労働市場の将来のルール

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年9月

アスナル新政権の誕生直後の政府・労組・使用者団体会合で、交渉続行への意図が確認されたのに続き、労働市場のルール改正を目指して本格的な交渉が始まった。与党国民党が3月の総選挙に際して提示した公約は、労働問題に関しては非常にあいまいなものだったが、少なくともいかなる労働改革・雇用創出策も労組・雇用者団体との合意なしには行わないとの姿勢を示していた。

交渉では定年年齢、労働時間短縮、解雇コストの3点が主眼となる様子である。定年年齢は現在では60歳と定められているが、労組はその引き下げを求め、逆に与党は選挙期間中から引き上げを提案している。労組はまた、フランスで行われたような労働時間短縮の実施を求めている。一方使用者団体は、前政権での改革に続き解雇コストの削減を一層進めたい意向である。

交渉は、経済成長率4%、INEM登録失業者数は過去20年で最低(153万1169人)という状況の中で始められる。もっとも労働力調査の割り出す失業率は15.7%と、欧州平均を5%以上上回っており、その解決が最大の課題である。また31.7%と高い有期雇用率や途上国並みの労災、人口の高齢化にこたえる年金制度なども検討を必要としている。

不安定雇用の問題を解決するには、1997年の合意のラインに沿って解雇および期限の定めのない雇用コスト削減を続けるか、あるいは新しい方法として有期雇用にペナルティーを科すかのいずれかが考えられるが、労組と使用者団体では意見の相違が見られる。

アパリシオ労相は、期限の定めのないパートタイム雇用に修正を加え、企業が有期雇用にかわってこれを利用しやすくしようとの提案を行っている。他方使用者側は、期限の定めない雇用と有期雇用の直接・間接コストの差をなくすことを求めている。

しかし、今回労組は、企業による有期雇用の濫用に対し、社会保障負担金額の増額、期限切れにともなう補償金支払などの形でペナルティーを科すことを主張している。

労働者総同盟(UGT)では労働力調査(EPA)に基づき、1999年末段階の有期雇用労働者360万人のうち110万人は、すでに同じ企業の同じ職場で契約を更新していた点に注目、また同一の労働者が1年間に10回も契約更新している場合は、同じ企業内で働いている可能性が非常に高いと見ている。労組は、企業が無期限で雇用すべきところを有期雇用で置き換えていないか調べるのが先決との考えである。

年金に関するトレド協定の更新も、交渉の主軸の一つであるが、特に定年年齢をどうするかが中心課題である。法定の定年年齢65歳は、結果的に維持されるだろうが、政府は、65歳を超えても労働者が働き続け、年金受給開始を遅らせることで人口の高齢化にともなう年金システムへの圧迫を軽減する方式を提案している。そのためには、労働者が65歳に達した場合、企業の社会保障負担金支払を免除するインセンティブを考えている。

しかし、企業の側では、経営状態にかかわらず高年齢層の労働者を忌避する傾向が一般化しており、政府の意向はこの現実と対立する。UGTの調べでは、毎年労働市場からはじき出される50歳以上の労働者数は、15万8000人にも達している。彼らの再就職は特に難しいとされる。

労組は、定年前退職(52歳以降)を強いられる労働者への待遇改善を求めるほか、現在では、1967年1月以前から社会保障制度に負担金を支払ってきた労働者だけに認められている60歳定年の権利を全労働者に広めるべきとしている。

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