政府、社会保障制度改革案を公表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年3月

社会保障制度改革の方向性

政府は2000年12月15日に、社会保障制度改革案の大枠を明らかにした。この改革案は、社会保障手当受給者の就労を促進することで、福祉に依存する者を減らそうという目的を持っている。

コステロ財務省長官などは、オーストラリアの社会保障制度自体が雇用者数の増大を阻んでいるとの主張を展開している。彼とリース雇用職場関係小規模事業省長官、そしてアボット雇用サービス大臣は、アメリカ型の社会保障制度を望んでいると伝えられる。アメリカ型の社会保障制度では、社会保障手当の水準は低く抑えられ、受給自体もより困難であり、結果的に失業者は労働市場への参入を余儀なくされる。したがって、アメリカ型の社会保障制度への移行は、必然的に労働市場改革(特に労働市場の規制緩和)を伴うと捉えられている。しかし、オーストラリアの有権者が彼らと同じような考えを支持しているとは限らない。そのためアメリカ型の社会保障制度への移行はかなり難しいであろう。

一方で、オーストラリア国内では「相互義務(Mutual Obligation)」という考え方が広く支持されるようになっている。つまり社会保障手当は、貧困線よりは低いものの、窮乏状態よりは高い水準に維持される。かわりに、手当受給者は、求職活動や職業訓練を受けることが義務づけられ、職が提供されればそれを受け入れなければならない。

今回公表された改革の方針は、これら一連の流れを反映したものとして見るべきである。

しかし、家族社会サービス省長官により公表された社会保障制度改革案の内容は、様々な要因によりその有効性が疑問視されている。まずこれを公表したニューマン家族社会サービス省長官は辞任する意向を示しており、彼女は改革案の起草者として記憶されたいがために、その公表を早めたといわれている。他方、政府は改革案の主要な部分について性急な結論を出すことを嫌がった。たとえば、支出額や手当の水準、手当の支給が停止される条件等が挙げられる。これらは、改革のもっとも重要な部分を成している。結局、今回公表された改革案は、政府の改革の意図を大まかに示すにとどまり、その実現の詳細は十分に明らかにされなかった。

改革の背景と内容

改革案が示された背景として、社会保障制度に依存する者の増大が挙げられる。いくつかの試算では、生産年齢人口の22%、あるいは7人に1人がなんらかの所得保障手当を受けているという。その費用は年間660億豪ドル(1ドル=60.9円)にも及び、そのうち210億豪ドルが直接的な所得保障手当として支払われている。増加が著しいのは、家族に対する支援の分野で、特に単身の親の受給者が増えている。単身の親の実に23%が、5年以上にわたり政府から手当を受けている。また、障害年金受給者も増加傾向にある。一方、失業手当受給者は約65万人に達し、このうち17万人は求職活動審査が課されていない。失業者の6割が1年以上手当を受けている。

こうした問題を解決するための方策が、すべての受給者(失業者、障害年金受給者、単身の親)に「相互義務」の原則を適用することであった。具体的には、「失業手当のための就労(Work for the Dole)」プログラムの対象者が、現行の34歳までから、「18歳から39歳まで」に延長される。さらに付加的要件として、職業訓練やキャリア・カウンセリングを受けること等が加えられた。

単身の親については、現在は子供が16歳に達するまでは自動的に受給権が発生するが、改革案では子供が6歳未満か障害を持つ場合にのみ自動的に受給権が発生し、6歳から12歳の子供を持つ親の場合は、就労計画や職業訓練等についての面接が課されることになる。

障害年金受給者に関しては、障害の程度に関するより詳細な審査が実施されるとともに、障害の程度に応じた職業訓練が奨励される。

改革案に対する批判

改革案が公表されると、各方面から様々な批判が提起された。もっとも大きな懸念は、改革案により生活が悪化する可能性があるにもかかわらず、その詳細な説明がないことであった。オーストラリア社会保障評議会(ACOSS)会長は、改革案では受給者に偏った義務が課され、政府や企業の責任が明確にされていないと主張した。

また、受給者に義務を課す場合、義務違反者にはどのような措置が採られるのかも明らかにされていない。さらに受給者の就労を促進するのであれば、雇用創出の努力が欠かせない。しかし、改革案では雇用創出に関する具体策が示されていないため、その有効性も問題となっている。

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