増加する海外出稼労働者、それに伴う汚職・トラブル・搾取

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年5月

出稼労働者からの搾取

ジャカルタ市の空の玄関口であるスカルノ・ハッタ国際空港は、増加する海外出稼労働者の空の窓口としても重要な役割を果たしている。特に、ターミナル3は、海外出稼労働者の出発や帰国を支援するために設立されたが、現在では出稼労働者からの搾取の場と化していることが空港関係者の辞任により明らかになった。

ターミナル3担当のユヌス事務長が2001年2月18日、他の7人の職員とともに、空港業務の汚職に耐えられないと辞任。ユヌス氏によれば、海外から出稼ぎを終えて帰国した労働者に対して、ターミナル3において「管理費用」として1人当たり2万ルピア(約2米ドル)を徴収、また米ドルからルピアへの両替に際して、市場レートとは異なった不利なレートで交換させていたという。また、市内へのバス料金も通常料金の400から500%も高い料金で強制的にチケットを購入させられていた。

ターミナル3では、労働・移住省からの出向者4人、空港管理会社であるPTアンカサ・プラⅡ(国営の空港管理会社)から2人、輸送・通信省からの出向者2人、警視庁から1人、財務省から1名の計10人が従事していた。

2001年の1月には労働者からの搾取によって1億7220万ルピア(約1万7940米ドル)が集まり、職員に4350万ルピア(4530米ドル)、海外労働斡旋企業組合(PJTKI)に2580万ルピア(2690米ドル)、残りは管理母体のPTアンカサ・プラに分配されたという。

この問題に関して、2月21日に労働と社会保障に関する第6協議会は、PTアンカサ・プラ社との会議を開いたが、出席したミスクル事務長は、この問題に対して回答できる十分な知識を持ち合わせていないとの曖昧な回答をするにとどまり、問題の解決には至らなかった。スラバヤの空港でも、同様の搾取が問題となっており、解決が望まれている。

女性出稼労働者に対する保護

女性の海外出稼者の増加に伴い、海外で雇用主に搾取や虐待を受けるインドネシア人女性が後を絶たない(本誌2000年月号参照)。その一方で政府からの出稼支援政策はそれほど進んでおらず、問題の解決には至っていない。そのような中、77の女性団体から構成されるKowani(インドネシア女性協議)は、職場復帰のための訓練(PAP)を通じて、海外に向かう女性にスキルと情報を身につける機会を提供する。

PAPプログラムは出発に先だっての3~4日間、ジャカルタにおいて毎日1クラス60人程度の訓練を20クラス行っている。訓練の内容は、最終的な渡航準備のチェックや、労働保護に関する基礎的な情報(具体的には、事故防衛、性教育、信仰・宗教、言語、インドネシア領事館または大使館の情報、各自の労働契約について)を提供する。また渡航先で準医療活動従事者や看護婦、ベビーシッターとして働く女性に対して、ジャカルタの総合病院との提携で無料の医療訓練も行う。とはいえ、出稼女性の8割がメイドであるのが実態である。

PAPプログラムのコーディネーターであるギオ女史は、海外でインドネシア人女性労働者に対する精神的・肉体的虐待事件が増加しているにもかかわらず、政府は何の解決策をも提示していないことに、そして政府系のPJTKI(海外出稼協会)を通じた労働契約で就労が決定したにもかかわらず、同協会が労働者に対して訓練を行わないケースもあったと批判している。また、Kowaniのイネ・チェアパーソンは、現在まで海外出稼労働者が搾取されてきたという背景から、PJTKIやその他の利益団体のみに出稼者の管理を任せられないと話している。

PAPの訓練は、1999年12月から開始されたが、2001年に入ってから出稼ぎ仲介業者からの嫌がらせに悩まされている。イネ女史によれば、女性労働者が知識を持つにつれ、労働の権利や公正な扱いを望むようになるため、このような業者にとっては都合が悪くなるため、このような行為が行われているという。

労働者の多くは未熟練労働者

西ヌサテンガラの移民局によると、毎月発行される海外就労のためのパスポートは、ほとんどが未熟練労働者によるものであることが明らかになった。同局では毎月3500冊のパスポートを発行しており、そのうち80%が海外就労目的であるという。

2000年にマレーシア政府が経済不況を理由に違法労働者の取締りを厳しくした。その結果、マレーシアから強制帰国させられた不法労働者9万7147人のうち、8万3190人がインドネシア人で、そのほとんどが中央ジャワの出身者であった(注1)。このため、多くのインドネシア人はその他の近隣諸国への雇用を求めてパスポートを手に入れようとしている。しかし、地理的な条件からリアウ州などの場合、不法労働者の多くが、マレーシア人労働者のブローカーに連れられ、闇夜のマラッカ海峡を渡って入国すると言われている。

海外出稼ぎ労働者から仕送りされる外貨は非常に重要な財源となっているという点と、国内の高失業率を緩和するためとの思惑から、政府が海外での出稼ぎを奨励しているため、同移民局では、海外就労希望者に対して特別低料金でパスポートを発行している。また、パスポートの取得も容易なため、強制帰国させられる労働者が後を絶たずたず、批判の声が上がっている。

  1. インドネシアの人口2億人のうち約6割がジャワ島に居住している。

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