4大使用者団体、政府に「有利原則」の内容変更を文書で要求

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年5月

建設大手ホルツマン社の倒産救済のための財政再建案が、従業員の週5時間無報酬超過労働を含むことから、産業別労働協約に反するとして建設労組(IG Bau)に拒否されたために、再建案と同内容のホルツマン社とIG Bauの新たな企業協約の締結が、建設業界の使用者団体の同意を条件に、企図されていた。しかしIG Bauがホルツマン社との個別の企業協約であることを譲らず、同社以外の他の業界企業が類似の状況に陥った場合に、開放条項を通して産別協約から同様に逸脱することを認めないために、使用者団体側は企業協約の同意を拒み、交渉は膠着状態に陥っている。

このような状況下で2月初め、使用者連盟(BDA)、産業連盟(BDI)、商工会議所(DIHT)、手工業中央連合(ZDH)の4大使用者団体は、連邦政府に対して共同文書で、そもそもこのような膠着状態に陥った原因である経営組織法77条3項と労働協約法4条3項のいわゆる「有利原則」について、立法的に内容を変更することを要求した。

有利原則とは、産業別労働協約と事業所協定の関係で、協定で協約よりも不利な内容を定めてはならないとするものであるが、何をもって不利と解釈するかは、従来の通説・判例では、賃金が少ないとか労働時間が長いというような具体的事項に限られると解されてきた。そして1999年4月のブルダ出版社事件でも、連邦労働裁判所はトーマス・ディートリヒ前長官のもとで、事業所の従業員に一定の雇用期間を保証するという条件と引き換えであっても、賃金を減額することは有利原則に反すると判示して、従来の見解を踏襲した。それ故この判例の見解からすると、たとえ従業員をホルツマン社の倒産による失業から救済するためであっても、産別協約に反して無報酬超過労働を認めることは有利原則に反して許されないことになる。そこで4大使用者団体は、この連邦労働裁判所の判決を踏まえ、有利原則の内容を解釈によって変更することではなく、立法的に変更することを政府に要求したのである。

4大使用者団体の要求の概要は以下の通りである。

労働協約法に明確な要件を規定して、産業別労働協約締結当事者の同意なしに、事業所レベルでの同協約からの逸脱を認めるべきである。そして事業所レベルでの合意は、個々の従業員がその意に反して賃金並びに労働時間について譲歩することを強いられないために、まず使用者と個々の従業員の間で個別契約でなされるべきである。その合意は、事業所の経営危機の克服に役立てられ、ないし雇用保障(確保)等と結び付かねばならない。そして事業所委員会(経営評議会)は、その合意内容に対して、個別契約の事前または事後に、承認を与えねばならない。事業所委員会の存在しない事業所では、少なくとも従業員の3分の2が合意内容に賛成の署名をしなければならない。

4大使用者団体は、雇用確保のための事業所レベルでの協力が実際の慣行としては有効に機能してきたことを、この要求の根拠としてあげており、また、化学部門等建設部門以外の部門で、最近労働協約の開放条項による弾力的な扱いがなされていることを指摘している。

これに対して労組側は、4大使用者団体の要求を厳しく批判している。従来から労働協約の開放条項の扱いについても保守的な態度を変えない IG メタルのツビッケル会長が強く反対していることは当然として、労働総同盟(DGB)のウルズラ・エンゲレン・ケーファー副会長も、労働協約法を変更して有利原則を拡大することを厳しく批判している。同副会長は、使用者団体は雇用の確保のほうが,労働協約に規定される賃金や労働時間と比較して従業員にとってしばしば有利になると主張するが、これでは使用者が雇用喪失の威嚇のもとに、労働協約を下回る雇用条件を押しつけ、従業員はこれを甘受せざるをえなくなって使用者の恣意的な要求にさらされてしまうとする。そしてこれをまさに防ぐのが協約自治の原則のはずだが、有利原則の拡大によってこの原則が根本的に侵害されることになるとしている。また同副会長は、協約自治の範囲内で、開放条項の有効な活用によって事態に十分対処できるとしている。さらに同副会長は、賃金、労働時間と雇用の確保はお互いに比較できない全く異質の規制対象であるとする連邦労働裁判所の見解を支持するとしている。

有利原則の内容を、企業の倒産による失業を救済する等の厳格な要件を付して、解釈的に変更すべきことは、以前から使用者団体によって主張され、今回のホルツマン社の救済に際しても緑の党の専門家などによって提言されたが、今回4大使用者団体から連邦政府に立法的な解決が共同文書で要望されたことは、このドイツ大手建設企業であるホルツマン社の倒産救済を契機に、この問題が単に理論的問題としてでなく、実際上の問題として無視できなくなったことを示すものであり、ドイツの労使関係の規制の要となってきた産業別労働協約の改善に関する近時の議論とともに、今後の進展が注目される。

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