高齢者年金制度見直しについて、世銀・IMFが提言

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年11月

政府は社会保障局(SSO)が導入した高齢者年金制度について調査する方針を明らかにした。現在の年金制度では「財政的に持続不可能」であり、早くも2025年には赤字に転向し、2039年には破綻するとの見込みから、大蔵省が世界銀行やIMFから、現在の年金制度を長期的に持続可能な水準になるように見直す必要がある、との勧告を受けたためである。

現在の年金制度では、年金の積み立て年数が最低15年、支給開始年齢は最少55歳で年金を受け取ることができる。年金額は、定年前5年間の平均賃金の20%に相当し、毎年1%ずつ増加していく。

タイの平均余命から考えると、退職の55歳の時点で男性は21年間、女性は25年間年金を支給されるという計算になる。しかし、15年間の所得の6%の積み立て額で、25年間に20%の年金支給は財政的に持続不可能ということになる。

世銀とIMFでは、現行の15年間の積み立てで55歳から支給という制度を、20年間の積み立てで60歳からの支給に変更することを推奨している。

アジア開発銀行(ADB)、世銀、金融政策局によって提案された新しい年金制度では、積み立て年数に応じた「最低水準年金」の形を取ることもありうる。この最低水準の年金受け取り額は、最低賃金レベルもしくは生存水準程度になりそうである。

世銀の提案によれば、最少でも、使用者と従業員の両方から賃金の0.25%の負担で積立てを始め、徐々に負担額を大きくしていく方法ならば、14%の平均賃金額を20年間支給することが可能で、政府支出は不必要になり、年金基金の破綻も免れるであろうということだ。

今年始まった現制度では政労使の3者が各1%の支払いをすることで子供の扶養手当もまかなわれている。これが2001年までには政府1%、使用者、従業員からは3%の負担になる予定である。この他にも、2001年から産休、病気、死亡手当てなどの社会保障のために更に1.5%の負担増となる。このような社会保障費の支払いの増加は、最近の経済不況下では、使用者、労働者ともに大きな負担となるだろう。

世銀の推測によれば、政府が現行の年金制度を変更しない場合、2040年にはたった35%の人にしか年金が行き渡らないだろうということである。

タイ政府の GDP に対する公的赤字の割合は、現在の16%から21世紀には60%を超えると予測されている。経済成長を回復するためには、政府は伝統的な保守的財政政策に戻るべきとし、公的債務を増やすことなく年金制度を確立することが政府にとって急務の課題になるだろう。

注・退職金が退職後に年金だけで経済的に自立していくためには、平均賃金の14%しか支給されない現行の制度では不十分であると思われるため、自発的な老後資金や個人の退職金といった追加的な貯金で補われる必要があるだろう。

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