ハンガリー/多くの職場で病人が発生

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年8月

ILOによる推定

労働活動に関連した病気と事故の数は、公式に報告された数の恐らく2倍に上る。国際労働機関(ILO)の最新報告によれば、労働環境は、危険度の最も高い環境に属する。以下に挙げる経験的諸事実は、この推定を裏づけている。すなわち労働環境には、100種以上の化学原料、50種類の物理的病因、200種類以上の生物学的病因、約20種類の人間工学的病因が存在している。ILOの計算では、全世界で年間5800万~1億5000万件の職業病が報告されている。この概算の幅が極端に広いのは、多くの場合1つの要因だけでは病気を説明し難いためであるが、現在では、労働活動関連の病気の数は、より正確に計算しうるであろう。ILOによれば、年間1億2000万件の労働関連の病気が登録され、そのうち致命的なものが20万件、100万件が生涯にわたる障害をもたらしている。

ハンガリーの状況

ハンガリー国内においてさえ、労働関連の事故件数を統計的に計測するのは容易でない。ハンガリーの法律によれば、使用者は事故を「国立労働安全監督委員会」(ハンガリー語でOrszagos Munkabiztonsagi es Munkaugyi Fofelugyeloseg, OMMK)に届け出る法的義務を負うが、使用者の多くは、職場で発生した事故に関する報告を行わないのが現状である。報告をする責任感の欠如のため、実際には「国立労働安全監督委員会」(以下NLSSBとする)の公式統計値以上の労働関連事故が存在している。しかし、「隠れた事故」の数に関しては、専門家の間で議論が分かれる。ある専門家グループの意見によれば、労働関連事故の3分の1はNLSSBに報告されていないし、また他の専門家グループの意見では労働関連事故の2件に1件は公式報告されていない。

中央統計局(ハンガリー語でKozponti Statisztikai Hivatal)の最新レポートの概算では、労働関連の病気の2件に1件がNLSSBに未報告である。中央統計局は、欧州連合(EU)の勧告に基づき、7万人のサンプルを用いて労働関連事故とその事故の考えうる要因および健康被害に関し、全国的調査を行った。

1998年4月から99年4月の期間に実施された全国調査結果は、従業員の63人に1人が労働関連の事故に遭ったことを示している。これは、被雇用労働者の1.5%(約6万人弱)に当たる。中央統計局による調査が行われた年には、事故8万4000件が報告され、そのうち5万5000件の事故は、3日間以上に及んでいる。しかし、実際には、こうした事故の50%(2万8000件)がNLSSBに正式報告されているにすぎない。中央統計局によれば、1990年には1事業所当たり16件の事故が登録されており、この数は、1998年には、15件の労働関連事故登録へと非常に緩やかな改善を示している。中央統計局の意見では、調査期間中に現実に発生した労働関連事故は5万5000件であり、その事業所当たり事故指数には、NLSSBの公式データに反映しているほどの改善度は表れていない。

中央統計局(KSH)実施の当該調査によれば、労働関連事故に係わるのは、主に40-44歳もしくは25-29歳の年齢層に属する男性労働者である。若い男性労働者が事故に遭いやすい理由は次の通りである。男性労働者は総数が多く、より危険な労働に従事している。また、若い労働者は、労働経験に欠けるため事故に遭いやすい。高年労働者の傷害は、労働市場におけるその弱い立場に起因すると考えられる。彼らは取得資格が少ないため、より危険で劣悪な労働条件を受け入れねばならない。最も頻度の高い傷害は、打撲傷、圧搾による傷害であるが、多くの労働者が骨折、脱臼を経験している。事故全体の半数は、工業部門において発生しており、火傷を負うこともしばしばあり、ウイルス性の汚染も頻繁にある。農業部門においては、骨折、捻挫、脱臼が最も頻度の高い傷害である。サービス部門では、旧式な装置、器具が労働関連事故の原因となっている。経験的に述べれば、事故後、労働者は健康上、労働能力を回復している。すなわち、傷害を経験した労働者、従業員の91%が以前の仕事を続けている。労働活動を断念せざるをえない労働者は4800人にすぎない。

好ましくない労働環境は、傷害の要因や原因であるばかりでなく、種々の病気とその併発症の原因となる。先に述べたKSHの調査によれば、調査期間中(1998年4月から2000年4月)ハンガリーの稼動労働力人口の1.8%(7万1000人)が労働活動に関連したなんらかの病気を抱えている。こうした病気の症状は、従業員の男女を問わず、高年者により顕著である。

より多く起こる疾患は「筋肉系統」に関したものである。男性従業員については、「筋肉系統」の疾患が登録されることがより多く、女性従業員については主に「頭痛」と「眼疾患」の訴えが多い。疾患の発病という見地から捉えると、工業及び農業部門に従事する労働者が最も発病しやすい立場にある。労働関連疾患の割合が比較的高いにもかかわらず、就労不能になるケースは3%にすぎない。

KSH実施の調査結果を挙げて見れば、電子産業従業員が感じる同僚との関係、仕事に対する満足、上司との関係、労働時間、雇用の安定性等の質に対する満足度に比べ、物理的労働条件(騒音レベル、温度など)に対する不満足度が高いのは驚くに当たらない。

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