労働者の仕事に対する満足度

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年12月

ここ数年間、スペインにおける雇用の成長は欧州連合の中でも群を抜いているが、その一方で雇用の質が低下していないかという点が大きな議論を呼んでいる。ところが、議論の当事者たちがそれぞれ独自の基準を適用するため、より質のよい雇用とは何かを論ずるのでなく、「何をもって雇用の質というのか」という定義づけの問題に終始している感がある。

一般に雇用の質を評価するには、2種類の評価基準が用いられる。まず、主観的基準があげられるが、これは労働者自身の満足度と関連するものである。これに対して客観的基準と呼ばれるものは、雇用をめぐる一定数の諸要因を評価し、指数化したうえで、雇用の質の変化をたどろうというものである。本研究では、労働・社会問題省が行った詳しいアンケート調査の結果に基づき、主観的基準にしぼって見ていくことにする。

アンケートから言えることは、雇用の質が労働者の満足度という主観的なものだけで計れるとすれば、スペイン人の雇用は質が高いということである。自分の仕事にあまり満足していないと答えたのは、全就業者のわずか10%だけである。これに対して44.6%が 非常に満足している」と答えており、また、「満足している」もほぼこれに近い数値にのぼる。このように全体的には満足度が非常に高いが、一方、人口および雇用のカテゴリー別に見ると、かなりの相違点がある。

まず、性別であるが、これは労働者の満足度にほとんど影響していない。自分の仕事にかなり満足」と答えているのは、男性労働者で全体の44.9%、女性労働者でもこれを1%下回るにすぎない。同じく「あまり満足していない」という回答をとっても、女性が10.4%、男性が9.8%とほぼ同程度になっている。客観的基準から雇用の質を評価すると、女性は低熟練・有期雇用・低収入と質の低い雇用に集中しているにもかかわらず、主観的な満足度では男性とあまり違いがないということになる。これは、女性は労働市場参入が遅かったために、雇用の質についてもそれほど高い要求をしないからであるといえるかもしれない。つまり、市場に参入した(雇用がある)というだけで満足感を得、どのような雇用であるかについてはあまり問題にしないということである。

一方、年齢別で見ると、年齢が高いほど満足度も高いことがわかる。65歳以上の労働者では、「非常に満足」と答えた労働者が全体の60%を超えているが、24歳未満の層では40%にとどまっている。何より注目すべきは、年齢層が上がるにつれ、満足度も平行して上がっており、逆行することがないという点である。

つまり、年齢の側から見ると、労働の質を表す様々な要因と労働者の満足度に相関関係があるように見える。満足度の低い若年労働者では、有期雇用の割合がより高く、また労働市場への参入自体が困難で、彼らの高い教育水準とは裏腹に低熟練労働に従事せざるをえないことが多い。64歳以上の労働者の場合、満足度の高さは、彼らが自らの意志で労働市場にとどまっている、つまり家族を扶養する義務に直接拘束されるのでなく、自身の生活水準を一定以上に保つために働いているという事実にもよると考えられる(スペインでは法定の定年年齢は65歳で、これ以前に繰り上げ退職する例もそれほど珍しくない)。

また、これも予想されることだが、教育水準と満足度の間にも相関関係がある。よりレベルの高い雇用ほど収入が高く、疎外感の少ない仕事ができ、社会的地位も高くなるので、労働者の満足度も当然高い。逆に初等教育以下の教育しか受けていない者の間では、不満足の度合いが比較的高くなっている(16.4%が「ほとんど満足していない」)。大学卒ではほとんどが自分の雇用に大変満足と回答しており、満足度が低いと答えたのはわずかに7.5%である。

教育水準別に見た満足度

教育水準 非常に満足 満足 あまり満足
していない
初等教育以下 34.5 47.8 16.4
初等教育 40.6 46.2 12.4
中等教育 44.4 45.8 8.9
大学 52.9 39.1 7.5

出所:労働・社会問題

労働者の教育水準と満足度は、ほとんど平行関係にあるといえる。自分の雇用に非常に満足していると答えた者を3、満足していると答えた者を2、あまり満足していないと答えた者を1とすると、初等教育以下の教育水準の者は満足度の平均が2.16、初等教育を受けたグループでは2.27、中等教育を受けたグループでは2.34、大学卒のグループでは2.44になる。

労働者の教育水準は、多くの場合、その仕事の内容にとって決定的な意味をもち、そこから労働者の満足度に対する影響も強いが、それにも増して満足度を決める際に重要な要因は職業そのものである。社会的に最も高いレベルと見られている職業に従事する労働者の満足度と、より低いレベルと見られる職業に従事する労働者の満足度には大きな開きがあるが、予想されるほどのものではない。軍隊で働く労働者の18.4%はあまり満足していないと答えており、満足していない労働者の数が最も多い職業であるが、この逆は技術者・技術系専門職および知的専門職で、不満足と答えたのは5.6%だけである。

職業による満足度の違いは、収入および社会的地位によるところが大きいが、それぞれの職業に特有の様々な条件も理由として数えられる。技術者や知的専門職の場合、収入がよいだけでなく、他の多くの選択肢の中から自ら選んだ職業であることが多く、したがって満足度も高い。満足であるとの回答が最も多い企業重役の場合には、行使できる指揮命令権および高収入が魅力であるといえる。

満足度が中間に位置しているのは、事務系の中等専門職である。続いて熟練労働者、最後に未熟練労働者となっているが、未熟練労働者の間では非常に満足と回答したのは35%にすぎない。

熟練労働者の中では、サービス部門の労働者が最も満足度が高く、逆に第1次産業、第2次産業の工業ではこれより低い。これは、工業や建設業、農業、畜産業は労働条件が厳しく、社会的にも低く見られる職業であるからと考えられる。

農業部門は満足度が最も低く、非常に満足と答えた労働者は全体の34.7%にとどまっているが、これに対しサービス部門では、非常に満足という回答の割合が最も高い。だが満足度の差より大きいのは不満の度合いの差で、農業ではサービス部門のほとんど2倍の17.4%が「あまり満足していない」と答えている。

不満足の度合いは、農業に次いで建設業、工業、サービス業の順で低くなっている。建設業では労働者の40.4%が非常に満足と答えているが、工業・サービスの各部門ではこの割合はさらに4%ほど高い。

一般に、職業の社会的地位は、満足度に非常に大きく影響する要因であるといわれる。アンケート回答者のそれぞれの回答に基づく「自分が所属している社会階級」別に比較すると、高い階級と低い階級の職業では満足度に大きな差が見られる。自分の所属階級が低いと考える労働者では40%強が満足と答えており、決して低い数値とはいえない。しかし、高いと考える労働者では、満足と答える労働者は55%近くにのぼる。一方「あまり満足していない」と答えた労働者の割合も、同じように開きがある。これは低い階級で11.8%、高い階級では5.2%になっている。

全体としてみると、スペイン人労働者は、自分の仕事に対しておおむね満足しているといえる。満足度を決めるうえで最も重要な要因は、個別の職業および自らが所属していると考える社会階級で、逆に性別はあまり関係ないようである。

職業別に見た満足度

全体 非常に満足 満足 あまり満足していない
企業・行政部門の管理職 58.5 35.2 6.3
技術者、技術専門職、知的専門職 58.2 35.5 5.6
軍隊 49.1 32.5 18.4
補助技術者、補助専門職 47.7 45.3 6.3
事務職 45.4 47.9 6.2
レストラン、対個人サービス、セールス 44.8 43.5 10.4
手工業者、製造業・建設業・鉱業における熟練労働者 42.2 47.4 9.3
機械・設備オペレーター、作業員 38.1 50.1 11.7
農業・水産業における熟練労働者 35.4 45.0 17.5
未熟練労働者 34.7 47.9 16.8

出所:労働・社会問題省

社会階級別に見た満足度

  非常に満足 満足 あまり満足していない
高い階級 53.6 40.7 5.2
中程度の階級 44.0 45.0 10.2
低い階級 41.8 45.1 11.8

出所:労働・社会問題

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