アンドラプラデシュ州、児童労働撲滅

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年11月

アンドラプラデシュ州政府は、「ヴィジョン2020」を発表し、2010年までに識字率が100%になるよう児童教育を強化し、児童労働の撲滅をはかる。

この背景には、州設立以降43年になるが、非識字率が総人口の56%を占めていることがある。また、全国統計によると、アンドラプラデシュ州の識字率は、1996年度中に一時54%にまで上昇したが、この数字は国内の28番目にすぎず、7年生での退学率は62%以上になっていた。非識字者は、若年層で様々な社会悪の要因になり、低雇用率、低賃金、低技能の労働者層を生み出し、これらは、若年層の不満と非遵法的行動をもたらすと見られている。

社会科学的研究によっても、アンドラプラデシュ州における性別による格差、貧困が、明らかにされつつある。貧困家庭の女子児童の7.2%だけが8年生を終えているが、これは、男子児童の25.4%と比較するとかなり低い。この格差は、経済的に恵まれている上位20%の家庭では、8.6%にすぎない。隣のケララ州では、貧困層の児童教育に成功しており、女子でさえ8年生への進学率は57.9%である。この点、教育側の供給体制にも問題が出ている。農村部においては、先生1人の学校も多い。

今後この問題に関しては、政党の公約や政府の政策が決定的役割を果たすと見られているが、教育に対する政策不足は、予算全体に占める教育費の低い割合に反映されている。教育費の総額は、1995年度の170億2930万ルピー(1ルピー=2.32円)から、99年度は307億6370万ルピーに増額されたが、予算全体に対する比率は16%から15%に低下している。さらに、中央政府は、教育費が州のGDPの6%に相当するよう指導しているが、アンドラプラデシュ州はわずかに2%を超えているにすぎない。

「ヴィジョン2020」は、州の高等教育機構の重点を、コンピューターの応用や情報技術のような専門的で実用的な技術の獲得におく必要性を強調している。その主旨は、大学の応用コンピューター学士や経営管理学士のコースの説明に記載されている。特に工学教育の拡大のために、この部門に対する予算配分は増額されなければならないと説明している。州政府は、1999年度16億3380万ルピーを私立の大学や研究所に補助したが、現在財政難からこれらの大学への援助の停止を検討し始め、その代わり、大学に予算配分における自主性を広く認めることを検討し始めている。

住民は、政府に高等教育を貧困層、女性、少数民族、低開発地域の住民に確実に提供するよう要請している。特に、女性の教育は、民主主義的要素に影響を与え、児童の教育状況を大きく改善すると期待されている。また、母親を教育すれば、家族全員を教育することになるとも言われ、児童の学習に対する動機や習慣に直接影響を与えると予想される。

州政府は、世界銀行が初等教育充実のために借款した54億9600万ルピーの使用により100%の識字率を達成し、汚職の習慣を撲滅する計画をたてている。

「ヴィジョン2020」は、「アンドラプラデシュ州は2005年より前に児童労働を解消するだろう」と予測している。1991年のセンサスにおける労働統計数値には、アンドラプラデシュ州には166万2000人の児童労働者が存在し、これはインドの各州の中で最も多かった。

最高裁判所は、1996年12月10日児童労働を撲滅する判決を下し、政府は児童労働者リハビリテーション福祉基金を設立し、現行法に違反し児童を雇用した使用者から集めた罰金を利用し、児童1人当たり2万ルピーの補償金が支払われる。

しかし、どの州政府もこの方法を実施するには困難を伴う。最高裁は、中央政府と地方政府に、直接的に企業を指導するか、もしくは企業と州政府が協力して、就労している児童に、義務教育、職業訓練、衛生施設を提供するよう要請している。これは全国的な現象で、中央政府は、児童労働撲滅国家委員会を設立する必要があると見られている。

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