労組、生存のために転換

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:2000年1月

失業増加と所得低下は労組の収入低下、単組の支払い不能増加を起こして、労組は生存のために、種々の手段を試みている。また国会には労働者から強制的に徴収している組合費を廃止する法案が提出されており、政府からの労組補助分配はなくなる可能性があり、労組維持は更に困難が予想される。

労組が生存のために労働者を繋ぎ止めておく手段として採用する方法は日々多方面に広がっており、伝統的なレジャー設備提供はもとより、労組活動としては例のない墓地の提供、生命保険などから、職業訓練まで専門企業と協定を結んだり、政府資金導入などで、加入者に便宜を図っている。しかし国内最大の中央労組であるCUTとフォルサ・シンジカルは、全く相反する方向に進んでいる。フォルサ・シンジカルは組合員へのサービスに労組の前途はあると考えている時に、CUTは政治闘争こそ労組の究極の使命であると主張している。CUTが労働党の政治基盤となっている現状をそのまま表している。労働党と一体となった政治運動を労組の使命と信じているために、農村の土地無しグループによる農地の不法占拠や、都市の家無しグループの都市の不動産不法占拠などを労働党と共に支援し、野党やその所属団体と共同により、現大統領の辞任要求、経済政策変更要求デモを頻繁に行なっている。各単組に対する指導力が低下した分は、政治活動を活発化することによって回復させようと試みている。そのためフォルサ・シンジカルの労働者に対するサービス提供方針には「労組の闘争方針を変形させるものだ。我々の目的は全ての社会サービスを政府から無料で提供させるために闘争することにある」と全面的に反対している。労働者の権利は全て闘争によって政府と使用者から勝ち取るものであり、すべて労働者は無料で受け取るべきものと言う方針を強調している。これに対してフォルサ・シンジカルや労働総連合CGT、社会民主労組 SDS は、雇用を増加させ、労組に収入をもたらすサービスを模索し、民主的価格で組合員に提供することを目的にしている。この面ではフォルサ・シンジカルが最も進んでいて、労働省の資金援助による労働者の訓練システムは最も有名になった。サンパウロ州カンピーナス大学の労働問題専門家のMarcio Pochman教授によると、いま国会で審議中の労働組合分担金廃止案が通過すると、各労組の収入は少なくとも3億6000万レアル(1ドルは約2レアル)を失うことになり、さらに同一地域には同業種組合は一つに限定する規定によって、大部分の労組は消滅する。現在でも名目だけ存在する組合が多く、使用者側組織も加えると、国内に登録されている1万8000の労組(使用者組織の数は区別して発表していない)の80%は解消せざるを得なくなり、残りの労組も組織全体を大きく変更するしかない。政府が労働者から分担金を徴収して、労働省により、労組へ分担金を分配する制度を作った結果、この給付金を受け取る目的のために、無数の労組が誕生した。現在登録されている組合の内20%は実際は委員長1人が組合員と言うインチキ組合だと同教授は言う。給付金目的のために登録書類上だけに存在する組合と見ている。組合費分担金徴収義務が廃止され、給付金がなくなれば、独自に労働者から任意給付金を徴収せねばならず、労働者に組合へ所属させる意欲を持たせないと、納付金徴収は困難となる。そのため、ナショナル・センター全体が、今後の進路を模索している。各ナショナル・センターでは組合員を確保する手段として、独自の医療サービスや生命保険、労災による労働不能保険などから着手して、将来は労組年金制度を設けて労働者を終身所属させる方法を検討している。CUTを除く他のナショナル・センターは、労働者が必要とするサービス提供中心に労組活動を進めるしかないが、そのサービス提供には還元が必要になると、組合の経費捻出の面も心配している。なお、現在ブラジルでナショナル・センターとして登録しているものは4グループあり、各自がそれぞれの参加組合と所属労働者を以下のように発表している。これは1万8000組合の内、何らかの機会に参加を表明した労組とその所属労働者をそのまま合計して、ナショナル・センターの勢力を誇示しようとしたもので、実際の参加数は少ない。

  • CUT(Central Unica dos Trabalhadores)、2600組合参加、1800万人労働者所属。月間2億2000万レアル収入。10%は組合員の納付。労組と個人組合員の会費納付不能は40%に達した。
  • フォルサ・シンジカル、1100労組が参加、700万~800万人労働者所属、月間収入は約1億レアル。主要収入は労働者の納付金。労組と組合員の会費納入不能は50%。
  • CGT(Confederacao Geral dos Trabalhadores 労働者総連合)、1100労組参加、800万労働者所属、月間収入80万レアル。主要収入は加入者の納付金、労組と組合員の納付金支払い不能は70%。
  • SDS(Social Democracia Cindical 社会民主労組)、1000以上の労組が参加と発表、500万~600万人労働者が所属、年間100万レアルの収入、会費が主要収入、組合と労働者の支払い不能は40%と発表している。

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