1999年の賃金上昇

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年9月

国立統計庁(INE)のデータによると、工業部門・建設部門・サービス部門における1999年の賃金(労働者1人1カ月の賃金)上昇率は2.3%で、98年とほぼ同程度である。1990年代初めには10%近かった賃金上昇率は、その後の賃金抑制傾向の中で2%台まで下がっている。インフレ率を差し引くと、1999年の実質賃金上昇率はマイナス0.6%である。労働者総同盟(UGT)によれば、購買力が増大したのは全労働者の5%にすぎない。

しかし、現在スペインでは再び賃金上昇の傾向が見られる。1998年第4四半期に2%台ぎりぎりだったが、99年を通じて少しずつ上昇し続け、第4四半期には2.5%に達している。好景気にもかかわらず賃金上昇が抑えられる一方、企業利潤が急増したため、賃金上昇率が上がるのは中期的には予想されたことである。また、1999年後半にはインフレ傾向が強まったことも、背景の一つと考えられる。

労働協約では、1999年のインフレ率2%という予想に基づいて賃金上昇率を決定していたが、結果的にインフレ率は年末に2.9%に達している。したがって、賃金上昇の傾向は、今後もしばらく続くと見られる。賃金改定条項を定めている協約に従って、インフレ率に賃金上昇率をあわせて調節する場合、そのコストは750~1500億ペセタ(100ペセタ=59円)にのぼると算定される。

一方、賃金は月額では上昇しているものの、時間当たりでは同じ動きを示していない。つまり、1998年の1時間当たり賃金の上昇率は2.8%だったが、現在では2.5%に低下している。スペインの1時間当たり平均賃金は1600ペセタ程度である。スペイン労働者の平均賃金(農業部門以外)は22万5000ペセタ前後で、そのうち2万ペセタが特別報酬である。

労働市場で見られる主要な賃金格差は、労働者の性別によるものである。女性の賃金は、男性よりも平均で27%低い。女性の労働市場参入が男性より遅く、技能も劣っているということは確かに言えるが、それだけでは賃金格差の説明としては不十分である。アルヘンタリア財団の最近の調査によると、男女間の賃金格差の4分の1は、個人の能力の差を差し引いたうえでも説明できないとしている。しかも、この格差は、より上級の職階にいくほど大きくなることが明らかにされている。

賃金アンケートによると、部門別では建設部門が3.86%と、平均を70%も上回る上昇率を示している。しかし、絶対額では建設部門の賃金は相変わらず低く、平均賃金を約13%下回っている(ただし、その差は縮まる傾向にある)。工業部門の賃金上昇率は2.55%と平均を上回り、逆に、労働者の3分の2が集中するサービス部門では、2%以下にとどまった。

一方、部門による賃金の差は、近年の労働政策の影響もあり、大きく広がりつつある。特に工業部門は、高賃金層と低熟練労働者の両方をかかえ、賃金格差が最も目立つ。部門を問わず賃金が最も低いのは皮革・製靴部門で、1カ月当たり賃金は15万5000ペセタ前後、逆に石油精製・核燃料処理は、平均賃金が最も高く、月50万ペセタほどである。タバコ部門の賃金は、平均賃金を50%ほど上回るが、1999年の上昇率は10%で最も高かった。これは、タバコ公社だったタバカレラ社が民営化されたばかりで、いまだに市場でほぼ独占的な地位を保っていることにもよる。

ホワイトカラー層とブルーカラー層の賃金格差も、前者の2.5%の伸びに対し後者では2%前後と広がっている。両者の賃金格差は、長年にわたって縮まる傾向をたどっていたが、1995年以来再び拡大傾向にあり、95年の54.7%の格差が99年には70%近くに達している。

ホワイトカラーとブルーカラーの賃金格差が最も大きいのは、サービス部門である。工業および建設部門では、過去5年間を通じて賃金格差にはほとんど変化がなく、建設ではわずかながら縮小さえ見られたが、サービス部門では格差が65%から80%近くまで広がっている。これを見ても、サービス部門で近年創出された雇用の質が低く、低賃金で競争力を支えようという意図がよく理解できる。

異なる地方間での賃金の格差は、それぞれの地方の雇用構造を反映している面が強い。賃金が高いのは、工業中心で労組のプレゼンスが大きい地方で、バスクやアストゥリアスがこれに当たる。マドリッドやナバラも、経済的発展が始まるのはやや遅れたものの、ここ数十年にわたって大幅な成長を続けており、高賃金地域となっている。逆にムルシア、エストレマドゥラ、カナリアス、カスティーリャ・ラ・マンチャ、ガリシアなどは所得が低く、賃金水準も国内で最低である。

1999年に賃金上昇率が高かったのは、マドリッド、カタルーニャ、ナバラなど、もともと賃金水準が高く工業が活発な地方と、逆に賃金が低いガリシア、カナリアスとなっている。一方、それ以外の地方では上昇率は低く、アラゴンおよびカンタブリアでは、過去5年で最低の1%を下回った。全般的に、現在の好況局面においては、地方間の賃金格差が広まったといえる。

1999年の労働協約で決定された賃金上昇率は、平均で2.71%だったが、アンケート調査に基づく実際の賃金上昇は、これより0.7%以上低かった。1990年代前半は、実際の賃金上昇率が協約による上昇率を上回る傾向が続いていたが、4年前には逆に0.5%下回り、その後も差が開きつづけている。この背景には、近年のスペインの雇用成長が低賃金層に集中してきたことがある。つまり低熟練・低賃金労働者が大量に労働市場に参入し、並行してパートタイム労働も徐々に増えてきたため、協約上からは見えてこない平均賃金の低下がおこったのである。

協約上の賃金上昇率と実際の賃金上昇率の差は、部門によって異なる。サービス部門では、賃金上昇率全体が2%未満だった間、この数値はほぼマイナス1%近かった。つまり、低賃金労働者の市場参入が賃金全体の上昇率に大きく歯止めをかけていたことになる。一方、雇用創出があまり見られなかった工業部門では差はほとんどゼロで、逆に協約上の賃金上昇率が最も高い建設業では、実際の賃金上昇率はこれをさらに1%上回っている。熟練労働者不足が、建設部門における高い賃金上昇の理由である。

1999年を通じ、賃金動向は、生産性と企業業績の動きを反映して推移した。通常賃金の伸びが2.0%だったのに対し、特別報酬は4.4%伸びた。特別報酬は、1995年には報酬全体の11%以下だったが、現在では12%以上になっている。

特別報酬が賃金全体にしめる割合は減少傾向にあったが、ちょうど1990年代半ばにこの傾向は逆転している。

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