新しい時代の労働法
―マハデバンAITAC議長が語る

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

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  • 国別労働トピック:1999年9月

労働法の改革は、政府により最近設置が決定された第二国家労働委員会によって討議される重要テーマの1つである。討議に先立ちマハデバン全インド労働組合会議(AITAC)議長が、新しい時代の労働法について、TradeUnionRecord誌に、次のように意見を発表した。

労働市場の傾向

ここ数年の国内外の経済状況によって生じた労働市場の概要は次のような傾向を持つ。

  • 雇用構造が正規から臨時雇用へと変化している。
  • 組織化されている企業での雇用が減少し、非組織的な企業での雇用が増加している。
  • 方向付けられた集合的技術の進歩が下請けや在宅労働を促進する。
  • 公共部門の雇用率の増加が非常に低い。

多くの大企業での低い労働条件の融通性。このようなことから生じる労働者階級の構造における変化は、次のようになる。

  • 第三次産業の製造業に対する割合が変化している。雇用の増加している部門は第三次産業である。
  • 総雇用者数において、エンジニア等の技術労働者の比率が増加している。
  • 反対に、大半の末熟練労働者と肉体労働をする契約労働者は、企業の正規の主要な役割の外に置かれ、そして雇用保障がない。
  • 補充の方法が、終身の正規の労働者から契約労働の労働者へ、フルタイムの労働者からパートタイムの労働者へ、安定した地位の労働者から在宅労働の労働者へと変化している。即ち、組織された安定した労働者の地位が、不安定な非組織的な地位になるよう強いられている。
  • 産業労働者の教育水準は高くなってきているが、依然として人口の半分近くは、文字が読めない。
  • 女性は、伝統的に従事してきた農業、個人的或いは家事労働から離れ、経済活動の様々な分野に進出し、その数は増加している。
  • 労働力の大きな移動が、たいていの地域や部門において多様な労働者の混合をもたらしている。

現行労働法の問題点

このような情況の中で、現行のインド労働法は次のような問題を抱えている。

  • 法文にあまりに多様性と異質性が混在している。
  • 労働法の適用範囲が狭い。
  • 基準が、ILO基準と比較できるものではない。
  • 雇用を規制する法律が無く、「働く権利」が法律に欠けている。
  • 農業及び農業と関係する労働において雇用を規制する法律がない。
  • 非組織的労働者に対し社会保障がない。
  • 異議を唱えたり、否定することの出来ない全国的基準での最低賃金に対する法律の保証がない。
  • 組織的あるいは非組織的部門において失業期間に対する賃金保証が無い。
  • 現行の労働行政組織は非効果的な執行能力しかない。
  • 法律は、高尚な目標やそれを達成する如何なる労働政策にも基づいていない。

新時代の労働法

このような状況から、新しい時代の労働法には基本的には次のようなことが考慮されなければならない。

  • 世界人権宣言は、「全ての人が働く権利と仕事を選択する自由を持つ事、公正な労働条件と失業に対する保護」を義務としている。
  • ILOは基本的な人権条約を採用しているが、それはインドの労働法の一部分を形成している。例を挙げると、「結社の自由及び団結権の保護」(第87号条約、1948)、「団結権及び団体交渉権」(第98号条約、1949)、「強制労働の廃止」(第105号条約、1957)等がある。
  • 搾取的賃金に対する社会正義憲章は、国家政策の指導的原則の中に確固として書かれている。それは人々の福祉を促進するための社会的秩序を保証するため、法律と政策作成で守られなければならない。これらの基本原則は、政府の義務的な役割である。したがってインドの社会的秩序は、搾取的でなく、正義と平等と道徳的基礎の上に構築されなければならない。

最後に、具体的法律策定における問題点を次のように列挙している。

  • 最低賃金決定のための一定の規範の作成
  • 全領域を包括する法律の作成(雇用者数、業種、賃金の形態に関係なく適用され、自営や農業従事者、在宅勤務を含む。)
  • 非組織的部門(特に農業等)の労働条件を規制する法律の作成
  • 労働者の経営参加等を認めるための法改正
  • 児童労働を規制する法律の作成
  • 母親と児童保育に対する社会保障法の整備
  • 労働契約法の改正
  • 安全
  • 健康
  • 環境保護に対する法律の作成
  • ボーナスの額の支払い基準の法律化
  • 退職手当制度の法律化
  • 最低賃金での強制労働を規制する法律の作成

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