ハンガリー/余剰従業員を対象にした再就職斡旋計画

※この記事は、旧・日本労働研究機構(JIL)が作成したものです。

中欧・東欧の記事一覧

  • 国別労働トピック:1999年9月

ハンガリーの企業慣習では、人減らしについての「寛大な手法」(例えば、早期退職や、失業の危険性が高い労働力に対して親会社の中核的な事業活動に関連性のある小規模事業の立ち上げなど)と称する様々な利用法は、ほぼ出尽くしつつあるか消滅しつつある。

余剰労働者の一時解雇を計画している企業または事業体は、一時解雇の対象になる現業労働者または事務技術系職員が「中核的な労働力」になっている人達だということをよく認識しなければならない。つまりこうした人達は、長い勤務経験と強固な企業帰属意識を身につけた高度に熟練された労働力なのである。このような労働者の意見は、人員削減を計画している企業を取り巻く内外の社会的環境に強い影響力を及ぼす。

こうした事実に基づいてみると、この種の労働力余剰問題に関する取扱方法は殊のほか重要である。というのは、かかる従業員の態度や反応は、当該企業社会に残留する労働者の態度にも強く影響するばかりでなく、その企業が属する社会的・経済的環境下にある当該企業の社会的責任が試される(当該企業の事業活動に対して何らかの利害関係を有する第三者の見方)ことによって、その企業の労働市場における立場にも強く影響するからである。企業の人材政策戦略というものが、中核的な労働力にふさわしい人達の将来形成に関連性があるということはきわめて重要な問題である。

企業の技術的変化あるいは再編成(企業基盤の再構築)が必要になる場合に目標となる人材政策は、余剰労働力を様々な方法を用いてうまく処理することである。その企業の現在と将来的な「イメージ」にとって決定的に重要なことは、余剰従業員の問題を取扱う人材管理の公平で正しい態度である。最近、ある革新的な形態による諸計画案が、企業レベルの労使関係の慣習に適用された。以下に示す事例によって、先導的な大企業が余剰労働者に対する「値踏み」または「再雇用」を容易にするために用いている手法または慣習について説明したい。

オイル・コーポレーションMOLCo.の事例

ハンガリー最大の精油販売会社の「再雇用」の実務に助力しているカウンセリング・サービスを担当する心理学者の意見によれば、余剰従業員に対する最も難しい問題は、心理的な健全性と誠実性を保つための助力方法だとしている。

余剰従業員を対象とする個人的なカウンセリング・サービスは、雇用変化の初期的段階、すなわちその人の態度ややる気を確認して新しい職歴開始方法を勧告する必要がある場合には、格別効果的である。例えば、オイル・コーポレーション社が最近考えだした「チャンスプログラム」と称する計画がそうである。この計画の最初の部分は、「専門職への誘導計画」を開発することと、それに加えて配偶者(または配偶者以外の家族)に対する特別なカウンセリング・サービスを開発することを狙っている。この「チャンスプログラム」計画の参加者が、自分達の将来的な雇用について何らかの考え方を展開しようとしている場合に、この会社の人材管理者はその人の願望とか決意を支えるための支援またはその支援に必要なものは何かを割り出そうとする。

以下に示す幾つかの手段は、新規雇用先を模索中の人に対する支援策である。

  1. 新規雇用先の探索または探し方に関する技能を開発すること。
  2. 新規事業活動の立ち上げ方に関する基礎知識に関する研修会を組織すること。
  3. 小規模投資活動の始め方に関する金融知識を学ぶために高齢の従業員に相当な銀行貯金をさせる手助けをすること。
  4. 旧式な技能との比較において、労働市場の必要条件の変化に合わせて一層の満足または一致を可能にするような新しい技能を伸ばすために、訓練研修に助言しこれを組織すること。

上述したオイル・コーポレーション社の現段階における「チャンスプログラム」では、企業運営に責任のある人材管理者を対象に訓練研修が開始されたばかりである。この企業の人事部長の財政負担に関する予測によれば、余剰従業員に対する専門的な再訓練費用は、再訓練に参加する従業員1人当り11万円になるとしている。

デュナフェール(スチール)ホールデング・カンパニー社の経験

デュナフェール(スチール)ホールディング・カンパニー社は再就職の斡旋に5年の経験がある。5年前に、この会社が失業者の救済を目的とする国家の「連帯基金」に拠出する財政負担率を2%引き下げた際に、最高経営陣は「鉄鋼雇用財団」と称する新財団の創設を決めた。

この財団の目的は、技術革新や作業組織、鉄鋼生産の費用効果に対する改善効果の減衰によって生じた余剰従業員の救済におかれた。「鉄鋼雇用財団」の創設に当って、経営側は労働組合側と以下のごとき協定を締結した。すなわち、1992年制定の労働法で規定された、全国的な退職手当の支給水準を上回る19カ月という最高水準を3カ月分引き下げるとする協定である。

これによって、該当する従業員は16カ月分の退職手当の受給資格があることになる。この場合の該当者とは「鉄鋼雇用財団」の業務範囲内で提供される新規雇用(または雇用機会)に就くための再訓練計画、あるいは救済計画に全く参加する興味がないかそれを望まない人達のことである。余剰従業員を対象とする当該財団の支援形態は以下の通りである。

すなわち、

  1. 訓練および再訓練研修
  2. 人材のリース・サービス
  3. 訓練研修と人材リースとの組合せ

余剰従業員が参加する第1段階では「鉄鋼雇用財団」による支援期間は1年とするが、さらに6カ月間延長することができる。過去5年間における大半の余剰従業員は、どいらかといえば雇用に関する「財政的支援策」の利用を選んだ。というのは、「鉄鋼雇用財団」と余剰従業員との間で締結された全契約件数のうちの60%がこの種の支援を求めていたからである。この種の支援策に関する人気は以下によって説明できそうである。

つまり、仕事を続けながらこの基金の財政支援を受ける人は、前職給与の100%を受ける資格があるが、その反対に「鉄鋼雇用財団」の訓練または再訓練に参加するだけの従業員は、一般的に前職給与の80%を受けるということである。「人材リース」計画に参加する余剰従業員にとって給付条件以外の魅力としては、余剰従業員の関心がいままで通りデュナフェール(スチール)ホールディング・カンパニー社の従ニ員のまま会社に残留するという点である。

こうした雇用継続性は労働者にとって多くの利点がある(例えば、退職手当や各種の社会福祉手当など)。訓練や再訓練に参加することに熱心な従業員の場合、その人の能力、技能、やる気といったものはこの訓練に参加する前に試されることになるが、参加することによって、古い知識を更新したり新しい技能を身につけることになる。2年間の訓練期間に、参加者は新しい技能や専門知識を学ぶだけでなく、新しい雇用先を見つけるための支援を受けるようにもなる。こうした関連性において、自ら事業活動を始めようとしている従業員は、その事業に必要な関連知識(例えば、会計、財務、マーケティング)を身につける機会を掴むが、さらに会社側が事業の立ち上げに財政的な支援までする傾向があることも説明しておかなければならない。

以下の事例については注意を要する。それは、企業の健康管理業務の再編成に関連して相当数の看護婦が余剰人員になった事例である。

余剰になった看護婦は、「鉄鋼雇用財団」の活動範囲に属する「社会児童介護サービス」と称する新たなサービス業務を開設する機会を掴んだ。この「社会児童介護サービス」という業務は、この会社の正社員の病気の子供達のめんどうを勤務時間内に無料でみることができるというもので、こうした子供達の親は、仕事を続けることができる上に病気休暇を取らないですむというわけである。「社会児童介護サービス」は、当該サービス業務にとって将来的にはその対象となり得る大勢の老齢で退職した旧従業員をこの鉄鋼会社が抱えているという事実からして、将来的には重要な役割を果たすことになるだろう。

余剰看護婦はこの「鉄鋼雇用基金」の適用を受けてからすでに2年を経過していることから、以下に示すような興味深い事実を強調してもよさそうである。つまり、余剰看護婦が必要な技能を適切に学んだだけでなく、将来の潜在的な顧客ネットワークを作り出す機会を得たということである。「鉄鋼雇用財団」によるこうした2年間の準備期間が過ぎて、会社側は余剰看護婦の新たな将来的活動に必要な整備基盤の創設に備えて財政的支援を供与しているところである。この鉄鋼会社が所有する店舗やドラッグストアは、いってみれば「培養器」の機能と同じような機能を果している。というのは、こうした店舗の余剰従業員も、サービス部門で新しい職歴を準備する方法を学んだり、あるいはサービス部門で独自に小規模な事業を起こすやり方を学んだりしているからである。

最後に、以下のごとき現実的な注釈を付けておく必要がある。それは、上述した「鉄鋼雇用財団」の加入者になることは、余剰従業員にとっては生易しい決断ではないということである。というのは、財団に加入するには鉄鋼会社側との雇用契約を期間を確定せずに解約する必要があるからである。しかし、この財団に統合されたことによって、長い歴史のなかで初めて心理的・社会的ショックを被った従業員の大半も、「デュナフェール(スチール)ホールディング・カンパニー社」が提供する新しい変化がもたらす可能性に満足し、やる気を感じている。

1999年9月 中欧・東欧の記事一覧

関連情報