増加しない職業訓練校の進学者

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

スペインの教育制度は、民主化移行期から1980年代末にかけて大きな改革を経てきた。しかしながら、職業訓練校(FP)の持つ評判の悪さだけは、度重なる改革にもかかわらず全く変わっていないように見える。

スペインの義務教育は、1992年までは14歳、それ以後は16歳で終わることになっている。義務教育を終えた生徒は、将来を大きく左右しかねない岐路に立たされる。つまり高等教育へと進み大学卒の学位をとるか、FPで何らかの職業についての専門教育を受け熟練労働者となるか、の2つの道のいずれかを選ばなければならないのである。

義務教育年齢を16歳まで引き上げた1992年の制度改革は、FPに進学するための最低条件を難しくしたという点でも、FPに大きな影響を与えた。つまり以前は14歳までの義務教育を終了していれば FPに進学できたのが、改革以降は16歳までの教育を受け、しかも義務中等教育(ESO)を合格していることが条件に加えられたのである。したがって、ESOを通過できなかった生徒が何らかの制度上の学業を続けようとする場合、FPではなく「社会的保証プログラム」と呼ばれるコースを履修するしかない。これはある意味では改革以前の FPに相当するとも言えるもので、一定の職業に就けるような訓練を行うが、職業資格は得られない。

FPへの進学者数が減ったのは進学条件が厳しくなったためとしても、FPそのものが生徒たちにとって魅力を失いつつあるのはたしかである。1998年~1999年の学期では、義務教育終了者のうちの77%が高校へ進学し、FPを選んだのはわずかに23%のみであった。

過去10年間における生徒の FP離れ現象に、とどまる気配はない。1990年~1991年の学期には FPを選んだ生徒が全体で90万人近くいたが、それ以降は減る一方で、今学期(1999年~2000年)ではほぼ半数、前年とくらべても3万4000人少なくなっている。

自治州別で見ると、FPの生徒数がもっとも多いのはアンダルシアとカタルーニャである。ただこれは、両州がもともと人口の多い州であるため、当然といえる。性別で見ると、男子生徒が53%、女子生徒が47%とほぼ等しいが、学業内容では大きな男女差が見られる。例えば電気、エレクトロニクス、機械製作、水産などの分野では男子生徒が96%を超える。一方女子はほぼ全員がパーソナル・イメージ、保健、事務、商業の各分野のいずれかを履修している。

FPの生徒数の減少は、皮肉にも FPをより魅力的にする政策を政府が取り始め、また FP終了者の収入が増え失業率が最低になったのと時を同じくして始まった。FPの提供する教育の質は著しく向上したが、それは FPが大学にもひけをとらない立派な進路であるというイメージキャンペーンに加え、FPの教育プラン作成およびインフラ整備に大規模な公共投資が行われたことによる。だが、生徒自身も親も、相変わらず大学を初めとする高等教育が将来の高い社会的・経済的地位を約束するとの考えを持ちつづけている。そしてそれが、FP進学者の不足、ひいてはスペインの労働市場がもっとも必要としている熟練労働者不足につながっているのである。スペイン社会には「勉強のできる子」は高校から大学へ進み、FPに行くのは「できない子」であるという固定観念が根強く存在し、それが生徒一人一人の向き・不向きに関わりなく押しつけられるのである。

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