ハンガリー/テレワークは雇用のための魔法の道具ではない

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年2月

政府計画によるテレワークの実施

1990年代の後半(1997年)、ハンガリー労働省はテレワークを普及するための協会を設立した。この協会は1998年から99年にかけて、テレワーカーを志望すると思われる者たちについての調査を実施した。1万3000人から1万4000人におよぶ潜在的「テレワーカー」の調査対象者中、その68%が人口動態的、社会的特性に関するアンケートに回答した。注目に値することだが、68%という回答率は非常に高い。このように高い回答率が得られた理由は、中でも、ハンガリーにおけるテレワークの需要側特性調査を行う政府計画のタイミングが良かったからである(備考・ハンガリーでも欧州でも、テレワークの概念、つまり、一般的なデジタルワーク、eワークについては様々な議論がある)。

政府計画の重要な前提と意向は次のようなものである。すなわち、テレワークは失業者数を減らすのに有意義であるかどうかということであり、さらに、それに関連して、労働市場に存在する地域間の不平等を少なくできるのかということである。新しい情報通信技術の積極的な役割については、学術的な専門家も実務的な専門家もこれを楽観視しすぎている。これら専門家の中には、この技術を経済的な繁栄を促すばかりではなく、社会参加の機会さえをも促す「魔法の道具」と見なす者もいる(欧州共同体が、より幅広い参加型社会の発展にデジタル技術が果たす役割を調査するためのプロジェクトを優先しているのは、単なる偶然ではない。これらのプロジェクトは「デジタル民主主義」と呼ばれている)。

以下の項では、本分野における初の経験的な研究成果を用いて、将来のテレワーカーに関する人口動態的・社会的労働市場の重要な特性を述べたいと思う。政府の意図はテレワークに関連した活動の需給両面を調べることであった。残念ながら、使用者は本調査に加わることに全く関心を示さなかった。

潜在的テレワーカーの技能構成と人材特性

1998年から99年に行われた全国調査の結果、ハンガリーの将来的な潜在テレワーカー集団の学歴は、失業者集団のそれと比べてはるかに高い。

将来、テレワーカーとして働きたいと思っている求職者の代表的な学歴の特徴は、セカンダリー・テクニカル・スクール(商業系教育重視の中学校)卒と単科大学卒である。つまり、この集団は比較的高度な教育を受けており、従来型の仕事を簡単に見つけられるであろうし、社会的、経済的、身体的にハンデを負うグループに分類されない。しかし、経験に基づく本調査の結果を取りまとめた研究員の1人が気づいた ように、将来のテレワーカーの相当数が「就労貧困層」の範疇に分類され、雇用されてはいるが、その仕事から得られる収入は、満足できる生活水準を保証するには不十分だったということである。

これらの人々は、テレワークを利用して主たる収入を補完したいと願っている。将来のテレワーカー、つまり「潜在的」テレワーカーの主な特徴を第1表に示す。

その他、潜在的テレワーカーの資格について興味深い特徴は以下の通り。

  1. これらの人々の4分の1が情報技術に関して何らかの種類の資格を持っている(たとえば、プログラミング、システム設計、オペレータ、ソフトウェア・オペレータなど)。
  2. 将来のテレワーカーの2人に1人以上(57.7%)が外国語を話せる。しかし、正式な語学証明書を持っていたり試験を受けているものはその5分の1以下(16.8%)である。ただし、テレワークという形で翻訳者として働きたいと思っているものは2%から3%にすぎない。

テレワーク志願者の学歴に関して触れる必要があるが、彼らの圧倒的多数(90%)は、追加の研修プログラムを受講することを強く望んでいる。これらの人々の4分の3以上(85%)が情報技術(IT)のテーマに的を絞った追加研修への参加希望をすでに表明している。

ハンガリーの将来のテレワーカーは、その大半が相対的に若い年齢層に分類される。すなわち、将来の女性テレワーカーの5分の1(19.8%)は、20歳から24歳までの若年層に分類される。調査に参加したテレワーカー志望者の10%弱が退職している。その中で女性の割合(16.9%)は、男性の割合(6.9%)に比べてかなり高かった。

ハンガリーでは、いわゆる非就労人口は退職人口以外に、他の2つのサブグループに分類できる。第1サブグループの代表は学生で、彼らの8%がテレワーカーを志望している(注・就労人口に対する学生の割合は10%である。また、各種形態の母親支援制度を利用している女性の割合は、ハンガリーの就労人口の7.8%である。1999年の就労人口者数は370万人であった)。

非就労人口の第2サブグループの代表は、母親支援制度で休暇中の女性である(注・現在は極端に低い出生率の増大を目標にした母親支援制度が、ハンガリーには何種類かある)。様々な形態の母親支援制度を利用している女性の15.5%が、将来はテレワーカーとして働きたいとの意思を示した。

将来のテレワーカーの家庭事情を評価した結果、次のように結論してもいいだろう。すなわち、男性の57%と女性の30%には子どもがいない。テレワークの仕事を希望する者の中で、子どもが1人いる者は25%、2人いる者は26%である。3人以上の子どもがいるテレワーク志願者は、1989年と99年に調査した人々の10分の1に達しなかった。

潜在的なテレワーカーとその地域的な背景

ハンガリーにおける将来のテレワーカー集団にはさらに2つの特徴がある。まず、調査される人々の居住地がハンガリー中心部(たとえば、首都ブダペスト)から遠ざかるにつれて、テレワーク志望者の数が減少していることである(注・将来、テレワーカーとして働きたいと表明した調査対象集団の30%はハンガリーの首都に住み、10%以上がペシュトの中部郡に居住している)。次いで、このようなデジタル業務を志望する者の大部分が、失業率の高い地域に住んでいないということである。

これらの特徴から分かることだが、ハンガリーの周辺地域や低開発地域で雇用の機会を増やすことを目的として(たとえば、テレワークという形態などによる)、情報通信技術の役割を望んだり期待するのは現実的ではない。失業率と将来のテレワーカー構成(または構成分布)との関係を示す第2表を参照されたい。

まとめ

将来、テレワーカーとして働きたいと述べた人々の社会的、人口動態的特性は、失業集団のような労働市場の底辺グループの特性とは著しく異なる。ハンガリーの労働市場のもう1つの重要な特性は下記の点である。すなわち、ハンガリーでは居住地が小さければ小さいほど(たとえば、小さな市や村)失業率は増える。大都市における将来のテレワーカーの数は平均よりも多い。つまり、テレワークの仕事を希望する人々の5分の2以上はハンガリーの首都を初めとした大都市に住んでいる。これに関連して、将来のテレワーカーの大多数(70%)が平均よりも経済状態のいい都市に居住している点に注目すべきである。

テレワーカー志望者の構成に関しては、このグループの特徴はかなり不均一で、「企業家」と「社会的・身体的ハンデを負った」人々との双方が含まれていると言えるだろう。

様々な特質(たとえば、学歴、技能の種類など)を評価した結果、ハンガリーの社会学者の多くは、情報通信技術で社会的不平等が減らせるとの楽観的な観測を行っているが、これは非現実的であり、最近の経験的な証拠で裏づけられていないと断定してもよいだろう。テレワークは新しい重要な作業形態の役目を果たすと思われ、政府支援による意欲的な労働市場プログラムにはこのテレワークを組み込むべきである。情報通信技術は、ハンガリーの経済復興のための新しい活力の役割を果たすと思われる。この技術を利用しない限り、ハンガリーは国際的な労働の分業に占めるその地位を向上させることができない。デジタル技術を利用しなければ、ハンガリーの雇用情勢は全般的に改善されない。国の周辺地域の経済開発を加速させるための政策では、労働市場に関わる政府の一層のイニシャティブばかりではなく、種々の社会的、経済的部門(たとえば、教育機関、使用者団体、地方政府など)のより調和のとれた行動も必要である。

参考

MITEL-Virtually There: The Evolution of Call Centres, (A study into virtual call centres and the opportunities and challenges for teleworkers and employers), London: PortobelLOPress, p. 79. Neumann, LaszLO(2000) "A ta´vmunka´ra jelentkezo¨k munkaero¨-piaci kina´lata", Munkau¨gyi Szemle. ju¨lius-augusztus, pp. 22-28.

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