グリーンカード問題で論議広まる

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

世界最大のコンピューター見本市「Cebet 2000」の開催が2000年2月23日から北ドイツのハノーバー市で始まったが、シュレーダー首相が開会式で、立ち遅れているコンピューター・情報通信(IT)部門の専門労働力を外国から導入するために、期間限定の労働許可(グリーンカード)取得手続きを簡素化すると発言したことがきっかけで、従来から議論されたこの問題が各方面で論議を呼んでいる。

同部門の業界団体Bitcomは、以前からこの部門の専門労働力の不足が投資と成長の妨げになっていることを指摘していたが、見本市の前から、この部門の成長が向こう数年間に確実に進展するとして、欧州連合(EU)の領域外から3万人の外国人専門技術者をドイツ国内に導入するための労働許可を申請し、ドイツでも急速に進展するデジタル革命に政府ももっと積極的に参画するよう要請していた。同団体は、携帯電話、オンライン・サービス、インターネットで今後特に売上が上昇するとしているが、この部門全体の専門労働力の不足は、7万5000人に達しているとしている。

シュレーダー首相自身は、この発言の直後、政権内部や労組等のドイツ国内の慎重論に配慮して、発言内容に修正を加えた。労組側は、IT部門の専門技術者導入は、企業の職業訓練の努力に水をさすことになると懸念を表明していたが、同首相はこれを考慮して、ドイツ政府にとってはIT部門においても国内の職業訓練教育と継続教育が優先されるので、この教育を同時に行ってドイツ人専門技術者の養成に努める企業のみが、将来外国人コンピューター技師等を募集でき、しかもこれは一時的措置であると、発言を修正した。政権内では、リースター労相が、IT部門の立ち遅れを克服する対策を立てる必要があるとして、首相提言を原則的に指示することを表明している。

労使の反応としては、使用者側は全面的に提言に賛成を表明したが、産別労組中 IG メタルと職員労組(DAG)は、つとに首相提言に反対していた。しかし労働側でも労働総同盟(DGB)は、今回の提言を一定限度で受け入れ、ただシュルテ DGB 会長は、この提言を実現する期間を限定すべきだとし、少なくとも4年後にはドイツ国内の労働力で不足している専門技術者等を賄うようにせねばならないとした。

7万5000人の専門技術者不足という数字に関しては、労働問題専門家の間でも意見が分かれているが、連邦雇用庁がこの数字を幾分大きすぎるとするのに対して、中央職業仲介所(ZAF)はこれを妥当な数字だとしている。またペーター・ヤコビ ZAF 所長は、ドイツの大学では専門技術者を十分に供給できていないとし、それゆえ経済界がこれを養成する必要性を強調している。さらに ZAF の専門家ジグマー・グライザー氏は、米国ではIT部門の専門技術者は長期的に滞在して永住することが可能であるのに、ドイツでは期間を限定した労働許可しか問題にならず、このような期間を限定された雇用ではインドや東欧の専門技術者には魅力に欠けることになるとしている。

ちなみに連邦政府は、この問題についてエデルガルト・ブルマン教育相を座長とする作業部会を設け、3月中旬までに報告を受けることになっているが、ブルマン教育相は、2000年度のIT部門での訓練職の創出は昨年の3倍になり、4万人になるとしている。

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