長期疾病欠勤の増加による社会保険の見直し

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年2月

ブルーカラー労組のスウェーデン労働組合総同盟(LO)は、社会保険の近代化に多大な努力をしている。LOは、大々的な教育的運動および世論調査などを通じて組合員と意見交換し、彼らの意見を、手当削減の福祉制度への影響、長期疾病欠勤の増加の理由および不満足な社会復帰制度を調査中の3つの政府委員会に伝える予定である。

スウェーデン経済の好転と失業者の減少とを背景に、過去2年間で疾病欠勤者が大幅に増加した。スウェーデン経営者連盟の統計によると、1999年第3四半期には疾病欠勤者数が前年同期比8.6%増加し、今や通常の労働時間の3.91%が疾病欠勤で失われている。ホワイトカラー労働者の疾病欠勤者増加率は6.8%で、ブルーカラー労働者の同増加率12.1%よりも低かった。また20労働日以上の疾病欠勤者数は12.1%増加した。

財政赤字削減のために何年もの間、社会福祉事業を削減してきた結果、LOのスポークスマンによれば、スウェーデンは今、社会福祉制度を改善しなければならない状態にある。組合と社会民主党政権との間に協力体制の改善が見られるが、それが LOが組合・政府間の「社会的対話」を呼びかけているもう一つの理由である。

かつての大量失業の原因は、一部は公共部門における人員削減、一部は長期疾病欠勤の大幅な削減(無理な出勤をするため、新規雇用が創出されない)、また一部は疾病給付を給料の90%から75%に削減した(その後80%に引き上げ)ことにあり、これが大量の人々を失業者と「雇用出来る人」の間の溝に追いやっている。すなわち長期の疾病により職場を離れた人々が前職に戻れず、結果的に失業している。このような人々は、前職に復職したり、あるいは新しい職務につかせてもらってしかるべきであった。しかし、場合によっては昔の仕事が合理化によってなくなってしまうこともある。このような状況の中、使用者およびリハビリの担当局である健康保険行政機関は、十分な関心を持たず、関与しないか、あるいは健康保険行政機関の場合には、高度経済成長期(現在3.5%)にあえて病気を報告する人が増加しているためにその疾病給付の支払いに追われ、長期疾病欠勤者との対応に必要な時間を持つことができないでいる。

リハビリに大規模な投資(例えば長期教育プログラム、能力試験等)をしないために「雇用できる状態」にない失業者グループは、政治難民およびその他の移民も含めて労働力人口の1~2%を占めると推定される。このグループの多くは、もしもこれまで失業保険受給資格を得てきたとしても、失業給付を喪失する危険にさらされている。これは、失業保険と一時的な職場の提供とで労働者の生活を支えた安価な労働市場政策の多くに、もはや十分な予算が割かれていないからだ。その代わり、経済で最も必要とされている人材を提供する策として若者を専門職として育てる高度な方策に予算が割かれている。このため、ますます多くの失業者が、地方自治体の社会扶助プログラムの世話になっている。

組合および社会保険制度改革を検討中の委員会には、いくつかの選択肢がある。すなわち、疾病および失業給付の削減、非社会党系の野党が議会で提案した待機日数の1日延長は、自動的に長期疾病欠勤を削減し、失業者が低賃金労働を受け入れざるをえなくするだろう。組合は、むしろ二つの保険(現在、失業保険で月1万6000クローネ(1クローネ=12.29円)、健康保険で月2万1000クローネ)の給付上限を上げ、最終的に給付水準を喪失所得の90%水準にまで戻すことを希望するだろう。また組合は、長期疾病者および失業者に対して、職業安定所が、オンザジョブ・トレーニングと失業給付が支払われる教育を併せた個人契約を結ぶ「過渡的労働市場」という新しい概念を受け入れるようにも見える。今日、使用者は長期疾病者のリハビリに対する責任義務があり、リハビリは早期に実施すべきであるが、この義務を果たすことに対するインセンティブが欠如している。代替案は、政府がそのような金銭的インセンティブを提供するか、復職させる責任を健康管理行政に移管するというものだが、そのためには、健康管理行政の人員を増強する必要がある。

労働者災害補償についても、新たな考え方を導入すべきだろう。仕事のペースが早くなったことに起因すると思える業務上傷害および疾病が急増しており、企業、行政ともに責任を取る人員が減少している。反復運動過多損傷にかかっている人々の大半は、女性であるが、女性は大抵高額の年金の受給資格は得ていないので、早期退職の選択は生涯所得を大きく低下させてしまう。

ホワイトカラー労働者から成る TCO(職員労働組合連合)は、スウェーデン政府を平等に関する指令違反で欧州(EU)委員会に提訴した。TCOは、スウェーデンの労働傷害保険は次の二つの理由により女性を差別していると主張する。一つは給付の計算方法がパートタイマーを差別していること(女性労働者のほぼ半数がパートタイム労働者である)。もう一つは男性に比べ、女性が仕事上の怪我・疾病を認定してもらうのは難しいということ。これは当該する仕事の多くが典型的な女性の仕事であり、コンピュータのデータ入力等の運動の繰り返しの危険性がまだ調査されていないためである。

労働者側には、基本的に二つの選択肢がある。ブルーカラー、ホワイトカラー、専門職を問わず全労働者への給付を増やし、収入の全額を保障するのが一つ。そして第二に、税を財源とする最低生活保障の社会保障給付への上乗せ部分の各種補足制度について交渉すること。いずれも実現できなければ、労働者は各自で失業、疾病および老齢に備えて補足的保険に入らねばならない。既に現時点において、女性が補足的年金保険に加入する動きが見受けられるし、専門職組合は補足的失業保険を提供し始めている。この方向がさらに進めば、失業および老齢時に収入維持を確保する総合的福祉制度が崩壊し、最低所得者層は民間保険に入る余裕がないことから所得格差が更に拡大するだろう。

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