失業保険改革

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

スウェーデンの記事一覧

  • 国別労働トピック:2000年1月

所属する全国組合が運営する失業保険基金に加入できた労働者は、1日当り最高580クローネ=12.07円)の失業給付が受けられる。これは1カ月で1万6000クローネに満たない賃金の80パーセントに相当する。この水準の給付を受けているのは失業者全体の60パーセントである。ブルーカラー組合もホワイトカラー組合も数年前から給付額の上限引き上げを求めてきた。現在の給付水準では最低限度の生活保障にとどまり、個別交渉や団体交渉で不足分を補う必要があるからだ。すべての組合は、スウェーデンの従来の総合的な福祉政策の継続を望んでいる。その政策では、病気で休職する場合や失業した場合でも、通常の所得水準の維持が保証されてきた。

最近、政府支出削減のために失業保険基金への加入規則が改定され、加入がこれまでより難しくなった。失業給付は政府が支給するが、失業保険に必要な総費用のうち平均して約10パーセントは労働者が負担しており、これで管理費が賄われている。失業保険の適用範囲が狭まったために、地方政府の社会扶助経費が急増している。現在、40万世帯近く(労働力人口の10パーセント)が、失業を理由に地方政府から社会扶助を受けている(1990年は約25万世帯であった)。

失業保険の受給資格を一度得ると、失業の合間に、新たな失業給付期間が設定される労働市場政策で雇用されている場合、長期間失業給付を受けることになる労働者が多い。失業中の様々な所得維持策の改革案を検討している政府委員会は現在、社会扶助を受けている長期失業者が労働市場に復帰できるよう、新たな方策を提案している。地方政府の社会福祉事業と職業紹介所が協力して、長期失業者に雇用か教育の機会を与える行動計画やプロジェクトを策定するというものだ。参加する労働者には十分な報酬が得られ、社会扶助で不足分を補う必要がなくなる。現在、社会扶助は非課税で、月額平均2900クローネであるが、プロジェクトへの参加を促すため、委員会はそれを500クローネ上回る報酬を提案している。「自己開発を保証する」プロジェクトに参加しなければ上乗せ分を得られず、いずれは社会扶助も減額される。

こうした委員会案が実現すると、過渡期の労働市場が生まれる。これは、ベルリン科学センターのボルフガング・シュミット氏が長年提唱してきたものであり、長期失業者が陥っている、労働市場政策による雇用と失業給付受給との間の悪循環を断ち切るものだ。長期失業者のなかには、過半数を占めるわけではないが非北欧系の人々がかなりいる。この人たちにとって、職業紹介所と契約して語学研修に参加するのは当然の選択肢であろう。その他の失業者には、公共サービスの質を高めるため、公共部門で職が紹介されることになる。

スウェーデンでは、職業紹介所で紹介された職につく義務に関する失業保険基金の規則が他の国より厳しい。求職者が新たな職に向いていると考えているかどうかは、ほとんど考慮されず、雇い主がそれを決めている。また、職業紹介所は別の場所に求人があれば、失業者にそちらに移動するよう勧めている。その場合、一日4時間以内の通勤は受け入れなければならない。ただし、職業紹介所の対応は地域によっても異なる。

とはいえ、組合にとって最大の問題は、上限を超えた失業前の所得が失業給付の基礎にならない点である。組合によれば、明らかに政治家は失業給付をできるだけ低額に抑え、労働協約に規定された最低賃金を下回る額にしたいと考えている。これは労働市場全般の賃金水準を押し下げるためである。しかし当然ながら、賃上げ要求を抑えるために失業給付も引き下げるべきだなどと公言する政治家はいない。

経済が3.5パーセントの成長を遂げているにもかかわらず、まだ40万人が失業中である。経済が好調な今、長期失業者を労働市場に復帰させる対策を真剣に講じなければ、次の景気後退が始まるころには、失業者数は容認できない水準に達し、それが景気後退で更に増加することになろう。

関連情報