところが回答全体の44%、「10%」の想定が25%、「10%以上」の想定が31%であったのに対して、工業は「従業員5%まで」の解雇を想定するところが全体の14%に対し、「10%」は38%、「10%以上」が48%となっており、商業より工業部門の方がより多く解雇が出ると予測している。工業はドラスチックな減産を余儀なくされる、というのがその理由である。また工業の66%は節電による減産が工業製品価格を引き上げると予想しており、節電の後遺症は各方面に拡大しそうな情勢にある。

この調査を担当した同協会のエコノミストの分析は、「節電の影響の中では解雇が最も憂慮され、失業が増加すれば国民の平均購買力は低下し、工業は減産分を値上げでカバーしようとしても売上げを低下させるばかりであろう」と予測。さらに、販売の低下予想は企業の投資計画を先延べさせており、新規投資がもたらす雇用増加期待も無くなりつつある、としている。

電力危機は5年も前から警告されていながら、政府が有効な対策を講じなかったことで、降雨不足と重なって突然の節電義務発令につながった。大統領と政府に対する国民の不満が日々高まっている。

参考

電力危機に対するCUT(中央統一労働組合)の提案(労働側調査員提供資料より抜粋)

電力危機は構造的なものであり、わが国を経済の減速と失業・貧困の増大という状態に導く恐れがある。この危機は国 家の戦略的企画機能の放棄によるものであると同時に、民営化モデルそのもの、ならびに発電・配電システムの新しい民間経営者を規制、監督、統制するという公的機能が衰退したことに起因するものである。

電力部門民営化の前に、政府はこの部門に対する投資を組織的に減少させた結果、電力供給拡大に必要な期間(最 短でも5年以上)の確保が危険にさらされることとなった。本来、発電・配電システムの拡張への融資として回せたはずのBNDES(国家社会経済開発銀行)の資金は、電力部門の公営企業を買収する際のコンソーシアム(企業連合)形成を 支援するために利用されてしまった。

民営化の後、ANEEL(国家電力局)は70パーセント台の実質的料金値上げは許可したが、電力供給サービスの普及、 料金の引下げ、質について明確な目標を設定せず、また、民営化済みの企業への投資、火力発電への投資、ならびに自 家発電および既存公営発電所の能力拡張プロジェクトへの投資の必要性を無視した。これは予期された悲劇であり、CUTは無数の機会にこの問題に対して当局の注意を喚起した。

こうした状態から、わが国の経済成長と労働市場に及ぼす可能性のある負の影響を排除することのできる緊急対策を提案する必要性が、社会全体に課されている。また、我々は、政府の政治的決定によってまたしても労働者が苦しみを受けることになるのは容認できない。

こうした予期された電力危機を前に、CUTは次のことを提案する。

  1. 電力供給制限(電力配給制)が継続する間、全労働者のために雇用を安定させること。そのために、我々は、政府が雇用安定の確保を目的とする法案を緊急に国会に上程するよう要求する。
  2. 商業部門、工業部門、サービス部門および公共部門の全労働者に対して、賃金を削減することなく、週間労働時間を最低10パーセント削減すること。
  3. 階級団体(経営者団体と労働者団体)が判断する緊急状態を除いて、時間外労働を禁止すること。

関連情報