企業倒産の際の賃金債権確保について

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年10月

先進国の中でもオーストラリアは、企業倒産の際の賃金債権確保の面で遅れをとっている。シドニーの南西に位置するOakdale炭鉱が1999年5月に閉鎖され、125名の労働者が総額640万豪ドルの未払い賃金等を抱えて失職した際に、この問題に注目が集まった。さらに建設林業鉱山エネルギー労組(CFMEU)に加盟する約400名の労働者が国会議事堂前でデモを行い、それがマスコミで大きく報道されたことも関心を集めるきっかけとなった。

会社法では、破産管財人や担保債権者の債権、公租公課が労働者の賃金債権に優先するとされている。これらの支払いが行われてから初めて、労働者の賃金債権が問題となる。オーストラリア統計局によると、使用者の経営難を理由に職を失う者は年間およそ1万2000名に及ぶという。

オーストラリア政府は倒産の際の労働者保護を目的としたILO173号条約に署名しているものの、世界的なレベルでの労働者保護には十分とはいえない状況にある。現政権はこの問題に真剣に取り組んでこなかったが、今回の事件に対する国民の R議があまりに大きいために、事態を無視できなくなってきた。また石炭業などでは競争の激化により、小規模企業は淘汰される可能性が高く、その多くが未払い賃金の問題を抱えるものと予想されている。

賃金債権を有効に確保するという点から、各国の先取特権や賃金確保制度の研究も進められている。ただ使用者が賃金の一定割合を外部の基金に積み立て、倒産の際に利用できるようにする方法は、現政権の支持を得られていない。他方、CFMEUは石炭業だけに適用される保険基金を支持している。CFMEUの提案によると、基金は石炭1トンあたり10セントの保険料で賄われる。豪州の石炭輸出量が年間およそ2億2000万トンであるとすると、基金には年間2000万豪ドルがもたらされることになる。政府と使用者はこの提案に強く反対している。ACTU は信託か先取特権を定める立法を主張しているが、使用者団体はコスト面からこれらの提案にも反対している。政府に対する圧力は日増しに高まっており、何らかの対策をとることが求められている。

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