ハンガリー/失業給付に代えて雇用を
―優先課題の転換

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年7月

雇用促進のための行動計画は、以下の3点を主要目標とする。1)失業の改善、2)雇用機会均等の拡大、及び3)起業家精神の高揚である。当該行動計画は、欧州連合(EU)規定に沿って雇用政策構想を綿密に作成したもので、「失業給付でなく職を」が基本概念である。本計画の合理性を理解するには、失業統計を参照する必要がある。

労働市場プログラムの優先課題・若年者と長期失業者対策

ハンガリーではEU諸国と比べ、雇用労働者の比率が著しく低い。例えば、この10年間で雇用者は417万人(1990年)から367万人(1998年)に減少した。この減少は雇用の12%縮小に相当する。人口動態予測によると、来年度、労働力供給が増大し、労働市場の緊張度をさらに高めると考えられる。さらにもう1つの問題がある。ハンガリーの失業率は国際的観点から見ると、比較的良好である。しかし、経済省のまとめた「雇用行動計画」によると、一部の地域や母集団の間では失業率が高いだけでなく持続している。例えば、失業のまま結婚して家庭生活を持つ第一世代失業者が出現している。この母集団は20代と30代で形成される。この世代は新しい市場経済のもとで育ち、安定した雇用を知らず、短期間の職の経験しかない。このグループは、鉱山、鉄鋼、繊維産業などで20~30年働いた後に新たな職探しをしなければならない、社会的心理的ストレスのきわめて大きい、かつての計画経済の敗者とは異なる。20~30歳代の新世代は、直接的個人的労働体験がない。彼らは、パートタイムや臨時契約、職業訓練・再職業訓練の形で職業との関係を持っている。この世代は、不定期の臨時雇用に関する機会を社会扶助の受給やいわゆる「グレイエコノミー」への参入につなげようとしている。これらの世帯は、ハンガリーでも開発の遅れた地域である、おもに南部や北部の小さな村に居住する。

すでに述べた「雇用行動計画」では、労働市場の問題解決に向けて22の原則・課題が打ち出されている。これらの原則は、特に若年層と長期の失業者に対して、失業給付よりも職と教育水準の向上を強調している。

このアプローチによると、「キャリアの開始段階にある者」、すなわち若年求職者問題に特に注意する必要がある。ハンガリーでは、他の欧州諸国に比べ若年失業者が増えており、労働市場対策でも近い将来、若年者が労働市場に占める地位が弱くなると指摘されているからである。様々な推定によると、就職に苦労している新卒者は年間7~8万人に達する。

労働市場政策の中で非常に重要な課題が他にもある。「長期失業者」問題にどう対処するかである。長期失業者のうち、1年以上仕事を見つけられない者は10万人を超える。その大部分が中高年の未熟練労働者である。いくつかの長期失業者支援プログラムが過去に実施されたが、十分な成果をあげることができなかった。失敗の理由としては、それらのプログラムが失業者に到達する時期がきわめて遅い(10~12カ月後)、失業者がプログラムに熱心でない等が挙げられる。今回の「行動計画」は、できるだけ迅速な支援を目指しているが、長期失業に至らないように失業初期に支援することが必要である。労働市場センターは、「キャリア=開始者」と「長期失業者」の両方に対して、特別プログラムなどでさらなるサービスの拡充を図らなければならない。こうした雇用政策は、長期失業者に限っているわけではない。例えば、EUには、失業者の20%を訓練と再訓練、賃金補助、公共事業プログラム、等の労働市場プログラムで支援するという目標がある。

失業者の20%というEUの制限と比較すると、ハンガリーでは様々な形の雇用支援を失業者の20%以上が受けており、「雇用行動計画」は量的にはよい成果をあげている。問題はプログラムの質の面である。

もう一つの雇用水準に間接的影響を及ぼす重要な任務がある。それは、小企業が及ぼす社会的分担を少なくすること、そして、失業者にとって労働市場をさらに魅力的にすることである。大企業(例・多国籍企業)に対する中小企業の供給ネットワークを助成することも雇用の創出に寄与するであろう。労使のコスト負担を理解するには、失業者の救済に当てられる「労働市場連帯基金」への支払いの推移を見ることが役立つ。

45~50歳以上の中高年者の雇用に積極的な中小企業(例えば、観光業、なかでも地方の観光業の発展に尽くしている中小企業には減税の恩恵が与えられる)に対して賃金補助が与えられることに関して「雇用行動計画」は、その可能性を分析・評価する計画を進めている。「雇用行動計画」起草者によると、失業給付制度をこれ以上制限する必要はなく、また労働市場センターは、1999年の制度改定により生じた緊張状態に対処しなければならないという。「雇用行動計画」は、労働関係の社会的パートナー(使用者と従業員利益代表組織)の協力を求めている。なかでも職業訓練、成人教育訓練の普及の分野での協力を要請している。

様々な形の訓練が、「生涯教育訓練」を実現させ、職業訓練の継続原則に役立つと考えられる。ハンガリーは、成人の教育訓練の分野では著しく後れている。現在までのところ、成人訓練が機能しているのは、失業者に対する訓練と大企業500社における訓練のみである。これらの大企業は、労働力人口の20%足らずしか雇用していない。

「雇用行動計画」の最後の柱は、女子や子どもを持つ母親などの労働における不公平の縮小に目標を置いている。賃金と採用過程の格差をなくすことを目的に、法的規制の強化や「労働調査」の実施計画が進められる(賃上げにおける社会的パートナーの役割を明らかにするには、補遺に掲載された1990年~1998年の賃金表を参照のこと)。

経済の急成長:域内で他をリード

中央統計局(KSH)の1999年の経済データはまだ公表されていない。経済情勢は上向き傾向にあることに多くのハンガリーのエコノミストは同意しているが、それはGDPで測った1999年第4四半期の経済成長率4.3~4.4%をどう評価するかに関わる。しかし、成長率にはいくつかの推定が存在する。大蔵大臣(Zsigmond Jarai)によると、1999年第4四半期の経済成長率は6%に達している。一方、国立ハンガリー銀行が発表した報告書によると、GDP成長率はそれより少し小さく、1999年第4四半期は5.6%であった。同銀行の専門家は、1999年第4四半期の国内消費の果たす重要な役割と4.4%という年間GDP成長率予測に注意を促している。KSH局長は、1999年第4四半期のGDP成長率を5.0%、年間GDP成長率を4.3%と推定している。

GDP成長率の「市場期待値」に5~6.5%の幅があることは興味深い。GDP成長率が正確かどうか論議されるとき、次のようなGDP要因に関しての共通の見解がある。1999年第4四半期のダイナミックな輸出増から、国内需要、とりわけ個人消費の伸びが同期間のGDP成長率に重要な役割を演じたことである。同様の現象は過去3年間記録されている。1999年の経済成長で最も興味深い特色の1つは、個人消費の伸びが輸入の大きな伸びにつながらず、国際収支にマイナスに影響しなかったことである。この見解によると、ハンガリー経済は国際収支を危うくすることなしに4~5%以上のGDP成長率を達成できるだろう。GDP成長率が専門家の期待どおりに4.3~4.4%の成長であるならば、ハンガリーはこの地域での「経済成長のリーダー」となり、ブダペスト証券取引所にプラスの影響を与えるだろう。この地域ではポーランドのみが同様の成長を見せている。昨年のポーランドの成長率は4.1%であった。2000年もポーランド、ハンガリー両国では同様の経済成長が見込まれる。ハンガリーでは、実質賃金上昇の鈍化により消費の伸びがある程度弱くなるだろう。しかし、投資と輸出の伸びが消費の落ち込みを補うと考えられる。

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