小売業におけるストライキ通告後の協約

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年7月

旧協約の期間満了の日から6日後、そして高い収益を期待できるイースター商戦期間中の戦略的ストライキ通告を労組が行った後に、3度目の調停案が小売業界の両当事者に受け入れられた。小売業の使用者(Handelsarbetsgivarna)と小売業ブルーカラー労働組合(Handels)との間に締結された協約は12万人の労働者を対象とし、地方政府部門および中央政府部門などを含むサービス部門全体に対して協約パターンを提示するものと考えられている。

本協約の期間は2001年4月1日から2004年3月31日までであり、11.1%の平均賃上げを規定している(これに対し工業部門の労働協約は8.5%である)。小売業の賃上げ率は、現在の平均月額賃金1万4600クローネ(1クローネ=11.63円)に基づくものである。なお、工業部門の平均月額賃金は1万7000クローネで、小売業の賃金水準が低いことが分かる。

初年度の賃上げ率は3.5%である。全員に最低350クローネが支給され、平均168クローネに当たる賃金原資が事業所ベースで交渉・分配される。2年目の賃上げ率は3.62%で、全員の賃上げ370クローネと職場レベルでの分配分、平均178クローネが支給される。3年目の賃上げ率は3.92%、全員に400クローネ、職場レベルでの分配分に平均218クローネである(小売業協定は、職員労働組合連合の労組である商業俸給労働者組合に組織されたホワイトカラー労働者のための協約と比較することができる。ホワイトカラー労働者は3年間にわたって平均8.4%を獲得しており、全員が3年目の終わりには最低855クローネの賃上げを保証されている)。

賃金原資の分配に関する職場レベルの交渉に当たっては、労組は通常、最低賃金レベルの労働者を支援したいと考える。これに対して使用者は、勤務評価の高い労働者への賃上げに充てたいと考える。両者にとって他に合意案がない場合、賃金原資から全員に対して同額の賃上げを行う妥協案に落ち着くのが一般的である。

本協約で、最低賃金は今後3年間に1875クローネ引き上げられる。内訳は、初年度の今年550クローネ、2年目に650クローネ、3年目に675クローネとなっている。

市場に対して無力である労働組合

小売業のこの度まとまった交渉やそれ以前の交渉を見ると、大幅な賃上げ率が示されていることから、賃上げに関して労働組合が非常に大きな力を有するように見えるだろう。全国レベルの協約の交渉においてはそうかもしれない。特にストライキ戦術に対して使用者はほとんど打つ手がないからである。しかし労働組合は、市場の力に対して仮に影響力を持つとしてもほとんどなきに等しい。このことは1998年から99年にかけての賃金統計に表れている。小売業労働組合の組合員の協約賃金の賃上げ率は金属労働者よりも2%高かったにもかかわらず、実質賃上げ率は4%近く低かった。その理由は職場レベルの賃金ドリフトで、小売業ではそれがマイナス2.5%であったのに対し、金属工業ではプラス3%に近かったからである。

マイナスの賃金ドリフトは、なぜ起きたのだろうか。小売業においては、高い水準のサービスを提供する小売店が、より少ない人数の若い従業員を使うスーパーマーケットに代わられた結果、高給の熟練労働者が多数離職し、あるいは離職を余儀なくされ、低賃金労働者に取って代わられた。このような後ろ向きの展開は、ホテルやレストラン業界でさらに顕著で、1年間で70%以上の組合員が組合を離れて初任者賃金レベルの新組合員に替わっている。ホテル・レストラン業界のマイナス賃金ドリフトは小売業の2倍であった。

公共サービス部門、特にケア部門(老人介護、病院、育児、教育)では職員不足の問題があるため、状況が少々異なっている。すでに低すぎるサービスの質をこれ以上落とさずに維持するならば、地方政府は、看護婦や育児ケア・スタッフを採用するための予算を増やすほかないからである。

小売業をこれ以上合理化しスリム化することはおそらく不可能であろう――実際、強盗防止対策の点からも(特に夜間の)スタッフの数は増やさなければならない――が、小売業の場合は賃金コストの増加を消費者に転嫁することは難しくない。しかし、別の大幅な賃金ドリフトが生じないかぎり、比較的穏やかな3年協約が2%を超えるようなインフレを誘発することはないであろうし、そのような大幅賃金ドリフトは小売業では起こりそうにない。

一方、小売業の11.1%の賃上げが、中央政府および地方政府との交渉、およびそれ以外の建物メンテナンスなどの民間サービスにとって最低ラインになるであろうと予想される。したがって、交渉全体がインフレ的な結果になるかどうかを論じるのは、まだ時期早尚である。また、ここ数年間の非インフレ的な低い賃上げが、目覚しいほどの実質賃上げという結果をもたらした一方で、やはり「(インフレを起こさないという)責任ある」交渉術にはマイナス面もある――女性が多数を占める公共サービスや民間サービス部門など、大きなグループの相対的賃金状況を大きく改善する機能がシステムにはないのである。使用者が提案する解決策の1つは、賃金交渉を能力と生産性に基づいてもっと個別的に行うことである。これは間違いなく賃金格差につながるが、しかし、使用者の意見によれば、長期的には全体に利益をもたらすことになる。ただ、少なくとも小売業労働組合がこの意見に賛成でないことは明らかである。

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