期間の定めのない雇用契約に対する政労使協定の影響

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年4月

政府、使用者団体、主要労組は、1997年4月雇用安定のための協定(AIEE)に調印した。この協定は期間の定めのない雇用創出のてこ入れをはかることで、雇用の不安定にともなう様々な悪影響に対応しようというものである。協定当時、賃金労働者の3人に1人は期限付き雇用労働者だったが、協定によってこうした傾向に変化があらわれることが期待された。しかしこれから2年以上たった現在も、ごくわずかな改善が見られたものの状況はほとんどかわっていない。

雇用安定のための協定(1997年4月28日)

目的

  • 企業の競争力向上、雇用の改善、期限付き雇用および労働力の回輪の減少に貢献
  • 期間の定めのない雇用の強化
  • 期限付き雇用の可能性の制限
  • パートタイム雇用の社会保障枠の改善
  • 集団交渉への重要度付与(特に特定理由に基づく一時雇用および職業訓練雇用において)

対策

A) 雇用契約

  1. 職業訓練契約
    • 職業訓練のための契約・見習い契約にかわるものとして導入
    • 実習契約・契約の対象となる職場・グループ・レベル・カテゴリーを決める
    • 職業訓練契約・実習契約の期間の定めのない雇用契約への転換に対する法的インセンティブを設定
    • 職業訓練契約の期間の定めのない雇用契約への転換の約束
  2. 期限付き雇用契約
    • この雇用契約形態を利用できる場合について特定・制限する
    • 工事あるいは特定のサービスのための雇用契約・通常の企業活動の中で、この雇用契約によって実行することができる仕事を特定する
      生産状況による一時的雇用契約:この雇用契約形態の最長期限を「12カ月間で6カ月まで」から「契約の理由となった特殊な生産状況の続く期間の4分の3(最長18カ月まで)」に修正する。
    • 一時的雇用労働者を契約することのでききる活動を限定する
    • 新規活動開開始にともなう契約・この形態を廃止する
  3. パートタイム労働
    • パートタイム労働契約・パートタイム労働者の社会保障枠を、一般労働者のそれと同等にする
    • 無期限・断続的労働契約・この種の労働の実行形態を整備する
    • 交替契約・交替契約の強化
  4. 期間の定めのない雇用契約の促進
    • 期間の定めのない雇用契約促進のための雇用・新規期間の定めのない雇用創出
    • 若年失業者・高齢の失業者・長期失業者・障害者・期限付き雇用労働者を対象とする。対策の施行後1年を経過したら、集団交渉にて期間の定めのない雇用への転換を交渉する

AIEE調印後の2年間では、直前の2年間(1995年5月~1997年4月)と比較して雇用契約が580万増加した(+35%)。このうち期間の定めのない雇用の増加は160%にも達し、協定の目的が十分達成されているといえよう。一方期限付き雇用も69%増えた。だが期限付き雇用契約の全体に対する割合は非常に高く、したがって期間の定めのない雇用が目覚しい伸びを示したといっても、雇用全体の成長の中では20%余りを占めるにすぎない。

期間の定めのない雇用契約および期限付き雇用契約の伸びを説明する要因は、少なくとも3つある。まず現在のスペイン経済が好況局面にある点が、雇用増大の最も大きな理由である。実際、ここ数年は、かつてなかったほど経済成長が雇用増大に即座に反映している。次に大きいのが労働力の回転による影響である。次々と期限付き雇用契約の更新を繰り返す労働者が多数おり、これが現在問題となっている不安定雇用の背景を作り出している。最後に、AIEEとこれから派生する様々な法的措置が、期間の定めのない雇用の創出に与えた影響をあげることができる。しかし、全体としてみると期間の定めのない雇用の割合が非常に低いというジレンマは残る。前述したように、雇用増大にしめる期間の定めのない雇用の増加の割合は20%強にとどまっている。

それでも、AIEE直前の2年間は期間の定めのない雇用契約が雇用全体の4~5%まで落ち込んだことを考えれば、その傾向に変化があらわれたのは確かである。AIEEの1カ月後にはこの割合は3倍に跳ね上がり、協定の効果を物語っていた。その後現在まで期間の定めのない雇用契約は全体の8~10%程度の水準を保っている。

期間の定めのない雇用契約について、新規の期間の定めのない雇用と期限付き雇用契約からの転換で期間の定めのない雇用になったものと比べてみると、後者ではどのような変化が見られるかがわかる。AIEE直後に行われた期限付き雇用からの転換は、期間の定めのない雇用創出全体の70%から80%を占めていたが、その後徐々に減り、現在では50%前後になっている。AIEE後の2年間を通じてみると、期間の定めのない雇用創出の55%が期限付き雇用からの転換、残り45%が最初から期間の定めのない雇用として創出されたものである。期限付き雇用からの転換がこれほど多いのは、実は一時的でなく恒常的な仕事を行うために、使用者が同一の労働者を期限付き雇用契約の更新を繰り返させつつ雇うケースが多かったためで、これらの労働者を大量に期間の定めのない雇用契約に切り替えたものと考えられる。

過去2年間で終身雇用に転換した期限付き雇用を形態別に見ると、一時的雇用が30%、新規活動開始にともなう一時雇用が25%をしめている。なお後者はAIEEによって廃止になったため、そのまま期間の定めのない雇用に転換するケースが増えたのもうなずける。一方、転換の15%は工事・特定サービスのための一時契約であった。

期限付き雇用から期間の定めのない雇用への転換には、2つの異なったケースがあると言える。一方では、企業が長期間にわたり期限付き雇用で働いている労働者の安定化をはかるよう、政府がAIEEに基づいて助成を行った場合である。他方、この助成の一種の「詐取」と呼べなくもないケースも発生している。つまり企業は労働者を雇用する際、まず試験的に一時雇用し、その後期間の定めのない雇用に転換して助成を受けるというやり方である。

性別で見ると、期間の定めのない雇用創出の66%が男性で、女性は残り34%となっている。特に期限付き雇用からの転換でない新規の場合は男女格差が大きく、雇用促進の対象となる失業者(30歳以下、45歳以上、長期失業者)のほぼ半数が女性であるのに、実際に創出された雇用のうち女性は34%にすぎない。期限付き雇用からの転換では、女性はAIEE時点で対象となりうる労働者のうちの39%だった。

新規の期間の定めのない雇用創出のうち障害者のしめる割合はわずかに1.5%である。データは1998年1月以降のものだけだが、いずれにせよ今後も大きく増える見込みはない。一方雇用促進の恩恵が最も大きかったのは30歳以下の失業者で、新規の期間の定めのない雇用10人のうち7人までがこのグループの労働者である。失業および不安定雇用の問題が特に顕著な若年層の状況改善という点では、協定がそれなりの効果を発揮したことがわかる。一方45歳以上のグループは新規期間の定めのない雇用の25%を占めている。

しかし長期失業者について見ると、協定の効果はあまりあがっていない。政府による経済的助成もむなしく、長期失業者で新たに期間の定めのない雇用契約労働者として雇用されたのは全体の4.3%のみにとどまった。AIEEによって一時雇用労働者の中でも比較的条件の良かった労働者の状況が更に安定し、結果として労働市場の二極化が強められたとも言える。現時点では失業者の2人に1人が長期失業者(1年以上)である。

企業の規模別に見ると、AIEEの期間の定めのない雇用創出策を最大に利用したのは最も規模の小さい企業だったといえる。新規の期間の定めのない雇用の3人に2人は、労働者1人~10人の企業で創出されたものである。これら小企業では政府の助成が相対的にかなり大きかったこと、またAIEE前の段階で不安定雇用が集中的に見られたのが小企業だったことなどが、理由としてあげられる。

このように、相対的に見ると期間の定めのない雇用創出が最も多いのは小企業である。1997年5月から1999年3月の期間、従業員1人~50人の企業(賃金労働者全体の54.3%を占める)で結ばれた期間の定めのない雇用契約は、全体の70%近くにのぼる。従業員数100人をこえる中企業・大企業(賃金労働者全体の37.7%を占める)ではこれとまったく逆で、全ての期間の定めのない雇用の15%余りとなっている。結論として、AIEEは雇用の不安定度が高い小規模企業で効果を発揮したと言えよう。

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