所得格差拡大傾向に

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年8月

2000年5月29日付のバンコク・ポスト紙によると、タイの人口約6000万人のうち約1割に当たる680万人の人々が、1カ月当たり750バーツ以下の所得しか得ていないことが分かった。

銀行の破綻や企業の採用見送り、人員解雇などの結果、所得水準はすべての産業で劇的に減少し、その結果、貧困層と富裕層との所得格差が拡大した。

国家社会開発局(NESDB)の報告では、1998年には貧困線(月額所得886バーツ以下、または年間所得1万632バーツ以下)以下で生活する人は約600万人であったが、99年には790万人、15.9%の増加となった。貧困者の大半は農民で、貧困者層の増加率が最も高い地方は南部、次いで東北部であった。

また、国家統計局(NSO)の統計によると、全国の平均月額所得は6602バーツ、最も低い平均所得だった産業は農業で3014バーツ、反対に最も高かったのは国営の公益事業(電気・ガス等)で1万1369バーツであった。

貧困線以下の人口が増加した最も大きな要因は、ここ2年間続いている農産物価格の下落であると専門家はみている。

1999年には7000の企業が倒産し、何百万もの従業員がリストラの一環として解雇されたといわれている。そのため、高失業率、給与の削減が所得の減少に繋がっている。最新の統計によると、全失業者数は107万人で全労働力人口の3.3%、1999年5月の5.3%の水準からは改善している。

しかし、前述のNESDBの報告では、フルタイムの雇用数ではなく、むしろ週1時間以上のパートタイムの雇用数が伸びている。

NESDBのエコノミストによれば、所得の6割は食料品に消費されるが、最貧困層にとっては、酒やタバコといったものへの支出額を抑えることによって、食料品価格の上昇を埋め合わせている。

労働者は、地域によっては1998年から変わっていない130~162バーツの最低賃金の引き上げを強く要求している。しかし、タイ農民研究所のピサン研究員は、経済の停滞が解消されないかぎり、最低賃金の上昇は、貧困削減にはほとんど役に立たないであろうと推測している。実際に、企業が従業員に最低賃金を支払っているかどうかについての公式統計は存在しないが、非公式の統計によると、多くの企業が最低賃金以下で従業員を雇用しており、日単位での雇用形態が多いという。ピサン研究員は、いまやタイの労働コストの比較優位性は、中国やベトナムに比べると弱く、産業発展政策の焦点は付加価値の増加に当てられているので、最低賃金の引き上げよりも、従業員の効率性と生産性を上げるためのインセンティブを与えることが重要であると述べている。

また、NSOの統計によれば、1999年の最貧層と最富裕層との所得格差は9.7倍となり、98年の8.4倍からさらに格差が広がっている。世帯所得で見てみると、平均月額世帯所得は、1万2729バーツで、1998年よりも1.9%増加している。所得の内訳は、42%が賃金・給与、9%が農業、19%が農業以外、30%がその他となっている。

地方格差も出ている。560万人のバンコク居住者のうち、220万人は月額7600バーツ以下の所得となっている。また、1996年に月額平均約7500バーツの消費額であったのが、1999年には6000~6500バーツとなっている。

ノンタブリ、パトンタニ、サムットプラカンを含むバンコク首都圏の平均世帯所得は1カ月当たり2万6742バーツ、中部では1万2786バーツで1.1%の増加、北部は1万253バーツで4.8%の増加、一方、東北部では8138バーツで4.8%の減少、南部では1万953バーツで4.4%の減少となっている。

世帯平均支出額は、全国平均で1カ月当たり1万238バーツで、1998年から1.5%の減少となっている。支出の内訳は、食料品と飲料品の支出が主要な支出項目で総支出額の36%を占めており、次いで家賃と電化製品が22%、交通・通信費に14%となっている。バンコク首都圏の平均月額支出額は,2万284バーツで1998年に比べて2.3%の増加、北部も8388バーツで2.2%の増加となった。一方、中部は1万266バーツで前年比5.5%減、東北部では6988バーツで3.4%減、南部では8977バーツで7%減となっている。

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