新医療制度導入に続き、「農村基金」が7月からスタート

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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2001年2月の総選挙の公約としてタクシン首相率いる愛国党は、①新医療制度の実施②農民債務繰り延べ③「農村基金」の設立を掲げた。①の新医療制度が2000年4月に導入されたことに続き③「農村基金」が7月より開始される。

「農村基金」とは、全国7万7000の村を対象に、それぞれ100万バーツ(1バーツ=円)を原資とした基金を設立し、主に農閑期に家内工業などによる物産の製作や販売によって所得向上をはかろうとする農民に融資を行う制度である。タイでは農村部の人々の大半は農業に従事しており、農閑期の雇用創出と所得源の確保は長い間の課題とされてきた。

同基金の仕組みとしては、①農民が融資に対する申請を村内から選出された15人からなる「農村委員会」に提出、「農村委員会」で申請を審議、認定、③県の農村基金委員会からの承認、④政府系銀行(The Government Savings Bank)より融資、⑤年利3%で返済、となっている。

通常、小規模農家は、肥料や種子など農業生産に必要な物資を購入する元手を高い利子の借り入れ金に頼っている。

で債権者に返済をしていた。収穫物は、債権者に買い取ってもらうのが慣例となっているので、時に不利な価格で取引されることが少なくない。そのため、同基金農民がグループで貸し出しを受け、必要な物資の購入に充てることにより、農民の所得向上に役立つと見られている。

過去の教訓

タイでは、同様の農村プロジェクトがかつて実施されたことがある。1993年には内務省の指導の下、4年間の「貧困緩和基金」が設立され、選別された1万1608村に政府は33億バーツの費用を投じた。また、チュアン前首相時代、同様に10万バーツの5年間無利子の融資が行われた。

これらの「農村基金」は特筆すべき成果を挙げられず、農民の生活水準も改善せずに終了してしまった。政府の政策にも問題点があったが、農民側も資金が無利子だったため、

援助資金であるかのような意識をぬいぐえず結果として資金を効率的に利用できなかった。

批判点

しかし、農民側からは多くの不満が出ている。タイ農民財団のアソーケ代表は、多くの農民が今回の構想を、1970年代半ばのククリット政権の「農村基金」や近年の日本からの援助で行われた「宮沢基金」と同様のものと勘違いしている点を指摘。「政府は、政策実施とともに、農民にこの基金があくまで年利3%の融資であることや、農村基金委員会に承認された製造業に対してだけ融資が行われるといった重要なポイントを理解してもらう必要がある」と述べている。また、タクシン首相の公約にあった農民の債務繰り延べ政策も、債務額が10万バーツ以上かつ農業協同銀行(BAAC)から借り入れている農民だけに限定されることとなり、あくまで限定的な農民救済策であることを強調した。

またNGOからは、村人の中で権力のある者が仲間内で農村委員を決め、その中で資金を配分してしまう恐れがあるため、汚職や縁故主義(クローニー)につながるとの批判も上っている。

全国に1万1650の共同体のメンバーを持つ共同組織開発機構(The Community Organizations Development Institute)のセムソック代表は、政府は農村基金だけではなく、同時に農民の貯蓄と預金をコミュニティー単位で増やすように働きかけることが必要であることを指摘している。

これに対してタクシン首相は、「村の人々は公平に資金を運用する能力があると判断しており、農村委員会の人選も自由に行うことに意義がある」と反論している。そして、資金が有効に使われ、農村の雇用創出と所得の向上に役立つことを期待し、「宮沢基金」のような失敗は繰り返さないようにとコメントしている。

関連政策として、2002年10月1日からは「一村一品運動」が7850村で4年間にわたり実施される。工業促進局ルケアット副局長は、このプロジェクトにより少なくとも10万8000人の雇用創出と、1人あたり年間2万4000バーツの所得増加を見込んでいる。

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