建設業における政府と労組の対立

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年9月

前号でお伝えした政府の労使関係改革案の中で、クローズド・ショップに代表される組織強制やパターン・バーゲニングの廃止があらためて約束されていた。この2つは建設業における労使関係の中核をなしているため、リース職場関係省長官は同産業での改革を特に促している。ただ、同産業の主要企業は政府ほどにはパターン・バーゲニングや組織強制に反対していないこと、また政府が外部から介入すること自体が職場関係法違反に問われ得ること、などから長官のこうした試みは大きな課題を抱えているといえよう。

組織強制に関する調査結果

雇用援護事務所(OEA)(注1)の委託した組織強制に関する調査結果が1999年6月に公表された。それによると、34万6000人の労働者が組織強制の対象となっているが、この数は全組合員の17%、労働力人口の4%に相当するに過ぎない。1990年時点では全組合員の54%、1995年時点では32%が組織強制の対象となっていた。ただ建設業など一部の産業では多くの労働者が組織強制の対象となっている。

建設業で働く調査対象者のうち46%が労組に不満を持ち、かつ選択の自由を得られたならば労組を脱退するだろうと回答していた。全産業レベルで見ると、組合員である回答者の20%が同様の解答をしており、OEA側は同産業での政府の改革を正当づけるものと主張している。

1999年初頭には、組合加入が雇用の条件であるとした建設林業鉱山エネルギー労組(CFMEU)幹部の会話を録音したテープがある裁判での証拠として提出されるなど、状況は労組にとって必ずしも有利というわけではない。ただ建設業労働者を組織化するCFMEUの組合員数は増加しつづけている。

パターン・バーゲニング

パターン・バーゲニングについては、1999年5月20日にGFMEUが建設業全体で15%の賃上げを求める姿勢を打ち出した。この背景には、現在の建設ラッシュが指摘できる。すなわち、ニューサウスウェールズ州ではシドニー・オリンピックに向けて、またビクトリア州では州政府が大規模プロジェクトを実施していることから建設ラッシュが起こっているのである。CFMEUの賃上げ要求は同産業内のおよそ3000の協定(すなわち90%)に影響を持つものと予想される。

リース長官は建設業の使用者を対象とした会議で、パターン・バーゲニングと組織強制に抵抗するために使用者の結集を求めた。しかし、建設業に対する政府のこうした圧力は職場関係法に違反する可能性がある。職場関係法では、企業別協定の作成、変更、解約を強制する行為が禁止されており、CFMEU等の労組は、ある企業との協定締結においてリース長官自身がこうした行為を行おうとしたと主張した。労組側は同長官が圧力をかけないように連邦裁判所の差止命令を求めた。同様の訴訟はリース長官だけでなく、ビクトリア州知事やOEA担当官に対しても提起された。その後、労組は一部を除いて、訴訟の取り下げを行った。このように組織強制やパターン・バーゲニングを維持するために、労組は職場関係法の規定を利用する傾向にある。

パターン・バーゲニングは今後とも続いていくであろう。実際、製造業や金属産業ではパターン・バーゲニングの完全実施に向けた動きが盛んである。たとえばオーストラリア製造業労働者組合(AMWU)は既存のほとんどの企業別協定に共通の満了日(ビクトリア州では2000年6月30日、他州では2001年6月30日)を設定している。交渉時期(つまりストを行っても良い時期)を合わせることで、事実上労組は産業レベルの賃金決定を達成できるのである。またこのことは、同産業全体で一斉にストを実施できることも意味する。こうした動きは政府の分権化政策に反するため、当然ながら政府の抵抗が予想される。リース長官はパターン・バーゲニングを困難にするための立法を検討しているが、それも上院での審議に左右されるであろう。

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