ケルティACTU書記長の辞任とACTUの新たな戦略

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年12月

ケルティ書記長の功績

前号でお伝えしたように、ケルティACTU書記長は2000年2月15日をもって辞任する予定である。彼はおそらく今世紀最も議論を呼び、かつ最も影響力のあった組合指導者と評価されよう。

彼のこうした影響力はオーストラリア労働組合評議会(ACTU)書記長という職にマッチしないと思われるかもしれないが、彼はACTU内の意思決定権限をACTU議長から書記長へと移し換えたのである。

1980年代のホーク元首相とケルティ書記長の関係は、1980年代から1990年代にかけての経済政策と労使関係の展開にとって決定的な意味を持った。その1つが「アコード」である。アコードにより、ACTUは賃上げ抑制と引き換えに政策への影響力を得たのである。彼は金融緩和や産業保護政策の撤廃、労使関係制度の分権化などを容認し、これが雇用の不安定化や労働強化をもたらした。結果的に労組組織率は1982年に48.3%であったのが、1996年には31.1%、現在では28%にまで落ち込んでしまった。そのため彼の政策が結果的に労組の弱体化を招いたとの批判もある。特に労使関係制度の分権化は多くの労働者の生活水準を低下させ、労働条件格差をもたらしたといえる。

他方、彼は退職年金など主要な改革の立案者でもあり、長期的な生活の改善にもつながる成果を挙げてきた。

以上のことから、ケルティ書記長は様々な議論を引き起こし、相反する評価を受けているのである。

ACTUの今後の戦略

ケルティ書記長の後任は現ACTU副書記長であるコベット(Greg Combet)氏が予定されている。彼は鉱山技術と経済学の学位を持ち、組合活動に関連するいくつかの職位を経て、ACTU研究員に任命され、1996年に副書記長に就任した。

彼の当面の課題は、上院で審理されている労組に不利な労使関係法案と組織率の低下であろう。

ACTUは組合活動再生のための新たな戦略に着手した。コベット氏は組織率回復の方法を探るために海外調査を実施した。労組は現在の組織率を維持するためには年34万8000人の新規組合員を獲得しなければならない。組織率の数値を1%上げるためには、年42万人の組合員を獲得する必要がある。

可能性のある分野はサービス産業である。組合員はブルーカラー産業に集中している。また高齢労働者に組合員が多いのも特徴である。「Union@Work」と題された報告書は、豪州における組織化失敗の原因に言及し、海外での成功例との対比を行っている。これにより、豪州の労組がなすべきことは明らかであろう。つまり、組織化に予算や人を割くことである。各職場に労組代表をおき、交渉や苦情処理の方法について訓練を与えること、新技術の利用などが提案されていた。

後任はコベット氏に決定

ジョージACTU議長は1999年10月にコベット氏の書記長選出を報告した。書記長としての正式な就任は2000年2月になる。コベット氏は42歳で、港湾労使紛争におけるその技量が評価されたものと思われる。

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