予想を超える景気減速で、多くの企業が人員削減

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

アメリカの記事一覧

  • 国別労働トピック:2001年3月

2000年後半には、前半と対照的に景気の減速とナスダック市場の低迷、ネット企業の破綻・縮小が目立つようになった。11月頃からは、製造業や小売業、さらに金融業界での人員削減も増えつつある。第2四半期の国内総生産(GDP)成長率5.6%に対し、12月下旬に修正された第3四半期GDP成長率は2.2%(2.7%、2.4%からの2度目の下方修正)と予想外の落ち込みとなり、連邦準備理事会(FRB)は、インフレ懸念よりも景気後退に対する警戒を強め、2001年1月初めに連日の緊急公定歩合引き下げに踏み切った。

2000年12月の失業率は、11月と同じ4.0%であった。12月の非農業部門の雇用者数は10万5000人増加した。非農業部門雇用者数増加の内訳を見ると、民間部門が前月比4万9000人の増加にとどまり、2000年春までに月に20万人から30万人の雇用増があった頃の勢いはなくなっている。その中で、サービス部門での雇用情勢は比較的良好で、雇用者数は18万3000人増加した。病院や育児施設などでの雇用拡大で、医療および社会福祉部門で、それぞれ12月に2万人の雇用増があったほか、トラック輸送、航空輸送では11月に続き、それぞれ1万人、また、銀行・保険・不動産業で、1万9000人の雇用増となった。政府部門では、雇用者数が5万6000人増加した。その内訳は、州・地方政府で6万5000人の増加、連邦政府での9000人の減少である。雇用状況が特に悪いのは製造部門で、エネルギー価格の高騰、高利子率、ドル高、悪天候の影響を受けている。製造業では12月に6万2000人の雇用減となり、その多くが自動車、自動車部品、ゴム、プラスティック、製鉄、製材、繊維、衣服業での雇用である。さらに、建設業では1万3000人の雇用減を見た。

12月には、クリスマス商戦によるサービス部門での雇用増という特殊要因があったものの、雇用におけるサービス業と製造業との明暗は、2000年第3四半期から鮮明な形で現れている。ただし12月には、寒波の影響で工場労働者の週間労働時間が平均で48分短くなった。このような大きな落ち込みを見せるのは、スト、嵐のような異常な状況においてのみで、1996年1月の暴風雪以来のことである。この悪天候が、クリスマス商戦、建設業の雇用にも悪影響を与えた。

通常、景気下降局面で最も早く悪影響を受けるのは、サービス部門の労働者派遣産業であるが、今回の景気減速でも例外なく、10月、11月の約4万人の派遣産業での雇用者数減少に続き、12月に7万8000人(記録上最多)の雇用減となった。

時間当たりの平均賃金は13ドル94セント(1ドル=115.8円)で、前月比0.3%の上昇にとどまり、賃金上昇の勢いも弱まっている。各企業は、人手不足の折に膨らんだ手当経費の削減から着手している。ゼロックス社や保険会社のエトナ社が社内のコーヒーを有料化したほか、犬の散歩への補助金などの人手不足の時期に追加された手当が、格好の削減対象になっている。諸手当や時間外労働時間に削減の余地を残していることから、人員削減の規模が今のところ抑制されているという見方がある。また、ハーバード大学のローレンツ・カッツ教授の研究によれば、以前の不況時に比べ、現在、一時解雇されている労働者は、若く、平均的には高い教育を受けており、他の地域に移動して仕事を探す意欲があるため、失業期間が短い。ただし、最初に一時解雇される労働者は、人手不足の中では雇用されたものの、比較的能力の劣る労働者であることが多く、この種の労働者の再就職の見込みについて悲観的な見方も存在する。

失業率の大幅な上昇は、まだ見られないものの、失業保険新規受給申請者数は、夏から秋までの毎週10万人前後に対し、12月初めからは30万人台に増加している。調査会社のISI社が、この統計の13週移動平均をとったところ、同統計の13週移動平均の12月以降の前年比増加率は20%台になっている。この統計は失業に関する先行指標で、多くのエコノミストは、失業率が1月には上昇し始め、年末には4.5%から5%に達すると予測している。

再就職斡旋のチャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社によると、米国主要企業が2000年12月に発表した一時解雇者数が13万3713人(うち小売業の3万9731人が最多)に達し、同社が1993年に、この月次統計を取り始めて以来の最多人数になった。

ネット企業と自動車関連企業における人員削減

チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社はまた、米国インターネット関連企業における人員削減が12月に初めて月間1万人を超え、2000年通 算で4万1214人となったと発表した。同年下半期の人員削減数は上半期の7倍と急増し、2001年に入ってからも、1月4日にネット上玩具販売のイー・トーイズが従業員700人(従業員の約7割)の削減を発表するなど、しばらくはネット企業での人員削減が続きそうである。チャレンジャー・グレイ・アンド・クリスマス社最高経営責任者のチャレンジャー氏は、ネット企業から解雇された労働者は、起業家的な会社に就職することを故意に避けるであろうと述べる。ネット企業からの失業者の再就職について、ABNアムロ社の主任エコノミスト、スティーブン・リシュート氏は、ネット企業と競合関係にある小売業が、ネット上の販売への投資を控える可能性があるため、解雇されたIT労働者はインターネットと密接に関わらない旧来型のビジネスでの雇用を探したり、学業の途上でネット企業に入った人たちが学校に戻って教育を受け直すことにするかもしれないと語っている。

ネット企業の多くは、消費者向け販売から企業向け販売へと戦略を変えるなどして生き残りを計っているが、必ずしも成功するとは限らない。ネット上でのコンテンツ(提供される情報内容)提供で生き残るためには、資金力、経営能力両面 で、既存の巨大メディア企業の一部として展開した方が有利と考えられている。その意味で、ほとんどが大メディア企業の一部として操業する、首都ワシントン周辺のネット・コンテンツ企業の方が、ニューヨークのシリコン・アリーの独立系コンテンツ企業よりも、将来性があると考えられる。その結果 、2001年にも続くであろうネット企業の一時解雇は、ワシントン周辺で、より限定的なものにとどまりそうである。

好景気中には家計部門の耐久消費財購入意欲が強かったが、需要一巡と消費者の保有資産価値の下落から、コンピュータ、自動車などの高額商品を買い控える傾向が出ている。その影響が顕著なのは、中西部の工業地帯である。2000年10月から12月にかけ、自動車部品への需要が大幅に減少し、12月上旬までに、ミシガン州のデルファイ・オートモーティブ社を初めとする中西部の自動車部品産業各社が数千人を一時解雇したほか、やはり自動車部品製造のミシガン州のビステオン社が新規採用凍結と時間外労働時間の大部分の削減を行った。

12月から1月に発表された人員削減の例

ワールプール(家電) 6000人削減(約1割)
チェース・マンハッタンとJPモルガン(金融) 合併により5000人削減
エトナ(保険) 5000人削減(12%)
ジレット(かみそり等製造) 2700人削減(8%)
モトローラ 2500人
プルデンシャル(保険) 約180人(投資銀行部門の90%)
シアーズ(百貨店) 2400人(1%)
オフィス・デボ(事務用品販売) 1600人(3%)
ブラドリーズ(ディスカウント・ストア) 1万人近く(破産申請)

米ビッグ・スリーの新車販売台数は、2000年12月に、それぞれ前年同月比14%以上の落ち込みを見せ、各社は在庫削減を目的にした生産調整を進めている。3社は2000年11月20日から3日間、GMの1万人など、計1万5300人を米国・カナダで一時解雇した。ゼネラル・モーターズ(GM)社やフォード社に比べ、販売台数が低迷しているダイムラー・クライスラー社は、2000年11月より米国・カナダの各工場で数千人規模で一時解雇を行っていたが、1月にも1週間の操業停止を各工場で行った。これに加え、1月3日、1月後半に3000人規模の一時解雇を行うと発表した。さらに1月29日、北米のクライスラー部門に働く従業員を向こう3年間で2万6000人削減する計画を発表した。シェアが減少し、かつては考えられないほど第2位のフォード社に肉薄されているGM社は、2000年12月12日に、2001年に始まる何年間かで、北米とヨーロッパの従業員1万4000人を削減する計画を明らかにした。また同社は、2001年1月4日、米国・カナダの8工場を翌週に1週間操業停止して2万1000人を1週間一時解雇すると発表した。フォード社は12月下旬、北米の大部分の工場を1月に少なくとも1週間操業停止すると発表している。

ブリヂストン・ファイアストン社は2000年8月、同社のタイヤを装着したフォード・エクスプローラ車の事故多発により、大量リコールを強いられ、10月17日に、多くの不良タイヤを製造したイリノイ州ディケーター工場の450人を無期限で一時解雇し、同工場を含む3工場の最長4週間の操業停止を発表した。同社は、販売量がさらに落ち込んだため、11月17日に、テネシー州ラバーン工場の400人およびオクラホマ州オクラホマシティー工場の700人を2001年1月21日から6月末まで、同期間の給与の8割を保証して一時解雇すると発表した。

2001年1月中旬現在、旧来型産業とIT産業との共存と良い相乗効果が出ている首都ワシントン周辺の生命科学関連産業などの好調が伝えられる一方で、シリコンバレー周辺の電力不足が雇用に与える影響が懸念されている。

2001年3月 アメリカの記事一覧

関連情報