最近の労働立法の動向

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年2月

過去5年間、労働の分野、とりわけ労働関係の規整の分野において、多くの重要な法律が制定されてきた。このような立法の例としては、例えば、30年ぶりに法改正が行われた障害者の職業紹介に関する新法、EC 指令を受け入れて制定された育児休業に関する新法、1997年6月24日法律196号(いわゆるトレウ法)における派遣労働の解禁やその他の雇用対策措置の導入、不可欠公共サービス部門におけるストライキ権の行使に関する法律の改正を挙げることができよう。

さらに議会は、委任立法という手段を通じて、職業紹介の分野における地方分権化や手続面の改革に関する法律の制定を政府に委任してきたし、労働時間、時間外労働、深夜労働に関する法律、若年労働者の保護に関する法律、パートタイム労働に関する法律などについても政府に立法を委任してきた。

この他、まだ法律として成立していない法案も数多く提出されてきている。中でも特に注目されるのが、組合代表に関する規定の改正法案といわゆる非典型労働ないし準従属労働(本誌2000年10月号参照)の規制のための法案である。

現在、組合代表に関する法改正は、1年以上もの間、経営者側による強い反対と中道左派政権の与党内部での対立などが原因となって中断してきている。これに対して、非典型労働に関する法案については、議会での審議は順調に進んできた。現時点では、組合代表に関する法律が成立する可能性が低いのに対して、非典型労働に関する法律が成立する可能性は高いとみられる。法律になるかどうかはともかく、いずれにせよ現在議会で行われている議論は、組合代表、非典型労働のいずれの分野においても、将来の法規制のあり方に影響を及ぼすことは不可避である。そこで、以下、この2つの法案の内容について、紹介することとする。

組合代表に関する法案

イタリアにおける組合代表については、民間部門においては、1970年5月20日法律300号(労働者憲章法)19条で規制されている。同条は、1995年の国民投票で修正を受けた後、現在では、事業所組合代表(RSA)は、当該企業において適用される労働協約に署名した労働組合の範囲で、労働者により結成することができる(ただし、従業員数が15人を超える事業所に限る)、という規定内容となっている。

労働者憲章法は、事業所組合代表に対して、一定の権利や便益を認めている(有給の組合休暇、就業時間内での労働者集会の招集権、組合通知を掲示する権利、組合事務所の利用、解雇や配転に対する特別な保護)。他方、事業所組合代表には、法律上は、団体交渉権限が認められていない。

工業部門では、労働者憲章法の内容は、1993年12月23日により総連合間協定に統合されることとなる。この総連合間協定は、新たに統一組合代表(RSU)の結成を定めるものであった。この総連合間協定は、同年7月に締結された政労使三者間協定の内容を受け継ぎ、それを具体化したものであった。そして、この政労使三者間協定では、団体交渉のレベルについて、産業別レベルと企業・地域レベルの二段階構造とすることを定め、2つの団体交渉レベル間での権限を調整するための基準を定めた(同一の交渉事項についての二重交渉排除の原則の定立)。

1993年12月の総連合間協定は、統一組合代表の結成方法やその権利・任務について定めていた。同協定では、統一組合代表の結成方法については、委員の3分の2は従業員により選挙で選ばれ、残りの3分の1は、当該事業所に適用される産業別全国協約に署名をしている労働組合により指名されるものと定められた。さらに、統一組合代表の権利と任務については、統一組合代表は、労働者憲章法が事業所組合代表に認めていたすべての権利と便益を引き継ぐと定められた。さらに、統一組合代表または産業別全国協約の締結組合の地域支部は、当該事業所に適用される全国労働協約の定める事項、手続、態様、範囲内において、事業所協約を締結することができると定められた。

公共部門においては、1995年以降、体系的な法規制が行われてきている。そこでは、法律により、組合代表の結成方法、組合の代表性の測定指標(部門ないし個々の行政機関の範囲内において、職員の最低限の同意を得ていること)が定められている。代表性を得た労働組合は、行政当局と団体交渉する権限を取得することができ、その締結する労働協約は、当該行政機関に所属する職員全員に対して効力を有する。

1996年以来、多くの法案が、前記の総連合間協定を法制度化することを目的として提出されてきた。その一方で、現実には、この総連合間協定は、他の部門(金融、商業、手工業)にも拡張されていた。

その後、提出されていた多くの法案は1つの法案に統合されたが、その内容は、総連合間協定に基づきこれまで展開されてきた労使関係の枠組みを崩し、企業側にも新たな負担を負わせるものとなっており、多くの批判を招くこととなった。この法案の内容は、次のようなものである。

  • これまで適用が除外されていた従業員数15人以下の事業所においても組合代表の選挙を行うこと
  • 組合以外の労働者集団にも、統一組合代表の選挙リストの提出権を認めること
  • 団体交渉のレベルと交渉主体を定めること
  • 組合代表の二重化を認めること
  • 使用者が組合費をチェックオフする義務を復活させること
  • 労働協約の一般的拘束力を定めること(これには、憲法上強い疑義がある)
  • 使用者の代表性に関する指標を定めること(これには、実際上の意味がないという批判が可能ある)

である。

この法案は、個々の規定の修正だけでは、広いコンセンサスを得られるものにはならないであろう。少なくとも経営側は、この法案が今後、立法化のプロセスを順調に進んでいくとは考えていない。

経営側は、もう一度ゼロから、法案を作り直すことを要求している。その際の基本的な指針は、次のようになる。

  • 労使の代表性の判断基準を定め、その労使に、組合代表の結成方法、適用範囲、権利、便益、関連する負担についての決定を委ねること
  • 経済や生産に関するニーズの変化に応じて、労使が組合代表の規範的枠組みを自由に決定できるような弾力的なルールを定めること

である。

議会の審議においては、法案は、野党により強く反対されている。さらに、下院の審議での最終段階において、与党内においても対立が生じた。さらに、法案に対する批判には、与党内の中心勢力からも賛同者が出てしまい、その結果、審議はストップすることとなった。そのため、現在では、この法案が法律として成立する可能性は、きわめて低い状況にある。

非典型労働

イタリアにおいては、従属的ではないものの、注文主の業務に機能的に統合されて業務を行うという「継続的連携協働」という形態の労働が普及してきている。しかしながら、このような形態の労働を規律する法的な枠組みは、イタリアには存在していない。イタリアの法制度は、実質的には、従属労働と独立労働という二分法に依拠しているからである。換言すれば、労働者の中には、従属労働関係に典型的な権利や保護をすべて享受する従属労働者と、このような保護をまったく受けず、実質的に民法により規制されることとなる独立労働者だけしかいないのである。このような法的枠組みにおいては、独立労働者ではあるが、従属性も大きいというような継続的協働形態を適切に法的に規律することはきわめて困難となる。

イタリア工業連盟は、従属労働者とそうでない協働労働者との違いを明確にするために、特別の法律を制定するということに賛成している。特に、裁判官が、企業側により負担の重い従属労働関係の存在を容易に承認する傾向をもつだけに、なおさらである。ただ、このような観点からみると、現在出されている法案には、不十分なところが少なくない。法案では、協働労働者に、従属労働者と同じ保護や権利を認めるということが意図されており、生産側のニーズに応えるものではないからである。

経営者側としては、望ましい立法措置は、次のようなものであると考える。

第1に、法律は、従属労働に関する規制の適用範囲を明確に定めなければならない。

第2に、そのうえで、個々の法律関係に対して従属労働に関する規制が適用されるかどうかを確定する基準を定めなければならない。そのための唯一の基準となりうるのは、契約締結の時点で表明された当事者の意思である。

第3に、準従属労働関係の解約は、一般的な契約法理に即して規制されなければならない。すなわち、解約に正当事由や正当理由を必要とする従属労働関係と混同することなく、解約の自由が規定されなければならない。

第4に、以上の原則を確認したうえであれば、労働者の人格にかかわるような権利や保護、例えば、契約の形式、報酬の決定基準、社会保障上の保護、その他憲法的価値をもつ権利を継続的連携協働者や準従属労働者にも承認することは可能である。

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