組合承認規則、施行される
労働組合の承認を法的に義務づける初めての規則が2000年6月6日、施行された。これにより組合は、自らを賃金や労働条件の正式の交渉相手として使用者に承認させる法的手段を得ることになる。労組幹部は、組合員数の増大に寄与するものと期待を寄せている。
組合承認の立法化は、労働党が1997年の総選挙で公約に掲げたもので、99年7月に成立した「雇用関係法」に盛り込まれた(同法は21人以上の企業を対象とし、組合承認規則もこれにしたがう)。
それによれば、組合承認は、可能なかぎり労使の自発性に基づくべきであるが、合意にいたらなかった場合には、組合は中央調停委員会(CAC)に承認の法的手続を訴えることができる(注1)。
その場合CACは、当該組合が労働者の最低10%を組織していることが確認できた場合にのみ、手続を開始する。
CACはまず、承認の対象となる労働者の範囲すなわち「交渉単位」を決定する。
そのうえで、
- 交渉単位の50%以上の労働者が組合員であれば、自動的に組合に団体交渉権を認め、使用者に団体交渉を受け入れるよう指示する
- 組織率が50%未満の場合、承認を支持するかどうかについて、対象となる労働者に投票をさせ、その40%以上が賛成すれば、使用者に団体交渉を受け入れるよう指示する。40%以上の賛成が得られなかった場合、組合に労働者の代表として認めず、団体交渉ができないことを通知する
ことになる。
同規則の施行にあたり、労働組合会議(TUC)のモンクス書記長は、組合承認はあくまで労使の自主性が基本であり、CACは「最後の手段」にすぎないとしながらも、今後4年間に組合員数は100万人純増し、800万人になると見込んでいる(1979年のピーク時は1200万人)。
しかし、同規則の実効性に疑問を呈する専門家もいる。シェフィールド大学のステファン・ウッド教授(労使関係論)は、「新法は、使用者に、組合の承認要求を阻止する機会を広範囲にわたって与えている」という。例えば、CACは、使用者が投票手続の協力を拒否している場合には使用者に承認を強制することはできるが、使用者が労働者の承認支持を切り崩せた場合には、承認を強制することはできない。
また、「交渉単位」の決定についても、「効果的な企業経営と両立する」範囲でなければならず、さらに自動承認がなされる場合でも、「良好な労使関係に資する」ことが条件とされており、いずれの場合にもCACの解釈に大きく依存している。結局、組合承認規則の実効性は、CACが期待どおりの役割を果たすかどうかにかかっており、労組もこの点を懸念している。
解説 イギリスにおける組合承認について
イギリスにおいて組合承認(union recognition)は、組合と使用者の関係の内容を決定するものであるだけに、労使双方にとってきわめて重要である。
承認とは一般的に、労働組合が企業内で活動することを使用者により認められることで、具体的には、組合が苦情処理・懲戒手続において組合員を代表することが認められる場合、安全衛生問題に関する協議を認められる場合、賃金に関する交渉が認められる場合等があるが、すべての事項に関する交渉が承認されるとはかぎらない。
1960年代まで承認は労使自治に委ねられ、承認するか否かは使用者の自由であった。1970年代になると、組合承認は法的次元で意識されるようになり、1971年労使関係法で承認法制が導入されるに至った。その後1970~80年代を通じて承認法制は廃止、再導入、改正を繰り返し、その後1992年労働組合・労働関係(統合)法に統合されていた。
これまでの承認法制は、労使で自主的に承認合意がなされた場合に、(1)団体交渉のための情報公開、(2)整理解雇における協議と情報公開、(3)営業譲渡に関する協議と情報公開、などの法的権利を付与することを定めているだけで、承認を使用者に強制する法的手段は存在しなかった。
注
- 中央調停委員会(Central Arbitration Committee)は、1975年に常設の調停機関として設置されたが、1980~90年代は、保守党政権下で権限が縮減され、現在までは年に数件の情報公開事案を扱っているにすぎなかった。今回の法改正に伴い、機能が強化された。(本文へ)
2000年9月 イギリスの記事一覧
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