ストの季節再び

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2001年2月

1970年代から80年代、毎週一括して「今週のストライキ」として列挙されたストライキがほとんど見られなくなって久しかった。ところが、2000年末はストライキが連続して起きている。

その1

まず10月末、東北ブラジルのペルナンブコ州の州都レシーフェで、1週間にわたり1万5000人の警察軍兵士のストが発生した。理由は、州政府が約束した州警察軍の兵士と下士官の俸給の引上げを怠ったことである。スト最中に自動車の盗難は3倍に跳ね上がり、殺人は50%増加した。スト兵士たちは市中の交通を遮断し、違法行為で留め置かれている車や盗難車を使ってデモ行進し、州政庁に侵入しようと警備の兵士と揉み合い、ピストルを威嚇発射して市民の1人を負傷させた。ジャルバス・バスコンセーロ州知事は一切の交渉を行わず、10月27日までに400人の警察軍兵士を罷免し、新しい兵士を募集するとともに正規軍の兵士の支援を要請したので事態は収拾された。

警察軍のストライキはこれまでも度々発生している。

1997年、ミナス州警察軍が賃上げを要求して「山猫スト」を行い、エドアルド・アゼベード州知事はストに屈して兵士の要求を入れた。このストはペルナンブコ州にも波及し、警察軍兵士の12日間のストの後、ミゲル・アラエス元州知事(古くからの高名な共産党員)は、州議会に賃上げのための一括法案を提出してこれを収拾した。ストは、さらにセアラ州に波及したが、タッソ・ジェレイサッチ州知事は一切譲歩せず事態を収拾している。

今回のレシーフェのストライキは、ミゲル・アラエス元知事が開いた前例を廃して、新しい慣行を作ろうとした現知事の勝利である。

さて、ブラジル社会の2つのバックボーンは、教会と軍部であるが、カトリックの聖職者と正規の国軍には未だストは発生していない。ブラジル人もこの2大組織にストが発生したのでなければ、大抵のことには驚かなくなっている。

その2

11月28日、サントス港湾労働者がストライキに入った。

ブラジルの港湾は近代化が遅れ、手配師とさして変わらぬ前近代的な港湾労働組合が支配していた。港湾労働者は臨時労働者ばかりなので、組合幹部の意のままに働く者に職が割り当てられる一方、これに反抗する者には職が回ってこず、情実とピンはねが横行していたのである。

政府は、港湾の近代化を目指し1993年港湾法(法律第8630号)を施行して、雇用機関である労働者管理機関(OGMO)が港湾労働者を直接雇用し、手配師の介入する余地を排除した。

ところが、この移行は思ったように進まず、あいもかわらず同法施行以前からの労働者の割り当てには組合支配が継続している。その1つの理由は、いわゆる沖仲士の仕事は臨時労働者の仕事ではあっても特殊技能(クレーンの操作、船内沖仲士業務など)であるので、これまでの組合支配を排除することはできず、労働者の約半数とくに現場長、熟練労働者のほとんどは、今でも組合の支配下にあることである。

今回のストは、組合の手配師を排除しようとする港湾当局とこれまで通り実権を維持しようとする組合の間の抗争であった。

検察局は港湾法の完全実施を目指して裁判所に「手配師」の業務をOGMOに移管するよう訴えていたが、サントス労働裁判所第6法廷は10月31日、労働者の割り当ての権限は港湾法に基づいて OGMOにあることを確認したので、警察軍兵士200人を出動させ11月28日、OGMOが港湾労働者の割り当てに乗り出したところ、組合の指令による労働者のストにあったわけである。

結果は、OGMOが譲歩し、これまで通り組合の手配師の仕事は黙認されて港湾業務は再開された。

その3

11月13日、中央労組(CUT)とフォルサ・シンジカル(FS)の支配下にあるサンパウロ州の自動車組立工場の労働者6万人は、10%の賃上げを要求して一斉にストライキに入った。労使の交渉は当初の要求を持して譲らない組合側とこれを6.5%に抑えようとする経営者団体(ANFAVEA)の間で行われたがまとまらず、地方労働裁判所の裁定に持ち込まれた。裁判所の調停案8%賃上げを労使とも蹴って、裁定に持ち込んだのである。結局、裁判所の裁定で組合側の全面勝利に帰し、労働者は20日、現場に復帰した。

向こう1年間の労働協約の主要な条項は次の通り。

  • 年間の生産性向上分3.9%プラス年間インフレ率で10%の賃金調整。
  • 90日の雇用保証。

ここのところ、自動車工業労働組合は IT 化と人員削減の嵐に見舞われ、もっぱら防戦を強いられていたが、久し振りに賃上げを獲得した。

なお、自動車部品企業の賃上げ交渉も並行して行われたが、こちらの方は8%の賃上げと一時金20%の支給で交渉が妥結している。

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