ボルボ社とスカニア社合併がスウェーデンに及ぼすメリット

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年11月

ボルボ社はスカニア株の大半を取得し、スカニア社を吸収合併した。この結果、ボルボ社は世界第2のトラック・メーカーになった。スウェーデンの2大トラック製造会社、ボルボ社とスカニア社の合併は、スウェーデン経済および雇用に重要であることは勿論、労使関係の面からも興味深いものとなった。

ボルボ社の金属労働者労働組合は合併を終始支持していたが、スカニア社の労働組合は、ボルボ社のトラックはスカニア社の大型トラックに劣ると考えていたため、合併に非常に消極的であった。現在ボルボ社の経営陣は、スカニア側の労働者の不安を払拭するために、双方のブランドを現在のまま別々にし、R&D、営業販売も個別に行うことを約束している。また、スカニア社の多額の投資計画はそのまま継続される。

それでは合併による相乗効果のメリットはあるのだろうか。そして、ボルボはどのように経費を削減できるのだろうか。経営トップにおける経費削減は期待できない。なぜならスカニア社のトップは、ボルボ社のスカニア部門のトップとなり、高給の重役たちは皆、継続してその地位に居座ることを当然と考えている。結局、経費削減は、部品の購入面で実現する。ボルボとスカニア両社は、現在同じ下請け会社から購入することが多い。そこで取引関係を見直し、小規模の下請け会社の多くを切り捨て、大きい下請け会社には利幅の縮小を迫ることになる。

今後3年から5年で下請け会社の金属労働者は約1万人削減されると予想されている。直接の下請けに加え、ボルボ社およびスカニア社のこれまでの事業形態から間接的に利益を得てきた企業も打撃を受け、規模を縮小することになろう。そこでは、当該トラック・メーカー2社の直接雇用労働者数の3倍にあたる6万人が、現在雇用されている。これらの雇用を維持するには合併後のボルボ社が世界市場でより大きなシェアを占めることしかない。現在、2社はそれぞれが欧州市場の15%強のシェアを占め、米国ではボルボ社だけで15%強、ブラジルでは2社合わせて市場シェアの半分以上を占めている。この合併によってスウェーデンの雇用は、しばらくの間悪影響を蒙ると言って良いだろう。またボルボ傘下において2社が別会社として存続することはスカニア社の合併反対派を静かにさせるだけで、長期的な相乗効果をねらった措置を取らない限り、今回の合併はほとんど意味が無いと思われる。

しかしR&Dおよび本社機能がスウェーデンに残るという事実は、雇用喪失の可能性よりも重要である。独フォルクスワーゲン社がスカニア買収に成功していたならば、一層の雇用の喪失をもたらしたであろう。なぜならばフォルクスワーゲン社は、スウェーデンで部品を購入するよりも、ドイツの下請け会社に依存したに違いないからである。現在、部品供給業者の多くが、ボルボとスカニアの2有名ブランドとの取引実績を利用して国際市場に進出する機会を伺っており、下請け会社にとって2社との取引関係は重要である。

当面は、2社ともに確立した別々の賞与および利益分配制度を持ち、別々の労働代表取締役を維持する予定である。共同決定法および取締役会利益代表法は、それぞれの個々の会社の労働代表取締役にのみ適用される。しかし、合併後の企業全体の取締役会代表制についてはこれらの法には定めがない。この種の合併が続いて起これば、労働代表取締役による代表制の法的枠組が広がるに違いないし、恐らく全国規模の労働組合が企業取締役会により大きな役割を持つようになるだろう。

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