個別雇用契約の導入をめぐるBHP社における労使紛争
―その後の展開

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年6月

西オーストラリア州ピルバラ地区の労働者に個別雇用契約を導入することをめぐり、BHP社と労働組合との間で対立が続いているが、最近になって新たな展開が見られたので、それを報告する。

対立の背景

BHP社は、オーストラリア有数の鉄鋼大手企業であり、ガス、石炭、鉄鉱石の採掘にも関わっている。そのためBHP社の動向は、労使関係にも大きな影響を及ぼしてきた。1980年代に、BHP社は当時の労働党政権が示した「鉄鋼政策」に関与した。この時期には、同社は労働組合にとって「友好的」な企業と捉えられていた。しかし、同社のCEOにアメリカ人のアンダーソン氏が任命されたことをきっかけに、労組は同社の労使関係政策が変化するのではないかと危惧した。新しいCEOはRio Tin to社と合併交渉を開始した。結果的に合併は実現しなかったが、BHP社にとってRio Tinto社の「反組合的」政策が生産性の観点から非常に有益であると思われた。このようにして、BHP社は同社から労組の影響力をなくすことのメリットを確信するようになり、従業員を個別雇用契約に移行することでこの目的を達成しようとした。具体的には、既存の企業別協定が満了を迎えても、新たな協定作成には協力せず、ピルバラ地区の労働者に既存の協定より有利な内容の個別契約を提示するという方法が採られた。こうした提案は1999年11月から12月にかけて示され、労組はその時までに個別雇用契約の提示を中止させる裁判所による差止命令を獲得していた。

連邦裁判所の判決

2000年になると、連邦裁判所による審理が開始された。労組は、個別契約が労組からの脱退を誘導しているため違法であり、このことが職場関係法の結社の自由規定に反すると主張した。この主張は2000年1月の決定では受け入れられたものの、2001年1月に示された判決では今度は会社側の主張が認められた。BHP社の主張は以下のようなものであった。すなわち、労働者が組合員になることを阻止しようとするのは違法であるが、労組がその事業所の職場慣行に影響を及ぼすのを阻止しようとするのは合法であるというのである。さらにBHP社は、組合加入が労働者の仕事に影響を及ぼさない限り、労働者が組合員であるかどうかは重要ではないと主張した。実際、個別契約に署名した者のうち何名かは労組を脱退していなかった。

労働組合の目的は団体交渉であり、労働条件決定に影響力を及ぼすことにあるため、判決は労働組合主義の目的をめぐる論争を引き起こした。そのため、オーストラリア労働組合評議会(ACTU)は当初2001年1月の判決を不服として、上訴する方針を明らかにしていた。

しかし、2月16日になってACTUは上訴手続を進めないことを決定した。ACTUは、表向きにはこの問題が新たに誕生した西オーストラリア州労働党政権により解決されることを期待するとしていたが、おそらく上訴が望み薄であると考え、こうした決定を行ったものと思われる。真相がどうであるにせよ、ACTUの決定は明らかに性急すぎた。というのは、裁判費用に週あたり30豪ドル支払ってきたピルバラ地区の500人の労働者には、この決定が知らされていなかったのである。

法廷外闘争へ

闘争の場が法廷外に移されたことで、両者は様々な戦略を打ち出した。BHP社は、残りの労働者が暫定的にアワード上の基本的な労働条件の適用を受けることを尊重するという現行の企業別協定を破棄する姿勢を示し、さらに残りの労働者に対しても個別契約を提示した。この時点で、481名の労働者が個別契約に署名していた一方で、500名の労働者は労組と行動を共にしていた。

ACTUは伝統的な争議行為とともに、株主としての活動や国際的な組合活動を展開するなど幅広い戦略を計画した。組合員が株式を取得することで、株主総会でその権利を行使することができる。幅広い活動を展開することで、ACTUは世論の関心を集め、総選挙を控えた現政権に圧力をかけようとした。

2001年2月23日に、BHP社でさらに60名の労働者が個別契約に移行しようとしているとの報道がなされた。これにより、ACTUはもはやピルバラ地区の過半数の労働者を代表しているとは主張できなくなった。しかし、組合員でありながら、個別契約に署名している者も存在するため、重複して計算されている者もいると思われた。

他の事業所でのストライキ

労組の戦略の一つは、多くの協力を得てストライキを実施することであった。しかし、同情ストは職場関係法で違法とされているため、この試みは慎重に行われた。例えばクィンズランド州にあるBHP社の5つの炭鉱では、1500名の炭鉱労働者が1週間にわたるストライキを実施した。さらに、南シドニーのイラワラ地区の炭鉱やポート・ケンブラの製鋼所でもストが実施された。

こうした状況を受けて、ACTU幹部とBHP社幹部との話し合いがもたれた。労組の説明によると、話し合いの席上で同社幹部は、金融市場が好感するような成果(例えば、柔軟な職場組織など)を同社が達成する必要があると語ったという。このことは、3月に入ってBHP社がイギリスのビリトン社との合併計画を公表したことで、さらに重要性を増している。

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