「雇用のための同盟」第7回会議を開催

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年6月

1998年秋のシュレーダー政権(SPD主軸)発足後、前中道保守政権で頓挫した「雇用のための同盟」による政労使協調路線の復活・維持は、現政権の一つの柱として今日に至っているが、2000年7月の第6回会議の共同声明では、一般的な経済状況についての論及、訓練職市場のてこ入れ、若年者緊急雇用計画の延長等が謳われるに留まった。この共同声明は、比較的成果を挙げてその直後の賃金協約交渉にも影響を与えた2000年1月の第5回会議の共同声明(本誌000年4月号参照)と比べて、従来の諸施策の積極的確認等の記述に終始した感があった。その後同年秋に予定された次回会議は、税制改革、年金改革、経営組織法改正等の政府の懸案が目白押しで、先延ばしにされたが、これらの懸案処理が一段落した2001年3月4日、第7回会議がシュレーダー首相の主催でベルリンで開催された。

今回の会議は、最近の期限付き雇用・パートタイム雇用に関する法改正(本誌2000年12月号参照)、経営組織法改正の閣議決定(本誌2001年5月号参照)等で、労働側に有利な方向が取られたことから、経済界からの批判が強まる中での開催だったが、まず注目されたのは出席した労使双方のリーダーの顔触れが変わったことである。使用者側では、産業連盟のロゴフスキー新会長(本誌2001年2月号参照)のほか、2001年2月にドイツ商工会議所のシュティール会長の後任に選出されたルードヴィッヒ・ゲオルグ・ブラウン新会長(57歳、自由民主党党員)が初登場となり、労働側からはブジルスケ公共部門労組(OTV)新委員長(本誌2001年2月号参照)が初登場となった(同氏はその後、3月19日にVerdi初代委員長に選出された:[Ⅱ]参照)。

会議の内容としては、超過労働の削減と経営組織法の改正が主なテーマになるはずだったが、会議後の共同声明では、使用者側の要求した経営組織法の閣議決定の見直しについては全く言及されず、超過労働については、労働側の求めた具体的数値目標の確認に至らなかった。

シュルテ労働総同盟(DGB)会長は、年間19億時間に及ぶ超過労働について、その削減による25万人の雇用創出を数値目標として設定することを要求したが、新任のブラウン商工会議所会長は、純粋に計算上の数値と具体的な雇用創出とは問題が異なるとし、使用者側は、超過労働削減自体には賛成したが、数値目標を確認する労働側の要求には応じなかった。

ただ、来年連邦議会選挙を控えるシュレーダー首相としては、来年度の労使の賃金協約交渉が純粋な賃上げ闘争になることを是非とも回避したく、会議の成果を何とか共同声明に盛り込むことに努め、また、2002年末までに失業者数を300万人以下にするという数値目標を掲げて、これが可能であることを強調した(ただ同首相は、翌3月5日に失業者数削減の数値目標を350万人に訂正している)。そして共同声明では、来年度の賃金協約交渉で先の年金改革法案に盛り込まれた事業所年金について、協約レベルで規制する問題と、年配労働者に職業生活を継続させるための資格を付与する問題を中心議題として取り上げることで一致した。年配労働者の資格付与に観点が移行したことで、2000年1月の第5回会議の直前までIGメタルが強硬に主張した60歳早期年金制による失業者削減対策の枠組(本誌2000年3月号参照)は放棄され、むしろ年配労働者に職業生活を継続させる逆の方向に重点が移行した。

このような共同声明に対して、フント使用者連盟(BDA)会長は、事業所年金と資格付与問題を協約の中心議題とすることによって、来年度の協約交渉が純粋な賃上げ闘争になることが回避され、2000年度と同様の控え目な賃上げと有効期間の長い協約締結の展望が示されたという評価を示した。これに対して労働側はフント会長の評価に反対し、シュルテB会長もツビッケルIGメタル委員長も、超過労働削減について使用者側が努力を怠るならば、賃金協約交渉は厳しいものになるとの認識を示した。

会議の直後から、このような共同声明の解釈をめぐる労使の相違があったが、その後シュレーダー首相の「雇用のための同盟」についての発言をめぐり、IGメタルを中心に労組が強く反発して、ツビッケル委員長が同盟から脱退するとの警告を発している。

シュレーダー首相は、かねてから「雇用のための同盟」の中心的成果として、労使の賃金協約交渉で、賃上げを押えて、期間も長めに設定した協約を締結する土台を作ったことをあげ、「雇用のための同盟」第5回会議をその成果の適例としているが、3月13日のミュンヘンでの4大使用者団体トップとの会談で、「雇用のための同盟」で賃金交渉の問題を取り上げて、2002年度の協約交渉でも2000年度と同様の控え目な賃上げによる妥結を達成したいと発言した。これに対して、ツビッケルIGメタル会長がシュルテDGB会長に異例の書簡を送り、協約自治の原則に反する首相の発言に反対するために、DGB傘下の労組トップの会議を招集することを提言し、首相の発言撤回がなければIGメタルは「雇用のための同盟」から脱退するとした。

労組側には、2000年度の労働協約の控え目な賃上げが、雇用の創出に結び付いていないという不満があり、労使関係の柔軟路線の旗手であるシュモルト鉱山・化学・エネルギー労組(IGBCE)委員長を除いて、2002年度の協約交渉では賃上げ要求を押えないとする意見が強く、IGメタルの呼びかけに呼応する動きがある。シュモルト委員長自身も、現時点でのシュレーダー首相の発言を拙劣だったとしている。しかし、同委員長と3月19日に正式に発足したサービス業労組Verdiのブジルスケ委員長は、あくまで「雇用のための同盟」の枠組は維持するとしており、Verdi設立後の今後の有力産別労組間の主導権争いとも関連して、シュレーダー発言の波紋の行方が注目される。

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