国営企業民営化問題
政府は1999年上半期から航空(タイ航空)、電力(タイ発電公社:EGAT)、電信電話(TOT)の各分野を中心に民営化を図ろうと様々な政策を打ち出している。
政府は国営企業民営化法の制定に伴い、民営化監視組織を設立する予定であることを発表した。同法の制定後は、政府は民営化の着手が、国営企業は資本市場からの資金の調達が容易になる。しかし、国営企業労組は、政府の民営化(国営企業株の売却)政策や企業民営化法の制定は、タイの国営企業が外国人投資家に買収されることを意味するとして、1999年11月11日、皇室に直訴し、政府の決断に抗議した。続いて11月18日にも、国営企業従業員連合会(SERC:The State Enterprise Worker's Relations Confederation)は、国営企業企業法を阻止するための請願書を公式に皇室に提出した。SERCのサナ・タンティサノー事務局長は、この法律によって経済的植民地化を引き起こすような国営施設の外国人の乗っ取りが始まるだろうと、危機感を募らせている。法律は上院下院ともに可決し、皇室の認可を待つ状況である。
スパチャイ副首相は、この法律によってすべての国営企業が民営化されるというわけではなく、制定後、従業員に大きな影響は与えないとコメントしている。チュアン首相は、民営化の際には、政府側は労働者の福祉を考慮し、不当な影響が出ないように努力すると述べている。
国営企業の民営化に関しては、従業員からの反対だけでなく、一般からも TOT(タイ電信電話公社)、PAT(タイ港湾公社)、PTT(タイ石油公社)といった生活に密着し、安全保障の面でも重要な3公社は民営化すべきでないとの意見もある。
そのような中で、国家経済社会開発局(NESDB)が1999年11月14日発表したところによれば、1999年の国営企業純利益は目標額の45%を達成するにとどまる見込みとなった。歳入は8492億バーツ(1バーツ=2.82円)、歳出は8253億バーツとなっており、純利益は238億バーツとなる見込みである。目標額に達成できなかった理由として、経済不況による歳入の落ち込みと、為替レートの変動が挙げられている。
タマサート大学のスラポル教授は、国営企業を民営化する過程において、適切な株価の設定により、国の財政に損失を与えず、効率的に民営化政策を進めるためには新しい法律が必要であるとしている。たとえば、国内最大規模のEGATの場合、3000億バーツの資産価値があるとされているが、仮に株価が実質価格よりも僅か1~2バーツ下がった場合でも、100~200億バーツの大きな損失となってしまう。同教授は、民営化のための組織を結成し、適切な方法で株式の売却に取り掛かることが賢明であると述べている。
タイは1999年10月からIMFから融資を受けていないこともあり、民営化を急ぐ必要はなく(注1)、問題は FIDF(Financial Institutions Development Fund:金融機関発展基金)への債務返済の方に移行してきている。民営化の利益の半分は FIDF への返済支払いに費やされると考えられる。
1999年11月30日には、EGAT国内最大のラチャブリ発電所の株式売却が議会に承認され、2000年の8月には売却開始となることが明らかになった。株保有の内訳は、EGATが45~49%、1株20バーツで40%を市場に開放する予定。この民営化によってEGATは600億バーツの利益が見込まれ、そのうち88%は新投資や工場の拡大に、10%は早期退職者に対する退職金に当てられる。
その他の民営化の動きとしては、以下のようなものがある。バンコク・メトロポリタン銀行とサイアム・シティ銀行は、海外投資家からの要望により、同行の株価入札価格を再検討するため、民営化を2000年に先延ばしすることが決定した。また、石油精製会社のバンチャック・ペトロニウムでは、2000年1月に株式売却を開始、株購入の優先権はタイ人投資家に与えられるということである。
注
- IMFからの融資を受ける際には、インフレの抑制や金利の引き締め、早急な民営化といった構造調整(コンディショナリティ)政策を受け入れる必要性がある。(本文へ)
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