セミナールーム
スウェーデンの労働組合の動向と政治的展望

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

スウェーデンの記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年7月

Birger Viklund
研究側調査員・スウェーデン労働生活研究所

はじめに

デンマーク、フィンランドとともに、スウェーデンの労働組合組織率は世界で最高の水準にある。その理由は、スウェーデンの労働組合が経済の構造変化に合わせて、そして使用者の組織変更にも対応しつつ、何とか自らも変化を遂げてきたところにある。ブルーカラー労働組合の数は戦後の時期に合併によって半数以下に減少したが、その再編成の動きは現在も続いており、今ではブルーカラー、ホワイトカラー、専門職の各労働組合の垣根を越える動きがある。ナショナル・センターの役割は団体交渉以外にも拡大している。

北欧の諸労働組合は、保険の分野で幅広い多くのサービス――失業保険から疾病保険、年金、団体生命保険、団体住宅保険まで――を提供している。これがおそらくは労働組合組織率が高い主要な理由であろう。現在は、個別化する賃金決定に対する関心が強まってきたことに対応して、技能向上、能力開発、キャリア・コンサルティングの分野へ目を向ける労働組合が増えつつある。

変化する労働組合の構造

(1)中央集権構造型交渉からの移行

労働組合は使用者の組織変化に対応していかなければ、影響力を失ってしまう。建設部門の2つの職業別労働組合を除き、スウェーデンのブルーカラーの諸労働組合は産業別労働組合主義の原則を採用してきた。しかし、ホワイトカラーでは今でもまだ多くの職業別労働組合があり、全国レベルの団体交渉では連合組織に協力する。学術部門の労働組合はSACO(大卒専門技術労働者労組連合)に組織されているが、基本的には個別賃金交渉に賛成の立場をとっている。最近は使用者の戦略が変わったため、LO(スウェーデン労働組合総同盟)、TCO(職員労働組合連合)、SACO、の3つの労働組合連合の諸労働組合は、組織の形と代表方法の両方について再考を余儀なくされている。

第2次世界大戦中は、不利な外的条件の下で労働市場の平和を保つために非常に中央集権的な賃金交渉を行う構造が必要であった。このことから中央の全国組織、主としてLOとSAF、が重要な役割をもつことになった。戦後、SAFは支部レベルでの争議を排除し、早期に中央で合意に達する形式を正式なものとすることを望んだ。そこでは、実際の労働協約が交渉され、同時に政府を交渉の場から外すものでもあった。LOとその加盟組合は、中央集権化されたシステムであれば全国レベルでの賃金決定システムをつくることができ、最低賃金の水準を上げることができると同時に、産業の諸組織間に存在した賃金格差および工業とサービス部門の間に存在した賃金格差を縮めることができると考えて、この中央集権体制を受け入れた。実際に、連帯的賃金政策のための中央賃金交渉は、積極的労働力政策と総合福祉制度とともにスウェーデン・モデルの主要な要素となった。そしてこれが、諸労働組合による産業の構造変化の推進を可能にした。

労働組合の構造も新しい状況に順応した。数年の間にLOの全国の48の組合が24の産業別労働組合に合併され、現在ではその数が18になり、まもなくさらに減少する予定である。同時に、ホワイトカラーと専門職の労働組合がブルーカラー労働組合よりも速い成長をみせた。公共部門における雇用が急速に増大し、LOとSAF両方がカバーする領域の外にある労働組合と使用者団体の両方が、国の政策決定においてより大きな役割を望むようになった。このような状況下で1930年代末からずっとコーポラティスト・システムの中で、中央における賃金交渉役としてSAFが担ってきた国の政策決定に対する責任を、SAFはもはや取ることができないと判断したのであった。

付け加えておかねばならないが、使用者側全体とホワイトカラーと、専門職の労働組合は、LOの連帯的賃金政策に非常に不満であった。この連帯的賃金政策は、また一層複雑な賃金ドリフト制度を通じて維持されてきており、生産性の向上をはるかに上回るレベルでの賃金決定につながるもので、ひいては賃金インフレと実質所得のマイナス成長という結果をもたらすものであった。

SAFの中央賃金交渉からの撤退は、下部組織に対して大きな力をもたらした。中でも最も力を強めたのが、エンジニアリング、化学、林業の産業別組織である。賃金交渉における主導権がナショナル・センターのような組織から産業の下部組織に、そして諸産業の労働組合に移った。この進展の結果は最終的に、産業下部組織と、LOの金属、化学、森林、食品、紙工業の各労働組合、TCOのSIF(事務・専門職従業員組合)、およびSACOの土木技師労働組合、との間の産業別労働協約となった。この協約は全部で80万人の労働者をカバーする。この協定により3つのナショナル・センター傘下の諸労働組合が結ばれることになり、今や産業部門のLOのブルーカラー労働組合にとっては、ブルーカラーの公共・民間部門サービス労働者と自分たちを同一視するか、それとも自分たちの同僚であるホワイトカラー労働者の方により強い親近感を抱くか、ということが論議となっている。

(2)組織統合の動き

産業部門労働組合に新しい権力が与えられたことで、公共・民間のサービス部門の諸労働組合も数と政治力において工業部門労働組合に均衡できるようなブロックへと再編せざるをえなくなった。そのようなブロックの中にはナショナル・センターの境界を越えるものもでてきている。労働組合運動を再考すべき理由のもう一つは、公共サービスの民営化である。「民営化された」都市職員は、地方自治体の公務員であった時の職務と全く同じ職務を民営化後も継続する場合には、どちらの労働組合に所属すべきであろうか。このジレンマが、TCOの3つの組合、すなわち政府労働者労働組合であるST、地方自治体のホワイトカラー労働組合であるSKTF、ホワイトカラー・サービス労働組合であるHTF(商業俸給労働者組合)、に合併を考えさせることとなった。このTCOトリオにLO労働組合の一つである公的保険機関労働組合も加わった。公的保険機関労働組合は、コンピューター化と強力な管理部門スリム化等によってこの数年間に1万人余りの組合員を失った。現在は、学卒の新規雇用労働者のみを採用する方針をとっている。すなわち、新規の組合員は全員、既にSACOの労働組合のメンバーである。SACOはTCOとの競争において、大学生のリクルートに強いからである。4つの組合の合併は慎重かつ民主的に計画され、正式には2001年の組合総会で決定される。そして合併が発効するのは2003年1月1日である。新しい労働組合は組合員数が約45万人になる。

LOの地方自治体労働者の労働組合であるSKAFは組合員数が60万人で、工業分野の労働組合を合わせたものと同じ力を持てるだけの規模を有しているが、さらに2万人の農場労働者を加えることになっている(この農場労働者の大部分は地方自治体の環境関連業務の仕事に携っている)。

Handels(小売業・倉庫業労働組合)の労働者は、運輸および一般労働者労働組合との合併を検討している。これが実現すれば、商業と輸送部門の24万人を擁する強力なブルーカラー労働組合ができる(運輸業労働組合は伝統的にガソリン・スタンドの組織であったが、これらのガソリン・スタンドは最近、実際のところ食料品・雑貨店になっている。営業時間や超過勤務手当に関する規則を調整する必要があるが、通常の小売店労働者とガソリン・スタンドの労働者が同じ労働組合に所属すれば、これを最もうまく行うことができる)。

LOのビル管理労働者労働組合は、地方自治体労働組合か、もしくは郵便、鉄道、電信、道路、刑務所役務に携る政府従業員の労働組合であるSECO(LO傘下の労働組合)のいずれかとの合併を検討中である。BMWUに組織された清掃会社の大部分は公共建物の仕事を行っている。

教員の労働組合としてはTCOとSACO内に次の5つの組織がある。即ち、SACOの大学教員労働組合、TCOの学校長労働組合、SACOおよびTCOの大規模な小・中・高等学校全教員労働組合、それにTCOの小規模な国民高等学校(folk high school)教員労働組合である。もし30万人の組合員を擁する1つの組合に合併すれば、教職員は教育政策に対して非常に強い影響力を持てるであろうし、またその教職員の一般的な地位を上げることも可能であろう。そうすれば賃金の引き上げも容易になると同時に、採用の改善も促進されるであろう。

数年前、軍労働者の3つの労働組合が1つに合併し、軍曹から大将までの全員のための労働組合となった。現在はこの職員労働組合と警察の労働組合と税関の労働組合の合併が検討されている。この3つが合併すると、法と秩序の問題に関して強い発言権をもつ組合員5万人のブロックが形成されることになる。

TCO内部では、銀行員の労働組合が民間保険会社従業員の労働組合との合併を交渉している。民間保険会社従業員労働組合は、SACOの専門職労働組合である法律専門家の労働組合や企業管理職の労働組合をも引き付ける可能性がある。

労働組合活動を共同で行うことが合理的と考えられる分野は、SACOの医師労働組合およびTCOの看護婦労働組合など、ケア部門である。SACOの心理学者、職業セラピスト、物理療法士の各専門職労働組合が統合され、17万人の従業員グループが形成されるが、今のところはその動きはない。分野によっては、職業的なプライド、階級、伝統などがなかなか乗り越えられない壁となっている。このことはブルーカラーの分野においても見られる。1912年という早い時期に、LOの組織計画は塗装工と電気工を建築労働者の労働組合に入れたが、彼らは2000年においても未だにそれぞれ独自の職業別労働組合である。

組合員数の発展(1999年~2000年)

LO
全国労働組合 組合員数  
地方自治体労働者(SKAF) 595,193 -13,805
金属労働者労働組合(Metall) 412,233 -5,837
オヴェメント従業員組合(SECO) 172,616 -7,655
小売業、倉庫業(Handels) 167,703 -4,260
建築および建設業(Byggnads) 133,102 -2,922
化学産業労働者(Industrifacket) 95,755 -1,371
運輸および一般(Transport) 71,403 -1,917
森林労働者(Skog&Tra) 64,507 -2,97
ホテル、レストラン労働者 61,069 -150
食品労働者組合(Livs) 58,201 -1,845
建物管理(Fastighet) 41,943 -3,022
グラフィック産業労働者 35,391 -1,235
電気労働者 26,883 +80
紙工業(Pappers) 26,549 -721
塗装工労働組合(Malarna) 18,547 -636
公的保険機関(FF) 16,259 -351
農場労働者(Lantarbetarna) 13,474 -1,159
娯楽施設労働者(Musikerna) 5,300 -464
合計 2,016,208 -50,247
LO
事務・専門職労働者(SIF) 363,629 +6,068
教員労働組合(Lararforbundet) 214,391 +874
地方自治体労働者労組連合(SKTF) 177,557 -354
商業・サービス労働者組合(HTF) 159,778 +2,557
ヘルスケア(Vardforbundet) 112,330 -32
政府従業員労働組合(ST) 85,586 -2,934
銀行従業員(Finansforbundet) 42,325 -922
警察(Polisforbundet) 22,561 +70
ジャーナリスト労働組合 17,644 +167
民間保険会社従業員(FTF) 15,232 +96
劇場従業員 7,868 -69
製薬業労働組合 6,621 +270
税関職員(Tull-Kust) 4,420 -67
国民高等学校教員(SFHL) 2,554 -58
交響楽団員(Symf) 2,216 -14
医学生(DOFF) 1,294 +93
森林農業労働者(SLF) 1,291 -29
合計 1,244,589 +5,409
LO
土木技術者(CF) 84,730 +3,309
ギムナジウム教員(LR) 74,544 +2,322
法律専門家(Jusek) 56,119 +2,814
大学一般(SSR) 38,851 +615
医師(Lakarforbundet) 35,779 +298
企業管理職(Civilekonomerna) 27,755 +1,976
軍人労働組合(Officersforbundet) 18,905 -807
大学教員(SULF) 17,269 +450
図書館司書(DIK-forbundet) 17,144 +429
科学労働組合(Naturvetareforbundet) 13,259 +1,038
歯科医師(Tandlakareforbundet) 11,203 -96
物理療法士(Sjukgymnasterna) 11,025 +35
技術者(Ingenjorsforbundet) 10,826 +405
管理職(SRAT) 10,119 +422
職業セラピスト(Arbetsterapeuter) 8,625 +362
心理学者(Psykologforbundet) 7,398 +137
建築家 7,197 +184
農耕学者(Agrifack) 7,167 +349
薬剤師(Farmacevtforbundet) 7,072 +93
学校長(Skolledarforbundet) 6,865 +150
聖職者(Kyrkansakademikerforbund) 5,551 +54
予備役将校 5,487 -431
道路および鉄道交通 4,433 -72
商船乗組員(Fartygsbefal) 3,953 -72
獣医師労働組合(Veterinarforbundet) 2,384 +67
林業職員(Skogsakademikerna) 2,046 +24
合計 492,706 +14,055

3大労働組合連合の他に、以下の3つの全国組織の労働組合がある。

アナリコ・サンディカリスト、(Syndikalisterna)の組合員数は約1万5000人。

職長・監督者労働組(Ledarna)の組合員数は7万5767人。

港湾労働者独立労働組合(Hamnarbetarforbundet)の組合員数は約3000人。

(3)組合員数・組織率の動向

LOのブルーカラー労働組合は組合員数が減少している。最も大幅に減少しているのは公共部門の労働組合である。減少の原因は、主に民営化など経済構造の変化によるものである。LOが組織している分野の労働組合組織率は今でも80%を超えているが、ホワイトカラーと専門職の分野も含む全体での労働組合組織率は、5年前に84%であったのが今日では79%に落ちている。1945年の時点では、全国で雇用されているすべての労働者の79%をLOが組織していた。今日ではLOが代表するのは組合加入労働者の54%である。まだ未組織者も含めれば、TCOとSACOの組織下に含まれるべきホワイトカラー労働者の数はブルーカラー労働者を上回る。

労働組合が最も危機的な状況にあるのは、若年層である。16歳から24歳までの有職若年者のうち、労働組合に加入しているのは52%でしかない。7年前は、この数字は69%であった。大部分の若年者がブルーカラーの仕事に就いていることを考えると、この数字の低下が組合員数減少の主要な原因でる。最近の若年者はまず臨時雇いの仕事で働き始め、常用のポストを得て初めて労働組合に加入するという事実からもこれが説明できる。彼らは初めの仕事から次の仕事へ転職する期間の収入の保証を多少とも得るために、とりあえず失業保険基金に加入する。彼らは、いずれ最終的には加入を希望することになる労働組合に対して、失業保険基金にだけまず加入するという傾向を見せている。

失業保険基金にだけ加入するという傾向――労働組合を手段として使うという態度――は、概して大都市における1990年代の現象である。現在、ストックホルム地域の金属労働組合(Metall)と小売業・倉庫業労働組合(Handels)の組合員となれる者のうち4人に1人は、組合員でないが組合が管理している失業保険基金には加入している。全国的に見ると、民間部門ではホワイトカラー労働者の5人に1人が、ブルーカラー労働者では10人に1人が失業保険基金に直接加入している。平均では、失業保険基金に直接加入している従業員は10%である。1993年の数字は6%であった。そして当時はホワイトカラーの保険基金に集中していた。

このようなマイナスの発展の原因は、一部は新しい状況に労働組合の組織が対応できないことにあり、また一部は1990年代の初期に生産と管理職スタッフの削減、スリム化が重なった失業危機にあると見るべきである。労働組合は解決策を出すことができず、組合の職場委員や安全委員となる組合員を確保することさえ困難であった。仕事環境に問題があることが明白であってもそれに対して若年者はあえて抗議ができなかった。また使用者と闘う能力と意思のある者を労働組合の中に見つけることもできなかった。

組合員数が増加している唯一の産業部門はIT部門である。ここでは労働組合組織率が現在58%である。これは国際的な比較で見ると非常に高い。特に最高学歴者が加入のメリットを認めている。

労働組合組織率の国際的な比較においては、現在のスウェーデンは、フィンランドおよびデンマークと同じ水準で並んでおり、79%という非常に高い組織率を示している。これら3カ国に共通しているものは、失業保険のゲント(Ghent)制度、すなわち政府が保険基金を助成し、労働組合が管理する制度である。明らかに、圧倒的な数の従業員は、未だに失業保険は労働組合の責任であると見ている。

(4)組合の将来

労働組合の指導部は、マイナス成長に懸念を感じている。下向きの傾向を変えるにはどうすればよいだろうか。その答えは必ずしも「大きく強い」労働組合にするために労働組合の合併を続けていくことではない、という感じが強まってきている。職業的にはほとんど共通の利益を持たない小さな労働組合の合併は、全国的な組合指導層と職場労働組合との距離を広げる結果になるだけという傾向がある。専従の組合書記長を配置した地方の下部組織の仲介事務局は管轄区域が広すぎることが多く、そのため危機に際して迅速な支援がほとんどできない。その対策としては、職場組合の選出役員の役割と能力を引き上げることと、全職場委員および全職場部署の安全委員など職場組合全体を構造的にグレードアップすることが明らかに必要である。

労働組合の発展は財源の問題に関わる。スウェーデンの労働組合は、1970年代と80年代初期が黄金時代であった。この時期、働く環境に関するキャンペーンおよび総合的労働法改革の一環として、教育に多額の資金が政府から与えられた。この資金助成は1990年代に中止となった。労働組合は一部の学校を売却せざるをえなくなり、教員も解雇された。多くの労働組合で管理コストが組合費収入を上回っている。これらの労働組合は、部分的に自らの資本利子と配当に依存しているのである。しかし、その財政状態は豊かである。合計した組合資本は約250億クローネである。

改革を主張する人々が現在感じていることは、労働組合がキャリア・アドバイザー・システム作り、組合員が自分たちに提供されている訓練その他の能力開発の機会をもっと活用するようにそのキャリア・アドバイザーによって動機づけや応援を行うべきであるということである。

組合員数が増加している組織はSACOである。SACOの労働組合は長年にわたって、まだカレッジや大学に在学中の学生に新組合員としての加入を呼びかけてきた。したがってカレッジや大学での教育が最近非常に普及したことが、おそらく組合員数の増加の主な原因であろう。しかし、このことはLOやTCOの諸労働組合に対して、現組合員および将来組合員となるであろう人々の職業的利益にもっと目を向けるべきであることを教えているといえよう。

新たな政治的経緯と展望

(1)LOと政治的経緯

スウェーデンでは、いくつかの国と同様に、社会民主党を形成したのは労働組合であって、社会民主党(労働党)が労働組合をつくったのではない。地方の支部組合が当然のこととして、組合単位で組合員を社会民主党支部に加入させるのはこういう事情による。ただし正式に不参加契約をする権利は認めている。このようにして党は80万人を超える党員を集めた。1990年代初期に、団体加入の党員は党規則でも労働組合規則でも除外した。それで党員数はまたたくまに約20万人に減少した。LOの諸労働組合が労働党支部に対する自動的な影響力を失ったので、社会民主党の総理大臣はLOを圧力団体の1つでしかないと発言した(この発言を総理大臣は後悔した。LOの政策路線を逸脱すればLOの組合員を前の共産党、現在の社会党左派の権力下へ追いやることになると理解したからである)。

LOの労働組合は1つを除いて全部、組合規則の前文において社会民主党のイデオロギーを支持することを明記しており、LOは現在もなお党の全国執行部のポストを自動的に確保している。総理大臣は、LOの成功と強さがすなわち党の成功と強さである、ということを知ったと同時に、LOは最強の正直な反対勢力であるという事実も受け入れねばならないことを学んだ。様々に分かれている反対勢力よりも、LOはずっと強くかつ首尾一貫した勢力なのである。

1950年代半ばから70年代半ばまでのスウェーデンに、完全雇用、経済の高度成長、低インフレ率、福祉の漸次的改善、平等の促進、を実現した黄金時代をもたらしたのは、強力なブルーカラー労働組合の協力を得た社会民主党であった。政権と強い団結と、協調的使用者との協力のもとにそれは実現した。1950年代初期にLOによって打ち出された連帯的賃金制度、積極的労働力政策、金融引き締め、および一般的福祉政策の理念が、公共部門を拡大する中で社会民主党政府の政策となった。1956年から70年までのLOは非常に強大で、社会政策と雇用政策に関して決定権を有していた。すなわち連帯的賃金制度を補完する健康保険、年金その他の社会保障の連帯的システムは基本的にLOが立案した改革である。当時のLOは労働政策、社会政策に関しては社会民主党政府に対して、政策案を既成事実として提示することが可能であり、それを行っていたのである。

その後最初の政権交代が起こり、1976年から82年まで、社会民主党に代わって中央党と自由党の連立政権が成立した。この連立政権は社会民主党の労働、社会政策を継承し、雇用水準を維持するためにむしろ社会民主党政権が行ったであろうよりもさらに進んだ不況産業の助成を行った。この新協調組合主義制度に対する攻撃はなく、諸労働組合は政権交代にショックを受けながらも、基本的には社会民主党政権が継続しているような行動を続けた。

1991年から94年までのツァスール(Zasur)では状況が変わった。保守党が議会で他の中心的3党を合わせたよりも強い力を獲得し、反社会主義連立政権で主導権を握り、労働組合の力を的確に弱める方法を知っていた。使用者側は、ネオ・コーポラティスト・システムの中止に貢献した。社会保障および失業保険の給付水準の引き下げ、雇用保証法制の緩和などが行われた。この保守政権は、労働組合員が組合費の支払いに対して受けていた減税措置を中止し、使用者団体への寄付については使用者が受ける減税の権利は温存した。

保守党は現在、企業に対する大幅な減税と、労働分野における包括的な規制緩和を唱えている。2002年に、保守党が率いる非社会主義政権が成立すれば、労働組合にとってまさにどのようなことが待ち受けているか分かっている。

(2)今後の政治的課題

現在は、1955年から72年までのスウェーデン・モデル最盛の一時期に比べ、政治も労働組合も全く新しい状況にある。LOは労働組合員の半数をわずかに超えるだけを代表するにすぎない。総賃金コストの50%以上を占めるホワイトカラー/専門職労働組合が連帯的賃金制度の理念を支持せず、概して個別的賃金決定に賛成の立場をとっている。

世論調査に表れたように、社会民主党は今や全選挙民の約32~35%を代表しているにすぎない。社会民主党は前共産党と緑の党(支持率はそれぞれ15%と4%)の同意と支持がなければ統治が行えない。1994年に社会民主党政権が復活した時、その政治課題はスウェーデンを経済危機と大量失業から脱出させることであった。しかし、LOが行った分析によれば、党と政府は政治的羅針盤を持たずにこの問題に着手した。結局福祉関連歳出の削減と公共部門の雇用削減という新しいリベラルな政策を採用することになった。その結果、スウェーデンは今でも顕在失業率が4%という許容し難い水準にある。にもかかわらず首相および労働経済相は、危機の問題は解決できたと誇張している。実際スウェーデンは、極めて高い経済発展の一時期を経た後に、今や、労働力人口の7%以上が正規の雇用に就いていないという状況に進みつつある。

社会民主党政府は、今後も引き続き中心的福祉分野における生活状況の格差を縮小していかなければならない。これは、労働市場における所得格差を縮小するために連帯的賃金制を守っていこうとする理念に基づくLO労働組合の努力と同じ方向を目指すものである。完全雇用政策へも直ちに戻らなければならない。おそらくその唯一の方法は、中央政府と地方自治体が民間産業部門の人員削減策を真似たリベラル政策を中止し、消費増大に直ちに繋がる社会的便益を増やすことであろう。

社会民主党政府は、また総合福祉政策を回復し、健康保険と失業保険の最高限度額を引き上げて1ヵ月約3万クローネにしなければならない。それによって、労働力人口の約90%に80%の給付水準を保証する必要がある。現時点では、大きなグループを形成する熟練労働者とホワイトカラー労働者の所得は60%~65%しかカバーされていない。しかし、そのような決定は議会で多数を占めなければ不可能である。今のところ与党多数の一部を担っている緑の党(Miljopartiet)が改革を断念している。緑の党はむしろ最高限度額の引き下げを支持しており、その代わりとして民間の保険で補充される非常に低い市民の月給を導入している。この案件の解決は、2002年の新しい議会選挙まで待たねばならないようである。

最後の問題は、LOの連帯的賃金制度に対して、政府の福祉政策のもとでも全労働組合の支持を得られるかどうかということである。使用者団体が中央交渉の座を去ってから、パターンに沿った交渉システムになった。すなわち、産業部門の諸労働組合が既に受け入れられているヨーロッパ基準の枠組でパターンを決めるのである。スウェーデンの輸出産業は、競争相手国よりも高い賃金引き上げは負いきれない。しかし、LOの工業別労働組合は産業別労働協約に基づいてこのパターンを設定した。それには工業部門のホワイトカラーと専門職労働組合の両方も含まれるが、これらの労働組合は必ずしも賃金政策で連帯的賃金制度を支持していない。

この状況下で地方自治体と民間サービス労働者が敗者となっている。彼らは合意パターンに倣うだけの力を持っていなかったため、過去10年間、工業労働者に比べて毎年1%を失ってきた。同時に、大多数を占める公共部門の女性は、絶えず行われる人員削減の下でますますきつい仕事を課せられている従業員グループである。デイ・ケア・グループは、以前はスタッフが3人であったのが今は2人になっている。同様の状況が養護ホーム、病院の病棟、健康保険管理事務所などでも生じている。またこれらの女子の多くは、パートタイムなど不安定な雇用形態で働かざるをえない状況に置かれている。例えば必要な場合の短期間のプロジェクト、他の労働者のための臨時の代役などである。彼女らは、能力向上のための訓練など、フルタイムの正規の雇用であれば得られるはずの報奨を何一つ得られず、また社会的、経済的な差別も受けている。例えば銀行ローンが受けられない、アパート契約を自分の名義で締結することができないなどである。これらの人々が、本来ならば社会民主党の核心部分となるべき時に、社会民主労働党への投票をやめてしまった人々なのである。今では社会民主党の中にも、中心的な3政党(農民党、自由党、キリスト教民主党)の支持を得るため穏健的な経済・社会政策を支持する人々がいる。また別の、社会民主党内で指導的立場にある人々は、前共産党との密な協力路線の方を選んでいるが、2002年の議会選挙で万一緑の党が4%の基準を満たすことができない場合には、これが唯一の選択肢となるであろう。

2001年7月 スウェーデンの記事一覧

関連情報