準従属労働の分野における団体交渉の発展
―エミリア・ロマーニャ州のケース

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年10月

従属労働とは異なり、準従属労働(注1)の分野において団体交渉が行われた例は、数年前までは、ほとんどなかった。それは、準従属労働に従事する者と彼らを利用する者との間において、真の意味での労使関係システムが構築されていなかったからであり、また、継続的事業協働者(準従属労働者)を代表する者が十分な交渉力を有していなかったからでもある。当初は、1998年8月8日にCISALTOとSAPEとの間で締結された労働協約が、全国レベルで締結された唯一の労働協約であった。しかし、この協約は、協約締結主体の代表能力に問題があるとして、厳しく批判されていた。

その後、徐々にではあるが、この分野での労使自治も進展してきた。三大労組の中にも、非典型労働や準従属労働を専門に扱う組合が出てきており、議定が結ばれる例も現れている。このような現象は、トスカーナ州で顕著となっており、中でも CGIL(イタリア労働総同盟)系のNIDILが最も活発に活動しており、いくつかの協定を締結している。

これまでに締結されてきた協定を見ると、質的な面でも準従属労働における労使関係がダイナミックに発展してきていることがわかる。協定は数的にはまだ少ないが、それは、団体交渉の発展が実質的には1999年にようやく始まったという事情によるところが大きい。

以下、本レポートでは、エミリア・ロマーニャ州において準従属労働の分野において締結されてきた協定を取り上げ、同州における準従属労働者の団体交渉の進展状況を概観することとする。

エミリア・ロマーニャ州のケース

(1)協定の内容

エミリア・ロマーニャ州における準従属労働の労使関係は、まだ限定的なものにとどまっている。民間部門では、CGIL系のNIDILと社会的協同組合との間に締結された協定が唯一の例である。このことは、準従属労働を利用する企業が増えている(これは、INPS<全国社会保険公社>における特別の基金に加入する非従属労働者が全労働力の10%に及んでいることから確認できる)にもかかわらず、また非典型労働者や準従属労働者を組織化する組合が存在し、その組合への加入者が増加しているにもかかわらず、民間部門では、団体交渉はほとんど行われていないということを示している。

他方、公共部門では、2000年2月14日に、エミリア・ロマーニャ州と労働組合(CISL<イタリア労働組合連盟>系の ALAI、CGIL系の NIDIL、UIL<イタリア労働同盟>系の CPO)との間で協定が締結されている。協定は2つの部分からなっており、前半は、準従属労働の発展に関する共通の指針、後半は、準従属労働の展開状況をより適確に把握するよう州政評議会が責務を負うこと、である。

まず協定の前半部分については、INPSの特別基金に加入している独立労働者と準従属労働者を対象としており、従属労働者は除外されている。そこでは、職業活動プロジェクトを助成するための措置が設けられている。これは、2000年2月8日の州政評議会の決議を受けて定められたものである。

この州政評議会の決議は、2つの部分に分かれている。1つが独立労働者の団結組織の支援を目的とし(付則 A)、もう1つが独立労働者の職業活動の支援を目的としている(付則 B)。どちらの支援も、それを受けるために5月31日までにプロジェクトを申請しなければならず、そこで認可されれば州より財政的支援が行われる。

付則Bについては、複数の労働者の共同の職業活動、個々人の職業活動の2つのタイプに区別して助成が行われる。その申請方法は簡便であり、また物的資源の取得、コンサルタント、ウエッブ・サイトの開設、マーケティングの費用、定期刊行物の購読予約、データバンクなどに対しても助成が行われる。

財政的支援の許可要件からは、次のことが明らかになる。第1に、40歳未満の者と1999年の所得が6000万リラ(100リラ=4.76円)以下の者を対象としていることから、若年者で低所得者の事業協働者を助成しようとしている。そのため、事業協働による所得が唯一の稼得手段でない者や複数の事業協働者の合算所得が低くないような者は、助成対象から除外されることとなる。第2に、支援の優先順位の付け方からみると、個人プロジェクトよりも、複数の者が集まったプロジェクトを優遇しようとしている。前記の2月14日の協定でも、労働者の集団化が明確にその目的とされている。他方で、企業を創設することと、事業協働者の結集とは分けて考えられており、起業の助成は目的とされていない。あくまでも、個々の事業協働者の質を向上させて、彼らの地位を安定化させることが目的とされている。

このような助成措置は、申請者が多数いるならば今後も繰り返されることとなろう。

(2)エミリア・ロマーニャ州の状況

エミリア・ロマーニャ州における準従属労働者に対する助成措置の基本にある考え方は、社会的保護や法的保障が十分ではない準従属労働者に対して助成措置を与え、期間の定めのない従属労働とは異なるタイプの労働もきちんと法的に認知し、その質を高めていくための条件を整備するということになる。

そのため、州は、準従属労働者の育成と専門技能の修得のために必要な真のニーズを探ろうとしている。エミリア・ロマーニャ州は、このような政策を遂行するうえでの理想的な条件を備えている。第1に、同州は、ほぼ完全雇用が実現されており、失業率はイタリアの全国平均よりも7%も低い(イタリア全体で11.1%であるのに対し、エミリア・ロマーニャ州は4%である)。第2に、若年者の失業率も、全国平均に比べてそれほど高くはない。このような状況ゆえ、非典型労働に従事している者を、公的助成をより必要としている弱者とみなしたターゲット・ポリシーを実行する余地が出てくるのである。

州が準従属労働を推進するのは、将来の労働市場の動向を見据えているからでもある。例えば現在、若年者失業は減少しているが、このことは労働市場にこれから参入する人的資源を不足させ、将来の経済成長の不安要因となっている。さらに、技術的・専門的能力の不足が指摘されており、それを補うためには、これから労働市場に参入する労働者への訓練を行うしかない。

このような問題に対処するために、非典型労働を用いることは必ずしも適切ではない。非典型労働者は、期間的に限定され、安定した労務提供を行えないからである。しかし、継続的事業協働という契約形態を利用することは、期間の定めのない従属労働を用いなくとも、技術的・専門的能力に対するニーズに応えることができるであろう。それゆえ、準従属労働者の技能や専門能力の向上は、特に考慮される必要があるのである。

継続的事業協働者の47.5%は先端の第三次産業で働いているし、INPSの特別基金に所属している者の年齢の平均は39歳であり、若年者の比率はますます高まってきている。このようなデータは、州の政策のターゲットを若年者とすることを正当化することになる。

ただし、このような事業協働者の増加を、雇用の創出のための手段と考えるべきではない。事業協働者の活動が活発に展開してきているのは、主として失業率の低い州であるということからも、このことは確認できる。つまり、事業協働者の活動が普及しているのは、労働機会が多いところであり、そこでは多様なニーズが生じて、非典型労働も多く利用されているのである。そして、このことは、準従属労働の利用についても、様々な現実があり、時には労働コストの節約だけを目的とするというケースがあることには留意しておく必要がある。しかし他方で、伝統的な労働関係からはずれながらも、継続性、連携性、個性をもって働くことのできる準従属労働形態を理想とする意識も高まってきている。準従属労働者の32%が自らの働き方を望ましいと考えており、26.5%が安定的雇用への変更を望んでいないというデータもある。

もちろん、多くの者がまだ準従属労働形態に満足していないという事実を過小評価してはならない。しかし、だからといって、準従属労働を選択する者の専門技術の向上を重視しないというような政策的態度をとるべきではない。

若年者の準従属労働者にターゲットをしぼった措置が行われるのには、次のような理由もある。若年者の最初の就職が非典型契約や有期契約によるというケースが、年々増えてきている。そこで準従属労働に従事することにより、期間の定めのない従属労働ではなくても、専門性を高めることができるとすると、より大きなモティベーションと満足をもたらすことになる。そうすると、準従属労働を、伝統的な安定的な契約を締結するまでのワンステップにすぎないという見方をする若年者は減少することになろう。実際、準従属労働者に対する助成措置(例えば、訓練措置)は、準従属労働の不安定性を減少させることに貢献するであろう。

(3)協定のその他の内容

協定の後半部分は、準従属労働者に対する助成措置を定めるだけではなく、州政評議会の一連の責務についても定めている。その中でも最も重要なのが、契約内容に関する責務である。

州政評議会は、準従属労働の重要性を評価し、その問題を認識し、一貫した体系的な措置を通して解決を与えるということを意図して、労働組合との合意のうえ、専門的能力を強化するための措置(例えば、継続的訓練)について決議を行わなければならないとされている。また、準従属労働について分析・監視をし、指導や需給のマッチの促進、さらに職業訓練センター、商業会議所、学校、大学と協力して、技術的援助を行わなければならない。州と経済界や労働界との協議の席を設けることも予定されている。

しかし、最も興味深いのは、州政評議会が、継続的連携労働関係について、労働組合と協力のうえ、契約の最低限の内容を定める決議を行うとされていることである。このような最低基準は、州との間で請負契約などにより取引をしている企業、公共団体、国家持株会社にも適用される。

このような最低基準が設定されることになると、準従属労働契約の発展の余地がいっそう開かれることになろう。もっとも、最低基準の策定作業が、いつ、どのようにして行われるのかはまだはっきりしないが、現時点では、州と労働組合のやるべき作業の方向性が定められただけで十分であろう。

2月14日の協定では、州政評議会が準従属労働における団体交渉を発展させる責務を負うこととされている。このような州レベルでの経験は、他の州での準従属労働の団体交渉のモデルとなりうる。実際、エミリア・ロマーニャ州の経験は、ラツィオ州と NIDIL、ALAI、CPO との間の協定とも接点がある。

このように準従属労働の分野においても労使関係が徐々に発展し、特に1999年には一定の成果があがっている。確かに、前記の協定は、単なる出発点にすぎない。しかし、いくつかの重要なポイントがある。例えば、労働者の結集に対する助成措置がそれである。これは労使関係の発展を助けることとなり、そこで締結される協約は、将来に法律を制定する際の参考モデルとなるであろう。そして、このようにして、労働法がかつて労使間の団体交渉を通じて発展していったのと同じような発展経過を準従属労働に関する法もたどっていくかもしれない。

以上のことをふまえると、現在、下院で議論されている法案には問題があると言えよう。法案は、準従属労働者を従属労働者に近づけて規制しようとしており、それゆえ、現に多くの厳しい批判にさらされている。法案は、最小限の規制を行うのにとどめるべきである。そうすることにより、労使自治に委ねられるべき領域が広がり、そこにおいて実態に応じた多様な保護が講じられることになるであろう。

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