依然として厳しい雇用環境(1990年代からの分析)
政府の経済改革推進にもかかわらず、労働者の雇用環境は依然として厳しい状態にある。
インド統計局の家計調査によると、1983年から90年度までの年平均雇用者数増加率は、2.39%であった。内訳は、組織部門が1.73%で、非組織部門が2.41%であった。一方、改革開放政策を推進した1990年度から97年度の雇用者数増加率は、1.0%で、特に組織部門では0.6%にまで低下した。
第9次5カ年計画では、第8次5カ年計画の2.51%とほぼ同増の年平均2.45%の増加が計画されている。
インドの雇用状況(1983年から1997年)
総数 | 組織部門 | 非組織部門 | |
---|---|---|---|
雇用者数(単位:百万人) | |||
1983年度 | 302.65 | 24.01 | 278.59 |
1990年度 | 356.70 | 27.06 | 329.70 |
1997年度 | 382.85 | 28.25 | 354.60 |
(雇用者の年平均雇用増加率) | |||
1983~1990年度 | 2.39 | 1.73 | 2.41 |
1990~1997年度 | 1.0 | 0.6 | 1.1 |
資料:NSSOの家計消費調査から作成
注:組織部門とは、公共部門と雇用規模10人以上の民間部門を指す
財政削減に努力している政府は、2001年度予算に、雇用者数の増加を図る具体的な政策を提案していない。政府は、全国の毎年の新卒者数は人口の約1%で、毎年の退職者は3%。労働者人口は年平均2%、5年で10%減少すると予測している。このため、労働組合や使用者団体では「シン蔵相は、予算編成において、バジパヤ首相が提唱する年間1000万人の雇用創出という公約を十分実行していない」という批判を開始している。国家計画委員会は、財政削減と雇用創出を両立させる政策の立案を開始したが、まだ成果を上げるには至っていない。
改革開放以後の経済状況と雇用状況をみると、1990年代の年平均GDPの伸び率は6%だったに対し、雇用の増加率はむしろ縮小傾向にあった。改革開放政策は、正規雇用を減少させ、臨時雇用を増加させたといえる。全労働者に占める臨時雇用者の割合は、1988年は31.2%だったが、1998年には37%に増加した。これは経営の縮小、閉鎖、労働争議に伴う労働者の締出しが相次いだ結果とみられる。労組の選択は限られており、経営者側の臨時雇用者の増員、正規労働者の削減計画に同意するか、企業の閉鎖に同意するかの選択を迫られる場合も出ている。
産業のグローバル化の進む中で、政府は、雇用契約をより柔軟なものにすべき、との産業界の圧力を受けつづけている。現在、政府が提案中の労働契約改正法案が議会で承認されれば、GDPが8%成長しても民間部門での雇用の増加はほとんど期待できないというエコノミストもいる。
公営企業の人員削減が進む中で、小企業部門と農業部門が余剰労働者の受け皿となることが期待されている。小企業は、現在、製造業の40%、輸出の35%を占め、1800万人の雇用機会を提供している。政府は、小企業を対象に労働者の雇用保護政策を実施しているが、この部門の成長と雇用増が比例するとは限らない。農業部門は、停滞しており、また、第9次5カ年計画での、構造改革事業が十分でなく急激な成長は期待できないとみられている。
2001年7月 インドの記事一覧
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