30バーツ新医療保険制度、問題を抱えつつ4月からスタート

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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2001年4月より、国立病院の診察料を一律30バーツ(1バーツ=2.65円)にするという新医療制度が始まった。これは、2月に行われた総選挙でタクシン首相率いるタイ愛国党が選挙公約としたものの一つである「低コストの医療保険制度の充実」に応えるものである。 タイでは、健康保険に加入していない人は、全人口のおよそ1/3にあたる約1800万人にものぼる。実施対象地域は、サムットサコン県、パトムタニ県、ヤラー県、ナコンサワン県、パヤオ県、ヤソトン県の6県。首都バンコクは10月までに、1年以内には全国で実施される予定。私立病院協会のオウチャート博士のコメントによると、私立病院も30バーツ医療制度に参加する準備があるという。

厚生省では、患者1人1人に対して氏名や最も近い健康セン ター、発行場所などが記載されたIDカードを発行する。そのため利用者は、あらかじめ最寄りの健康センターで登録をする必要がある。

この制度では、整形外科、緊急以外の歯科、コンタクトや眼鏡のための眼科診察、性転換などは対象外となる。タイ全土70万人が感染していると推測される、HIV感染者と、そのうち3割のエイズ患者の治療や、末期ガンの患者に対する化学療法、生存可能性の低い事故患者などは、その対象として当てはまるのか見極めが難しく、今後の再考材料となりそうだ。また、コストの削減がそのままサービスの減少につながるのではないかとの懸念もある。対象の6県も、特に低所得地域と見なされているわけではなく、本来の「貧困者を対象にした」という目的からそれるとの批判もある。

また、この新医療制度によって病院の利用率が高まり、医者と看護婦の負担が増加することが予想されるため、両者の協力関係を築けるか否かも新制度の成功のための要因といえよう。

現在「24時間ホットライン」を設けて、電話による情報の公開や質問受け付け、一般からのリクエストを聞く機会を設けている。また、ノンタブリ郵便局に私書箱を設け、意見箱としたり、実施県にはポスターの掲示も合わせて行い、市民の理解を促す。また、大学 の有識者を中心に、4月中にも新制度実施に関する調査報告書がまとめられ、今後の方針の参考にしていく予定である。

しかし医療費のための財源の確保や、そのシステムが十分なものかを疑問視する声も多く、この制度を「見切り発車」と評価する意見もある。新医療保険制度に必要な予算は1人あたり1197バーツで、あるエコノミストの試算によると、制度導入には合計約1000億バーツの費用が必要となる。問題は、その財源をどこに求めるかで、現在の医療基金では770億バーツの財源しかないため、新たに230億バーツの財源を確保する必要がある。そのため、新保険制度が開始されると同時に、 4月よりタバコ税と酒税の増税が行われ、その財源に充てることが決定した。

4月現在、病院の外来は2~3割増になっており、特に東北部からの出稼ぎ労働者の駆け込み外来が多かったということだ。

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