日本企業、相次ぎ在英事業を見直し

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年10月

ポンド高・ユーロ安の長期化を背景に、日本企業が相次いで英国での事業展開の見直しに動き始めた。松下電器産業が大型平面テレビの生産を英国からチェコに切り替えるなど、これまで欧州での現地生産の中心だった英国から、東欧を中心とする欧州大陸に生産の軸足を移す企業が増えている。

日本企業の英国脱出が加速しているのは、円高・ユーロ安による円換算の収益目減りに加え、ポンド高・ユーロ安による英国から欧州大陸向けの輸出採算が悪化、二重の打撃を受けているためである。ユーロは、1999年1月の導入時点から2000年5月には約2割下げ、その後もポンド高・ユーロ安基調が続いている。

電機業界では、松下電器産業が6月に、29インチの大型平面テレビの生産を英国からチェコに移した。同社は1997年以降、中・小型テレビの生産を順次、英国からチェコに切り替えてきたが、ポンド高で英工場の採算が悪化したため、付加価値の高い大型平面テレビも移管に踏み切った。さらに、中村邦夫社長は8月4日、英政府のユーロ政策を不満とし、「ユーロに加盟しなければ英国から撤退する」と警告している。松下はウェールズ、スコットランド、南イングランドで5000人を雇用している。

自動車業界では、日産自動車のカルロス・ゴーン社長が7月31日、ブレア首相と会談、長引くポンド高・ユーロ安で、欧州大陸向け輸出が打撃を受けていると窮状を訴えた。日産は英北部サンダーランド工場で乗用車「マイクラ(日本名マーチ)」や「プリメーラ」などを生産しているが、ゴーン社長は会談に先立って、中期的ポンド高が続けば、2002年以降に生産開始予定の「マイクラ」の次期モデルについて、他の欧州諸国への生産移転を検討すると言明していた。会談でブレア首相は、英国での生産継続を要請したうえで、最低5000万ポンド(約82億円)の資金援助の可能性も示峻したと伝えられている。

また、本田技研工業は、年内に英工場で新型シビックの生産を始めるが、これを機に欧州大陸からの部品調達比率を現在の25%から35%に引き上げる。同じくトヨタの英工場も、欧州大陸から部品調達率を現在の20%程度から早期に30%以上増やす予定である。また、住友電気工業と住友電装の共同出資会社は、2001年に自動車用ワイヤーハーネスを生産する英工場の操業を一部停止、ポーランド、スロバキアからの供給に切り替えることをすでに決めている。

最近英国での事業見直しを決めた主な日本企業

  • 本田技研工業=系列部品メーカーの対英進出を凍結
  • 日産自動車=ゴーン社長がブレア首相に苦境を直訴
  • トヨタ自動車=2001年のフランス生産開始をにらみ、開拓した欧州大陸のメーカーから部品調達を拡大
  • 住友電気工業=2001年に系列自動車部品メーカーが英北部の工場の操業を停止
  • 日本精工=年内に英国子会社の2工場を閉鎖し、ポーランドへ生産移管
  • ソニー=カラーテレビなど欧州大陸への輸出価格の値上げを検討
  • 松下電器産業=欧州大陸からの部品調達比率の引き上げ

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