最低賃金が引き上げられる

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年2月

首都マニラ

首都マニラの最低賃金が25.50ペソ(1ペソ=2.58円)(13%)上がり、現在の日額198ペソから223.50ペソになる。1998年2月6日、185ペソから198ペソになって以来の1年9カ月ぶりの引き上げである。

地方賃金生産委員会(委員会)は、2日間に亘る審議の後、1999年10月12日夜膠着状態に陥った。国家経済開発庁と商工省の政府代表者は、フィリピン労働組合会議(TUCP)代表が条件付で同意した25.50ペソの賃上げに固執した。しかし、フィリピン経営者連盟(ECOP)からの2人の経営者側代表は、25ペソの賃上げを主張し、一方、労働者諮問協議評議会(LACC)からの労働者代表は判断を控えた。結局、新最低賃金は7人の委員の投票で、4対3で辛うじて可決された。

尚、各地方委員会は、雇用労働省の地域労働事務所長を委員長、国家経済開発庁と通産省の地域事務所長を副委員長とし、労働者側及び使用者側から選ばれた各2名の委員で構成されている。

エストラーダ大統領は、僅かな賃上げはこの時期自分を労働者の中心とした大衆に不人気にさせるだろうが、隣国と比較し低い賃金を大幅に上げることは、潜在的な海外の投資家を尻込みさせ、多くの小企業の閉鎖か従業員の解雇に追い込むと強調し、今回の賃上げ率は、賃金生産性委員会が徹底的な調査をした後の決定であると述べた。

今回の委員会決定の特徴は、従業員10人未満の会社、ベッド数100以下の個人病院、15人以下の労働者による小売り業者またはサービス事業者を新賃金令から免除したことである。リム委員長(兼地域労働事務所長)によると、首都の全事業主の80%を占める小規模事業主は、普通最低賃金を労働者に支払っており、少なくとも100万人の労働者がこの賃金令から除外され、恩恵を受けるのは、約38万6000人と予想している。

リム委員長は、フィリピン人小規模事業主を除外したことについて、これらの企業も経営が苦しく、この小規模企業の問題を軽視して議論することこそ最も反フィリピン的だと強調し以下のように説明した。賃上げ率の決定に際しては、委員会は、1998年2月6日の賃上げからの購買力の低下と予想される今月の物価上昇、今後の輸送機関の運賃の上昇等を考慮に入れた。更に25.50ペソの賃上げによるインフレの影響も検討した。

この決定は、予想された様に、直ちに労使双方から強い反対を受けた。

労働者側の代表のマグツボ氏は、委員会は労働者のより平等な賃金への要求に答えることに失敗したし、下院が適切な賃上げをしなかった委員会に代わり「賃金調整政策」を作成するべきだと非難した。

53ペソの引き上げを要求していた TUCP は命令は「全く非現実的」な額とし、国家賃金生産性委員会に訴える予定で、要求が通らなければ、賃上げ要求を支持すると述べた。五月一日運動(KMU)は、1999年10月13日のマニラのストの先頭に立ち、125ペソのベースアップのキャンペーンを張っていたが、25.50ペソの賃上げは侮辱的な小額で、今後もっと大規模な行動を採ると警告した。

経営者側の ECOP は、1999年中に、25ペソと15ペソ、2000年5月1日に10ペソという二段階の賃上げを主張した。

一方、ラグエスマ労働大臣の記者会見での発言の要旨は以下の通り。政府の産業的平和を維持しようと努力しており、感情的、政治的主張ではなく社会経済的指標を基礎におくべきである。

また、ある下院議員は、「最低賃金」という用語は、労働者の要求により一致する「家族賃金」に変更すべきだとし、家族賃金は、労働者の家族の窮乏を十分補償するものを意味すると説明し、この賃金を基礎に各地方で賃金調整政策を立法化すべきだと主張した。

南部ミンダナオ

南部ミンダナオの委員会は、日額13.00=13.50ペソの賃上げを発表した。

しかし、委員会の雇用労働省(DOLE)と使用者側の代表が、幾つかの企業が資金不足のため、1999年11月1日から施行されるこの命令を履行しないだろうと述べたため、労働者の不満が地域労働事務所に集中した。

地方委員会の経営者側代表の法律家カリアガ氏は、多くの企業が、新最低賃金令に即座に従えないかもしれないため、1999年中は企業を査察しないという地域労働事務所の方針を評価すると発表した。

新最低賃金命令は、この地域の主要都市の非農業部門、小売りとサービス部門の最低賃金を、それぞれ135ペソから148ペソへ、133ペソから146ペソに、都市プランテーション農業に従事する労働者の最低賃金を125ペソから138ペソに増し、また、非プランテーション農業の労働者の最低賃金を、104.40ペソから117ペソに調節した。

その他の地方

他の地方の最低賃金の引き上げ情況は、コーディレラ地方は15ペソ、カガヤン渓谷地方は10または12ペソ、西部ビサヤ地方は10~15となっている。

エストラーダ大統領の呼びかけ

最低賃金の賃上げに対する不満は、一部の労働者が25.50ペソの最低賃金の増額を得た首都マニラで最も高かった。

大統領は、ラジオとテレビ番組で、労働者に語りかけ、大統領としての立場は、この賃金問題では非常に難しいが、フィリピン人誰もが犠牲になることを学べば、我々がこの困難を越えることが出来るとした。

しかし、物価上昇と停滞する賃金の為、「貧困者の為に」というスローガンを「貧困の根源」に変え茶化す者も出てきた。また、最近のパルスアジア社の調査では、エストラーダ大統領の人気は65%から44%に下落した。この原因は、それほどは貧窮していないが、物価の上昇によって影響を受けた層からの不満が増加したためである。

大統領は、国家を悩ましている全ての経済問題を資金不足に要約し、これを度々引用し、1987年に改正された憲法の経済条項を修正することへの要求を正当化し、海外からの投資を誘引する為に、外国人の、土地、マスメディア等の完全な所有を認可する法改正を提案してきた。しかし、この調査では、フィリピン人の大部分が憲法改正を希望していない。

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