2001年の社会保障・事故共済・国立雇用庁予算

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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スペイン政府は2001年の政府予算を提出したが、これは、社会政策支出の拡大を特徴とするものであった。具体的には社会保障予算および国立雇用庁(INEM)予算がやや増大しているが、近年の支出大幅削減を回復するにはいたっていない。

ここでは社会保障、事故共済、INEM予算について分析するが、それに先立ち1990~97年におけるスペインと他のEU諸国との社会支出の比較を行う。

EU理事会は社会保障政策の統合を目指すことを定めた。また、労働者の基本的社会権に関するEU憲章も、域内市場の統合が社会政策の改善につながるように求めている。しかし、EU加盟から今日に至るまで、スペインは通貨統合に向けて多大な努力を重ねてきたが、その見返りとしての福祉水準の向上は期待されていたほどではなかった。スペインの欧州への経済統合は、社会的格差の拡大という犠牲のもとに実現されたものである。1997年には、EUにおける社会保障支出は、域内GDPの28.2%であったが、スペインではこれを6.8ポイント下回る21.4%にとどまっている。これは、統計上の比較が可能になった1980年以来の最大の差である。スペインが共同体に加盟した1986年の差は6.1ポイントであった。

1990~92年にかけては欧州平均への接近が見られたものの、その後は失業手当支出その他の社会保障支出の削減が続いた。また、1995年から99年にかけてスペインの社会保障支出は2.2ポイント減少している。2000年予算でも、社会保障支出の対GDP比は、1999年の水準をせいぜい維持するにとどまるものと見られる。EUでは1993年より社会保障支出は比較的安定した状態が続いているが、スペインでは1994年以降社会保障支出の対GDP比および国民1人当たり社会保障支出の減少が見られる。

当時の国民1人当たりの社会保障支出は欧州平均の66%であったが、1997年には62%にまで下がっている。欧州における1997年の1人当たり社会支出は5334ECU、これに対しスペインでは3297ECUで、ギリシャおよびポルトガルを上回っただけであった。

この傾向は、インフレ分を差し引いて計算するとより明らかになる。欧州全体の国民1人当たり社会保障支出が平均で9%増、またポルトガル、ギリシャ、アイルランドといった福祉水準がもともと低かった国々では17~24%と大きく伸びているのに対し、スペインはオランダ、スウェーデンと並んで2%削減している。しかし、オランダとスウェーデンは、非常に高い福祉水準を誇る国であり、社会保障支出もGDPの30%を上回るということを考えれば、一概にスペインと比較できない。

社会保障支出の内訳ごとにスペインと欧州諸国とを比較すると、以下のようになる。

  1. 欧州平均に対する差の絶対値がもっとも大きいのは年金(老齢年金+障害者年金+生活保護年金)で、スペインではGDPの11.2%であるのに対し、欧州全体では14.5%、すなわち3.3ポイントの開きがある。
  2. 次いで差が目立つのは家族保護(出産・産休を含む)で、1.9ポイントの差である。スペインでも欧州並みにこの方面での支出が増大しておれば、支出額は1兆5000億ペセタ(1ペセタ=63円)を超えるはずであったが、実際には3406億ペセタ余りにしかなっていない。
  3. 疾病に関する給付(医療費および経済援助)における差は1.3ポイントである。
  4. 社会的のもっとも恵まれない層が主な対象となっている住居手当等の一連の給付では、0.7ポイントの差がある。
  5. スペインが欧州平均を唯一上回っているのは、失業手当関連の支出である(欧州平均の対GDP比2.1%に対し2.9%)。ただし、当時のスペインの失業率が欧州平均の倍以上であったことを考えれば、これは当然といえる。

2001年予算における社会保障支出

社会保障・INEM関連支出だけで見ると、1995年以降の対GDP比の動きは以下のようになる(2000年と2001年は当初予算)。

2000年予算の社会保障費歳入は15兆7595億8100万ペセタ、うち65%(10兆3192億5800万ペセタが社会保障負担金支払、33%(5兆1950億3700万ペセタ)が国からの移転である。これは2000年の財源をほぼ8%上回っている。

一方、社会保障制度は、原則的に国家予算とは分離された独自の財政を有するものだが、実際にはそれだけでは財源不足を生じるため、国が予算から一部資金繰りを行っている。これは1995年に対し対GDP比で0.4%増となっている。

国からの財政援助は、1995年に対してGDP比で0.7%減となっており、社会保障制度・INEMも、国の財政赤字ゼロ態勢に貢献したと解釈することができる。

社会保障制度の予算

2001年の社会保障制度予算は15兆7598億8100万ペセタで、うち65%(10兆3192億5800万ペセタ)が加入者の負担金支払い、33%(5兆1950億3700万ペセタ)が国からの財源移転である。2000年と比較するとほぼ8%増となっている。2000年と同様、加入者の大量 増加により、社会保障制度への国からの借款は排されたが、国からの財源移転は前年と同じ水準(GDPの4.8%)を保っている。

加入者からの負担金支払額は8.6%増大している。中でも就業者による支払いと失業者による支払いとを区別 する必要がある。就業者による負担金支払いは、当初9%増を見込んでいるが、実際の徴収額は、これをさらに上回るものと予想される。

財政的には、加入者数は3.1%増、課税標準平均額は1.9%増、負担金支払いによる歳入(時間外労働に対応する分を除く)は5.1%増にとどまるものと推定される。

なお、政府は2001年のインフレ率を2%と見積もっているが、これにより社会保障制度負担金の徴収額にも当分影響が出てくる。2000年の国からの財源移転は5兆1143億400万ペセタで、対GDP比4.8%、95年からの上昇は0.4ポイントにとどまっている。

予算案では、社会保障制度歳出は15兆7000億ペセタで、2000年当初予算に対し8%増となっており、GDP成長率を上回る伸びである。

社会保障制度歳出項目の中で増額が見られるのは次のものである。1)年金。これは政府と労組の合意によるものである。3)出産・産休への援助。これは額は少ないが、家庭と労働の両立に関する1999年11月5日付法令に基づくものである。

政府はこれら各項目の歳出増を特に重要視しているが、詳しくは以下の通りである。

対2000年比(当初予算)

年金(社会保障制度への負担金支払い基づくもの)(1) 5.8%
年金(社会保障制度への負担金支払いに基づかないもの)(2) 6.4%
一時的労働不能(3) 12.0%
出産・産休(4) 14.1%
家族扶養援助(5) 13.1%
医療(6) 6.2%
社会サービス(7) 7.0%
財務・情報処理(8) 72.5%
社会保障制度全体(9) 8.0%
  1. 社会保障制度への負担金支払いに基づく年金。支出総額5.8%増は、名目GDP成長率の5.9%を0.1ポイント下回る。2001年のインフレ率は2%と予測されており、これを上回った場合には翌年に年金額の見直しが行われることになる。
  2. 社会保障制度への負担金支払いに基づかない年金。6.4%の増額だが、これは1990年に行われた制度改正によるものである。
  3. 一時的労働不能手当。12%増だが、これはもっぱら2000年当初予算との間に生じたずれが2001年予算に持ち越されるためという理由だけによる。
    2001年に向けての一時的労働不能手当予算は、1999年の実歳出に対して6.8%増となっているが、政府は今後も雇用が大きく伸びると予想しており、そのため2000年、2001年とも実支出が99年を下回ることは考えられない。
  4. 出産・産休手当。当初予算に対し14%と大幅に増えているのは、男性を上回る女性の雇用の伸びに加え、家庭と労働の両立に関する法令の適用によるものである。
  5. 家族扶養への支援。支援額の増額による歳出。
  6. 医療費。医療費歳出増を名目GDP成長率(5.9%)に一致させるとした医療費財政協定(1998~2001)、また同協定にも盛り込まれていた99年GDP成長率見直し条項に基づき、6.2%増となっている。すなわち、2001年予算では2001年名目GDP成長率に1999年の推定成長率に対するずれの分に当たる補填分を加えただけ、歳出増となる。伸びがもっとも大きいのは相変わらず薬品代(7.3%増)で、また自治州と中央直轄事業との間での財源配分の不均衡も目立つ。
  7. 社会サービス。7%の増額には事故共済の労災予防分も含まれており、したがってサービス実施主体やプログラムごとに分けて分析するべきであろう。
    社会サービスと理解できる部分は3.4%増、一方共済組合分は75%増大であるが、これは、2000年1月28日付法令で共済組合が一般健康診断を引き続き行うことが定められたためで、2000年の当初予算にはこの健康診断に伴う支出が計上されていなかったが、2001年には143億8700万ペセタの支出を予定している。
  8. 財務局および情報処理部門の予算は72.5%増となっているが、これは社会保障制度(共済を除く)の黒字分がこの項目にまわされたためである。黒字分(3011億6800万ペセタ)を金融資産の項目にまわせば、経常支出は4.4%増、投資を含めても8.8%増にとどまる。
  9. 社会保障制度全体の歳出増は8%であるが、金融操作を除く通 常の歳出だけでは6.3%増で、名目GDP成長率を0.4ポイント上回るのみである。

労災・職業病共済予算

2001年の労災・共済予算は、対前年比で23%増額する予定である。これは、共済システムによって、労災等による労働者の一時的不能に備えようという企業が年々増えているためで、これにともない、給付のコントロール機能を充実するための人件費・医療費も増大している。

INEM予算

1995年には、国がINEMの資金繰りに8017億余を出していたが、96年以降は社会保障制度の資金繰りを政府の一般予算から切り離すとの考えに基づき、国からの支援は徐々に減額され、2001年にはゼロとなっている。

最後に、社会保障制度とは区別される社会政策(労働・社会問題省社会問題局が実行主体)の予算は604億6100万ペセタ、42億1400万ペセタ増である(GDPの0.3%)。

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