野党労働党が雇用・訓練政策を公表

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年6月

政策内容

野党労働党は、2000年2月になってようやく雇用・訓練政策を公表した。労働党が政権に復帰した場合を考えると、この政策は非常に重要である。同時に、労働党の政策形成過程は、貿易や労働市場も含め経済自由化を求める動きと労使関係の規制強化等を求める動きに分裂しており、非常に緊迫した状態にある。

今回公表された政策文書は「Workforce 2010」と呼ばれ、知識社会の発展に向けての青写真が示されている。その主要な内容は次のようにまとめられる。

  • 労働党はとりわけ若年者の教育・訓練活動を促進する。若年層の10人に9人が12学年と同等の資格を10代に取得し、すべての若年者が正式な教育・訓練資格を保有することを目標にする。
  • このことは、結果的に現行の7%から8%程度の失業率を5%にまで下げることになる。
  • 今回の文書は、モナーシュ大学政策研究センターが実施した研究結果に基づいている。
    Workforce 2010」の中に示されているように、同センター の研究結果では、技能労働者の需要は「対人サービス業」と「IT産業」に集中すると見られている。前者の代表は人的資源管理者やソーシャルワーカーであり、後者の代表は会計士、経理士、IT技術者である。需要の見通しが暗いのは、手先の器用さや体力を要する職業である。
  • 労働党の政策のかなめは、「全国労働力予測協議会」の設置である。同協議会は今後10年間の労働力需要の予測を行い、政府に対し訓練強化すべき分野について助言を行う予定である。
  • 政府はこうした手法により、実際に余剰人員が生じる前に、長期失業のリスクがある地域や産業、労働者を認識できる。加えて、個別労働者の技能形成状況を把握し、不足する点を見極めるデータベースも構築される。このデータベースを利用することで、在職中の労働者に対しても面接やケースマネージメント、再訓練の実施が可能となる。

Workforce 2010」は、長時間労働と家庭生活の問題にも焦点を当てているものの、新たに創出される雇用が長時間労働か短時間労働のどちらかでしかないと示唆している。このことは、長時間労働者と短時間労働者に二極分化している状況に労働党が介入しないことを認めているように見える。

政策に対する評価

上述の政策に対しては、その公約と目標は十分に示されているが、目標達成方法の詳細が不足しているとの批判が示されている。

また「Workforce 2010」の作者は、政党内部からの異議にも直面している。その1つは、訓練だけでは雇用が創出されず、単に労働力のミスマッチを固定化するだけだとの批判を受けやすいというものである。そこで産業政策という古い問題が姿を現しつつある。金属労働者組合は介入的な産業政策を支持しているため、労働党はその政策を再評価する必要に直面している。

労働党と労組の関係

このように労働党は、その政策形成過程においても難問を抱えているが、支持基盤である労組との関係にも微妙な変化が見られる。

特に最近では、労働党は一部の労組の先鋭化に悩まされている。このような一部労組の先鋭化や労組と労働党との緊張関係は、いくつかの事実からもたらされている。第1に、労働党政権時代に労働党とオーストラリア労働組合評議会(ACTU)との間で締結された「アコード(所得・物価合意)」に対する根強い反感である。アコードに基づき、労組は政府の賃金抑制策に協力し、労働党が経済自由化政策を実行している間は、争議行為を控えていた。このことが労働党支持者であった組合員の感情を害し、結果的に組合員数の減少をもたらしたと考えられている。さらにはアコードが、現自由・国民党連立政権の誕生に道を開いたとさえ信じられているため、現時点では労働党とACTUとの間でこの種の合意は予定されていない。

第2に、労組は労使関係制度の個別化に反対し、労使関係システムの再中央集権化を求めている。他方、労働党はこうした主張を受け入れる姿勢を見せていない。

第3に、先のBHP社における労使紛争に見られるように労働組合運動が先鋭化しており、一部でこれを支持する動きも見られることが挙げられる。

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