組合の活力をそぐ非登録労働者の増加

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年4月

労働手帳を所有しない者、所持してもこれに記入しないで就労している労働者を、ブラジルでは非登録労働者としてその低減を労働政策の一つの目標としてきた。この手帳が老齢退職年金、有給休暇、13カ月賃金(年末ボーナス)、FGTS(勤続期間保証基金)などの 一切の労働法上の権利、年金受領の唯一の根拠となるからである。

ところが近年、非公式労働者の数が公式労働者とほぼ同数になると言う事実が指摘されて、労働組合、政府はその解明と対策に留意し始めた。

ブラジル全国の非登録労働者の比(%)
  1996年 1999年 前年比
州都 32.5 35.4 3.0
州都周縁 35.0 36.2 1.1
大都市 36.4 37.5 1.0
中都市 39.8 39.9 0.1
小都市 43.2 43.9 0.5
農業地域 55.3 54.8 -.03
総体 41.5 42.5 0.8

FGV(ゼツリオ・バルガス財団)IBRE(ブラジル経済研究所)の CPS(ブラジル社会政策センター)がIBGE(ブラジル地理統計院)のPNAD(全国国内居住者サンプル調査)に基づいて行った調査によると、1996年と1999 年両年におけるブラジル全国の非登録労働者の比率は下記の通りである。

この表を見ると、一部の研究者と組合が危機感を抱くほど事態が悪化しているようには見えないが、これをブラジルで最も経済発展の進んだサンパウロ州に限ってみると様相は異なってくる。

同州公立財団データー分析機構(SEADE)は、1990年から2000年にかけて非登録労働者の率は36.6%から48.8%に増加したとみているし、農業地域では既に半数以上の労働者が非登録労働者であること、この減少は後に見るように1999年末期からの政府の集中的な検査と摘発のせいであること、さらに人口の大部分がサンパウロ、リオ、ベーロオリゾンテ、ポルトアレーグレ、クリチーバ、レシーフェなどのいわゆる州都の圏内に集中していることを考えると、こうした懸念ももっともであると思える。

前記 CPS(ブラジル社会政策センター)のマルセーロ・ネリ所長は、ブラジル貧困層の約51.3%は非登録労働者が家長であって、彼らは職業選択の自由というぜいたくを享受する自由を有していないと述べている。

この傾向が登録労働者の組織である労働組合の基盤を崩していることは明らかで、企画省の付属機関 IPEA(応用経済研究所)が行った調査で、エニルソン・デ・モウラは労働組合を"今日では労働者のマイノリティーを代表する団体"とまで極言している。

CUTの諮問機関である現代文化調査センターの調査員レナート・マルチンスはこの意見に同意し、80年代の組合運動の沈滞は非登録労働者の率の推移に原因があるとしている。

この現象に対して政府は、伝統的な検査と摘発という手段で非登録労働者の一掃と登録労働者の増加をはかっている。労働省のベラ・オリンピア検査局長は1999年末、主として農村労働者の登録キャンペーンを推し進め、同省の総合雇用解雇台帳の新規登録者を87 万8000人増加させ、2000年においてはその数は140万人に達したと推計している。その結果、1999年には2億1500万レアールの出超であった FGTS基金は、2000年には15億レアールの入超となったとしている。

非登録労働者の増加の原因は何であろうか。サンパウロ州立カンピーナス大学経済学部のマルシオ・ポッシュマン教授は以下の原因を挙げている。

  1. 不景気。登録労働者の率は工業労働者においてもっとも多いから、景気の回復により非登録労働者の率も多少改善される見込みが あるが、工場オートメ化とオフィスの情報化とともに、これまでのように大量の雇用増加は期待できない。
  2. 労働力の構造変化。賃金労働者から自営労働者に移行。工場労働者と異なり、たとえ登録労働者となっても組織化になじまないため、労働組合の基盤の強化につながらない。

この2つの理由で、労働問題の最低者と組合リーダーの懸念は十分に理由があるものと思われる。

ともあれ、非登録労働者の数が半分に近づきつつあると言う事実そのものが、労働手帳による労働者の登録制度の破綻を意味するもので、伝統的方法による検察と登録の強化の代わりに、新しい制度を創設することが必要な時がきているように思われる。

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