ハンガリー/最低賃金の引き上げを目指す労働組合

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年12月

ハンガリーの労働関係を見ると、10年以上前から社会的パートナーである政府、使用者団体、組合連合が毎年春に法定最低賃金を定めてきた。

最大の組合連合であるハンガリー労働組合連合(MSZOSZ)は最近、1カ月当りの最低賃金を現在の2万2500フォリント(100フォリント=41.75円)から、1999年7月2日以降、2万5000フォリントに引き上げる運動を開始した。MSZOSZが引き上げを提起した主な理由は、1999年の税制改革で最低所得が最も打撃を受けるからだ。例えば、最低賃金が1998年より3000フォリント増えても、実質賃金増は1カ月当り629フォリントにしかならない。1999年のインフレ率が9パーセント前後であれば、低賃金労働者の実質賃金はおそらく1998年比4.9パーセント減少するだろう。しかし、最低賃金を5万5500フォリントに引き上げることで合意できれば、実質賃金はわずかではあるが1.5パーセント増加する。

ハンガリーは2000年初めにポーランド、チェコ共和国とともに中東欧諸国としてはじめて欧州連合(EU)に加盟しようとしている。最低賃金に関するEUの基準はハンガリーにとって理想的なもので、この基準によると、最低賃金は平均賃金の68パーセントに相当する金額でなければならない。ところがハンガリーでは、この比率が1998年は38パーセントで、1999年には35パーセントに低下している。MSZOSZがなぜ年の半ばに最低賃金引き上げの運動に乗り出したのかを十分理解するには、ハンガリーの最低賃金は「最低生存水準」より低いという現状を知っておかねばならない。

ハンガリー最大の組合連合であるMSZOSZの賃上げ案に対し、労働関係における他の社会的パートナー(政府と使用者)側はかなり否定的な姿勢をみせている。政府についていうと、経済省の高官はこう述べて最低賃金引き上げを拒否した。「ハンガリー経済を安定させ、確実な見通しをもてるようにすることが先決であり、現状では、年初に取り決めた賃金協定の変更は認められない」。1999年は最低賃金を3000フォリント引き上げており、上げ幅は1998年を大幅に上回っているというのだ。ただし、「使用者と従業員団体が引き上げで合意できるなら、政府は反対はしない」と付言している。

使用者側もMSZOSZの賃上げ案に否定的な態度を示している。全国事業者協会の会長は最大の組合連合であるMSZOSZの提案を拒否した。理由は「実質賃金の価値の減少は税制改革によるもので、税制を変更したのは政府である。だから。この問題については、組合は政府の代表と交渉すべきだ。加えて、年の半ばに最低賃金を引き上げるのは経済の合理性に反する。また、経営者にとって最低賃金は重要な問題であるが、経営者は支払う賃金額と実質賃金をことさら区別してはいない。そのうえ、最低賃金を引き上げれば、高賃金労働者まで賃上げを要求し、経済全体に賃金スパイラルが生じかねない」としている。

とはいえ、使用者と労働者の代表が最低賃金の引き上げで合意をみた部門もある。例えばハンガリー鉄道会社の従業員の最低賃金は、1999年5月から2万4300フォリントに引き上げられている。これは全国平均の最低賃金より8パーセント高い。最近、小売部門の組合は、1999年7月1日から最低賃金を11パーセント引き上げて2万5000フォリントとすることで、使用者側と合意した。

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