政府、次期政権で完全雇用達成を目指す

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年3月

過去数カ月にわたって雇用の動向が順調であり、特に失業は継続的な減少傾向にあるが、ホセ・マリア・アスナル首相およびその他現政権の大臣らの間からは、4月に予定されている総選挙で再び国民党が次期政権を担うことになった場合、完全雇用の達成を目指すとの発言も出ている。これは、スペインがいまだに欧州連合、ならびにOECD諸国間で失業率が最高水準にある国だということを考えれば、場違いな感じがしないでもない。スペインの失業率は1984年以来労働力人口の20%前後にのぼり、1994年には4人に1人が失業中という状態であったのが、その後急速に低下して現在の15%という数値に至っている。一方、後に説明するとおり、労働力調査(EPA)の方法にいくつかの修正が加えられたため、失業の減少がよりきわだって見えるという側面もある。

完全雇用に達するためには、まず失業に見られる男女格差の是正が第1の課題である。しかし逆に、雇用の中核となる25~54歳の男性(一般的に家計を支えているのはこの層の労働者である)の雇用状況が他の層よりもはるかに好調であるからこそ、完全雇用の実現も間近だという議論も存在する。確かに、失業率が全体として20%前後を推移してきたのに対し、25~54歳の男性労働者に限ると10%前後にとどまっている。

25~54歳の男性労働者は就業者の約半分をしめるが、失業者の中では4人に1人にすぎない。絶対数でみると、この層に分類できる就業者は650万人以上、一方失業者は60万人にとどまっている。

以上のような年齢・性別による格差の大きさに加え、スペインには完全雇用達成を難しくしている要因がもう一つある。それは、スペインの労働力率が欧州全体でも最低レベルにあり、今後とどまることなく伸びる傾向にあるという点である。

女性の労働市場参入が進みつつあるにもかかわらず、スペインの労働力率は1976年以降ほぼ変化なく、むしろわずかながら低下しているほどである。若年者による労働市場参入が年々遅くなっていることに加え、退職者人口の急増で、労働力人口は過去10年間に約150万人増えて1600万人を超えるに至っている。そしてこれが労働力率の伸び悩みの背景となっているのである。

従って、欧州連合の平均的な労働力率に追いつくには、1200万人を超える現在の就業人口から出発して、更に300万人の雇用創出を達成しなければならないことになる。

部門別にみると、スペインと欧州連合との差がさらにはっきりする。スペインで労働力率が欧州平均を越えているのは、わずかに農業、建設業、そしてサービス部門の中のホテル業のみとなっている。しかもあとの2つでは、欧州連合との差はごくわずかである。

ところで、完全雇用を目指すといっても、何をもって完全雇用とするかによって目的は変わってくる。一般的には、「特定の仕事をやめて次の仕事を探している状況にある者だけが失業者」という状況を指して完全雇用とする定義が受け入れられるものである。世界経済全体を見ても、この種の失業率は4~5%程度とされる。したがって、政府の掲げる完全雇用の目的達成とは、今後5年ほどの間に失業率の10%低下を実現することにほかならない。

欧州でこれに匹敵する急激な失業率の低下を達成した例としては、アイルランドが6年で失業率を半減した例がある。1993年のアイルランドの失業率はスペインとほぼ同程度の15.6%だったが、1998年には8.7%と、欧州平均を下回るまで低下している。ただし、この間アイルランドの経済成長率が8~12%だったのに対し、スペインの経済成長率はつねに4%以下であった。同じ経済成長率に対する雇用の伸びという点ではスペインがアイルランドを上回っているが、両国の経済成長率にこれほど開きがあることを考えれば、アイルランド並みの雇用成長を今後スペインで期待するのはかなり難しいと言わねばならないだろう。

労働力調査(EPA)の方法の修正

一方、雇用統計の方法をかえることによっても完全雇用達成の実現は可能である。労働力調査(EPA)は長年にわたって最も信頼できる。また国際比較可能な雇用統計とされてきたが、1999年を通じてスペイン全国統計庁(INE)は、しばしば明らかな政治的意図のもとに、労働力人口、就業人口、失業者数の算出方法にいくつかの修正を導入した。

まず、調査対象抽出に際しての地域区分を、全国で3200カ所から3500カ所近くに増やした。より多くの地域の実状を反映できるという点では、質的な向上を意味しているともいえる。しかし調査結果を見ると、新しい調査地域が加わったことで労働力人口の構成が大きく変化したかに見える。特に1998年第4四半期に18.2%だった失業率が、1999年第2四半期には15.6%まで低下している点が目を引くが、というのもこれほど短期間に失業率が急落したことはいまだかつてまったくなかったからである。

また最近のEPAの結果を見ると、就業人口の増加が顕著な一方、労働力人口は目立って減少するという、一見矛盾した様相を呈している。これは就業率が非常に高く失業率が低い地域を選んで調査対象に加えたのでなければ、説明がつかない。

他方、1998年にジュネーブで開催された第16回労働統計専門家国際会議の結果として、EPAでは1999年第1四半期より「労働時間の不足による準雇用」のカテゴリーを導入している。これは「現在の週あたり労働時間が同部門での終日雇用労働者の通常の週あたり労働時間より少なく、より多くの時間働きたいと考えており、またそれが可能な状態にある就業者」と定義される。このような新しい定義付けに変えたことで、従来の準雇用者数45万人が更に9万人増えた。

最後に、実際に調査を行う方法にも修正が見られた。1997年以来、電話による聞き取り調査が可能になったが、当初はまず立ち会いで調査を行い、その後対象者が希望すれば電話調査を行うというものだった。しかし1999年には電話による調査方法が全面的にとられるようになった。

これにより調査結果に大きな変化があらわれたのはいうまでもない。というのは、調査官の訪問時間に留守している家庭に対しても、時間をかえて電話したり、場合によっては職場にまで電話したりして回答を得られるようになったからである。結果として、就業人口が以前よりも多く、また非労働力人口(特に女性の場合)が少なくなる傾向があらわれた。

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